うきうき短編ノベルズ
『クローン・ヤクザ』
by 浮世絵太郎(3.6. 1997)
京都市内の某ヤクザ団体の親分、久米島団三郎(五三歳。仮名)には敵が多い。この道一筋の強者とは言え、命を狙われつづけるのにさすがに疲れ、己の影武者を用意することに決めた。
だが、なかなか相応しい人間が見つからなかった。探しはじめて一年が過ぎ、もういい加減諦めようかと観念しかけたとき、飛び込んできたニュースに団三郎は手のひらをポンと叩いた。
「クローンや! クローンなら姿形が瓜二つの影武者がでけるで!」
麻薬と銃器の密売で稼いだ豊富な資金、そして商売がらの強烈な威嚇技術を駆使して、ついに団三郎は世界初のクローン人間を誕生させた。その名は、団三郎’(だんざぶろうダッシュ)。
だが、団三郎’を初めて見たとき、その予想外の姿に団三郎は驚き、激怒した。当然と言えば当然なのだが、団三郎’は、生まれたばかりの赤ん坊だったのである。
「赤ん坊が影武者になるか!」
激怒のあまり研究者を殺害しかけた団三郎だが、団三郎’の泣き声に驚き、怒りの矛を収めた。
「団三郎’には堅気の道を歩かせてやりたいもんや」
という仏心が不意に目覚め、団三郎’の前で修羅場を演じることをためらわせたのだ。
今、団三郎は団三郎’を堅気の親戚筋に預け、ホームビデオでその成長の過程を眺めてはニコニコしている。時に自ら引き取り数日間世話をすることもあり、そのたびに、
「わしってこんなに手のかかる赤ん坊やったんやろか」
今は亡き親の苦労を偲び、親の愛の深さにしみじみと感じ入っているという。
キーワード
クローン是か非か?
クローンについて考えてみた
クロ−ンと言えば、「龍角散。」
ではなく、
悪の銀河帝国が共和国軍を打ち破ったという「クロ−ン戦争」を連想してしまう私は言うまでもなく『スター・ウォーズ』の大ファンだ。
「クローン戦争」の実態は映画ではまだ語られていないが、関連ノベルズなどから想像するに、
「善のジェダイ騎士たちのクローンが悪玉となり大暴れした戦い」
の線が濃いようだ。(本ページの執筆から3ヵ月が経った6月17日、『特別編3部作』のパンフレットを見たところ、この推察はどうも間違いらしい。いや〜、まいった、まいった。)
そうそう。今思い出したが、帝国軍の装甲兵士たちもクロ−ンの集団だった。
そんなところから私には「クローン=悪玉」の先入観があり、羊のクローンだとか牛のクローンだとか、挙げ句の果てには猿のクロ−ンが誕生したなどというニュースを聞くと、
「よし! 悪の軍団に負けぬよう、ますます我輩の善の力を強めねば」
などと力んでしまうのだが、よくよく考えれば、クロ−ンであろうとなかろうと、そいつがいいヤツになるか嫌なヤツになるかは、育った環境や人間関係に左右される部分が大きいはずだ。クロ−ンだって愛情一杯に健全な教育を受けて育てばすごく立派な善人になる可能性がある。だいたい人間は日々成長し、変わっていくものなのだから、クロ−ンと言うだけでいきなり悪玉扱いしては可哀相だし、理不尽でもある。
まあ、団三郎親分ほど人間のできていない私の場合、もし自分と同じ遺伝情報を持つヤツが目の前にいて、しかもそいつが自分より幸せそうだったりカッコよかったり賢かったり性格が良かったりしたら、ムカムカと苛ついてきて、そいつに意地悪く当たってしまう恐れがある。自分よりカッコ悪かったりマヌケだったり不幸だったりしても、あるいは私とほとんど同じ境遇だったとしても、それはそれで苛々の種になる気がする。そいつが一卵性の兄弟だとしてもそうだろうし、誰かがわざわざ作った私のクローンだったりしたら尚更だ。案外ジェダイ騎士団も、このような苛々が原因で癇癪を起こし、その隙を悪の軍団にしばかれて滅んだのかも知れない。
あれ? それってつまり、私が悪玉でクローンの方が善玉、って事態も十二分にあり得るってことか? クローンの方が皆に好かれて、元の私が嫌われて疎外されて、という悲しい事態に打ちのめされる私、なんていううすら寒いシチュエーションも出現するかも知れないってことか……。うーむ。
こんな悩みの種が増えずにすむよう、やっぱり人間のクローンは作らない方がいい気がする。「神への冒涜」かどうかなんてことには関係なく。そう思わない?
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