21世紀に向けた教育の在り方に関する提言

1996.10.15

 高校・大学入試制度の改善は,現在の学校制度・様式で教育を行っている限りは困難である。これらを根本的に改善していくべきである。そのためは21世紀初頭に実現するであろう高度通信社会における様々な技術を積極的に活用していくことが重要である。これらの技術を活用するためには,4つの要素がそれぞれ十分機能しなければならない。4つの要素とは,ハードウェア(コンピューターおよびその周辺機器),ネットワーク(イントラネットとインターネット),ソフトウェア(教材・学習支援システム・学習履歴管理システムなど),人(教師)である。それでは,1つ1つの要素をどのようにしていかなければならないかを述べる。

1.ハードウェア

 まず,パソコンは完全に子供1人に1台があてがわれることが不可欠である。現在のように1つの学校に20台とか40台ということではなく,本当の意味で1人1台,いつでもどこでも,まるで教科書や文房具のように自由に使えるようにする。パソコンは,将来的にどんどん安価になるであろうし,現在研究されている「ネットワーク・コンピューター」を実用化できれば,さらに安価になり,教科書の無償給付制度のように,全員にあてがうことは,決して無理なことではない。

 1人1台,パソコンが利用できることにより,子供は,まさに関心・意欲のおもむくままに,自分のしたい勉強を,自由にしていくことができる。個々の経験・能力に適したペースで,個性に応じた学習過程を経て,学習を進めていくことができる。その際,重要なことは,現在の学習指導要領のように学習内容が必要十分条件として定まっているのではなくて,最低限必要な知識を得た後は,自由に好きなことを学習できるようにするのである。これによって,子供は,のびのびと,自分の個性と能力をのばすことができる。現在のように,1つの教室に,40人もの同年齢の子供をつめこんで,同じ教科書で,同じ内容を学習するというスタイルでは,個性をのばす教育は困難である。

2.ネットワーク

 まず,子供全員のパソコンが,学校内のホスト・コンピューターに接続されていること,校内においてはイントラネット,校外に向けてはインターネットに接続されていることが必要である。これによって,子供は,校内の教師・友人はもちろん,校外の様々な人や情報源と交信することが可能になる。ただし,外界の膨大な情報源のどこにアクセスすればよいかを示唆し,逆に子供にとって望ましくない情報はシャットアウトするために,校内のホスト・コンピューターにおけるナビゲーション・システムを活用する。また,このホスト・コンピューターには子供の全ての学習履歴を記録させる。その子供が,何に関心を抱き,どのような能力を,どの程度身につけてきたかを,すべて監視・記録するのである。また,子供の自主的な学習活動が,あまりにも偏りすぎないように,適当なアドバイスを出す機能も持たせる。

3.ソフトウェア

 まず,教材用ソフトウェアであるが,これは,子供が新たな学習行動を起こそうとする度に,ネットワークを通して,個々のパソコンに送り込まれるようにする。教材用ソフトウェアについては,民間もしくは公立のソフト開発機関で開発する。既存の教育用ビデオ教材等もデジタル化し,子供のリクエストに対して,すぐに視聴できるようにする。子供が系統的かつ能率的に学習できるような学習支援ソフトも重要である。これは子供と直接,対話する部分であるから,年齢に応じて親しみやすいデザインにする。学習の進行状況および何が十分で何が不十分であるかが,子供自身にも明瞭にわかるようにする。

ネットワークのところでも述べた学習履歴管理システムも重要である。1人1人の子供の学習状況を精密に記録し,学習支援ソフトと協調して,子供の個性・能力をのばす役目をする。また,これが後で述べる入試改革の決め手ともなる。

4.教師

 さて,こうしたコンピューターとネットワークが完備された学校においては,教師の役割も現在とはかなり異なったものになる。40人の子供相手に一斉授業するのではなく,5〜20人ぐらいの子供を,教えるというより,子供の自主的な学習を側面から援助する。また,現在のように年齢だけをもとにしたクラスではなく,年齢をこえて,興味・関心の共通するグループを作り,その内容に適した教師を担任として配置する。いわば,現在の大学のゼミナールに近い形態にするのである。教師の役割としては,そういった学習の側面支援に加えて,コンピューターとネットワークのみでは解決できない問題,悩みの相談,人生全般に関するアドバイス,進路に関するアドバイスを行う。グループ内の人間関係作りや調整,社会ルールや道徳といったものを教えることについては,これまでと変わらない。

 

 さて,それでは,入試制度はどのようにするべきかを述べる。

 まず,これまで述べてきた新しいスタイルの学校もしくは教育システムが実現されれば,現在のように毎年度末に行う入学試験,つまり,同じ時期に同じ年齢の子供に対して一斉に行う学力テストというものは無意味になる。なぜならば,個々の子供が,それぞれ,自分の得意とする分野で,自分の個性・能力を高めてくるのであるから,同じ土俵上でテストを行うといったこと自体が不可能になる。そこで,前述の学習履歴管理システムが,ものをいうのである。

 その子供が進学を希望した時点で,随時,その子供のそれまでのすべての学習履歴をもとに審査を受けるのである。そして,その子供が,その上級学校での学習に見合った適正と能力を有すると判断された場合に進学が許可されるのである。当然,年齢に関係なく,どんどん上級学校に進む子供も出てくるだろうが,それはそれで良しとするのである。

 

 まるで夢のようなことばかり,述べてきたかもしれないが,子供の個性を尊重する教育の実現と入試制度の根本的改善のためには,この方法しかないと考えている。提言を要約すると次の通りである。

@ 子供1人が1台のパソコンを使用できる学習環境を整備する。

A 子供のパソコンは,すべて,校内のホスト・コンピューターにイントラネットによって接続し,さ

 らにインターネットによって外界にもアクセスできるようにする。

B 教材用ソフトウェアは,民間または公立のソフトウェア開発機関に開発を委託し,ネットワークを

 通じて随時利用できるようにする。(既存のビデオ教材などもデジタル化し,利用可能にする。)

C 学習支援ソフトウェア,学習履歴管理システムを開発する。

D 興味・関心または学習対象をもとにした,5〜20人ぐらいのグループで学習を行うようにする。

E 上級学校への進学は,子供が希望する時点で,随時,それまでのその子供の学習履歴によって審査

 されるという制度に変える。

以上

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