1996.7
パソコンの普及とインターネットの発達は,まず,社会そのものを大きく変える。現在の技術の1つ1つが進化を遂げ,今までには想像もできなかったようなことが可能になる。
インターネット上に仮想の社会が構築され,人々は家庭のパソコンから,アクセスすることにより,生活の大部分をそこで過ごすようになる。会社員は,自宅から仮想の会社に出勤し,そこでほとんどの仕事をこなす(SOHO)。商売人は,仮想の街の中に店を開き,そこを訪れる人々を相手に商売を行う。金銭のやりとりには,すべて電子マネーを用いる。街の中には,当然,銀行も存在する。企業内もしくは企業間の商工業活動も,そのほとんどがこの社会の中で行われる(CALS)。ビジネスだけではなく,人々のコミュニケーション,あるいは種々の娯楽まで,多くの部分がこの社会の中で行われることになる。
インターネットは,日本国内にとどまらず,全世界を結ぶ通信網であるから,現実社会の変化を促す様々な要因は海外からも押し寄せてくる。人々は,世界中に友人・知人を持つようになり,文化・政治・経済あらゆる情報がどんどん入ってくる。このことは,日本の今までの常識・習慣から,道徳・倫理観にまで大きな変化をもたらさずにはおかない。ことばの問題にしても,現在の翻訳ソフトの進歩の速さからして,近い将来,障壁とはならなくなる。
これまで述べたような社会が現実のものとなるのは,いつごろのことであろうか。
まず,インフラの面では,各家庭にまで光ファイバー・ケーブルが引かれなければならない。郵政省の計画では,「2000年までに各県庁所在都市,2005年までに人口5万人以上の都市,2010年までに全国の家庭に」光ファイバーを引く予定であるという。さらに,問題はむしろ,ソフトウェア面,とくに,法規制などによって実現の時期が左右されることになろう。しかし,とにかく,今後20年のうちには,実現する可能性が高いのである。
さてそれでは,そうした社会が実現したとき,教育は,あるいは学校は,どのようになるのだろうか。
現在の学校のスタイルは,基本的には,明治時代から変わっていない。毎日,学校という建物に登校し,1つの教室に,40人前後の同学年の生徒が居て,1人の教師の指導で,教科書を中心とする同じ内容を,同時に学習するのである。もちろん,このスタイルでこれまで,十分に成果を上げてきたし,このスタイルの中での,様々な改良・工夫がなされてきたことはいうまでもない。しかし,これからの社会の変化に対応して,この学校のスタイル自体も大きく変化するにちがいない。
まず,コンピューターが,本当の意味で,生徒1人に1台があてがわれることになる。それを,教科書・ノート・文房具の感覚で使用するのである。生徒1人に1台など資金面で無理と思われるかもしれないが,現在研究されているネットワーク・コンピューターが,普及すれば,十分可能になる(NCとイントラネット)。
そして,個々に異なった内容を学習することになる。学習教科は,生徒の関心・興味にまかせて,学習進度も,理解の早い生徒はどんどん先のことを学習し,遅い生徒は,その子なりの進度で学習していく。1つのことを学習するのに,多くの回り道をすることもできる。インターネットを通して世界につながっているので,教科書やテレビなどでは,知り得ない様々な内容も,自発的に学習していくことができる。また,国内はもちろん,海外の友人とも,共同で学習していくことも可能である。
生徒の学習履歴は,親コンピューターが,管理する。基本的には,学習内容は生徒個々が自主的に決めていくのであるが,偏りが大きくなりすぎないよう,常に学習状況を監視し,ときどき現状に適した学習内容の指示をしてくれるのである。
学習評価は,学習を進める中で,常になされることになるので,一斉テストなどは必要がない。したがって,生徒は,のびのびと自分の能力・個性に応じた学習を進めていくことができる。
現在の入試制度も変わることになる。同一時期に,同学年の生徒を対象とした学力テストではなく,その生徒のそれまでの学習履歴をもとに,随時,より専門化された上級学校の審査を受け,進級・進学するのである。最終学校を卒業し,企業などに就職する場合にも同様のことがいえる。その生徒が何に,関心を持ち,どのような学力を身につけてきたかということのみが,審査される。また,学校へ行きながら仕事をする,逆に仕事をしながら学校へ行く人も増加する。そこには,学歴社会も受験地獄も存在しない。
こうした教育システムにおいては,当然,教師の役割も大きく変わることになる。一斉授業ではなく,少人数の生徒を相手に,ときには通信を利用して,生徒が,より効果的に学習を進められるように,側面から援助をすることが主な仕事になる。コンピューターが相手では,解決ができないような問題,悩みの相談,人生全般についてのアドバイスなど,心に関するケアも行う。その場の仲間との人間関係作りや,現実社会およびネットを通しての仮想社会のルールなども教えることになる。もちろん,実技の必要な学習内容については,直接,指導を行う。
パソコンと通信を利用した学習システムは,まず,先進的な塾や予備校,あるいは私立学校が,導入してくるであろう。海外で,画期的な教育システムが開発され,日本の生徒が仮想留学をするというようなことも,十分考えられる。また,パソコンとインターネットを利用した場合に考慮しておかなければならない,マイナスの要素もたくさん存在する。
「敵に勝つためには,まず敵を知れ。」で,多くの教師が,パソコンとインターネットに実際に触れ,その可能性を考えること,そして,新しい教育システムの構築に,現場の教師の意見がどんどん取り入れられなれけばならない。
参考資料 文部省 審議会答申
第3章 情報化と教育 より抜粋<1> 情報化と教育
情報化の進展は、今、新たな段階を迎えつつある。既に我が国では、企業活動、研究活動から教養文化活動、娯楽の世界まで、社会のあらゆる分野に情報化が浸透し、情報化社会と言われるにふさわしい社会を迎えているが、今日見られるインターネット、マルチメディアー体型のパソコン、携帯電話などの普及は、想像をはるかに超えて我々の生活様式をさらに急速に変えつつある。
世界的規模での情報通信ネットワークを通じて、不特定多数の者が、双方向に文字・音声・画像等の情報を融合して交換することを可能とする高度情報通信社会が現実のものとなりつつあり、それはかつての産業革命にも匹敵するような変化を全地球的にもたらし、今後の社会の姿を大きく変え、21世紀へ向けて新たな展望を開くものとして大きな期待が寄せられている。高度情報通信社会の全体像については、今後の技術革新や基盤整備の動向によっても左右され、なお明確でないところがあるが、情報化が、さらに急速に進展することは確実である。
情報化の進展は子供たちの教育にも様々な影響を与えている。
まず挙げられるのは、子供たちが様々な情報手段から入手する情報量の膨大さと内容の多様さである。もちろん個人差や学校段階によって違いはあろうが、量的には学校教育を通して提供される情報を凌駕し、またその内容は学校の授業で学ぶものよりも子供たちの興味や関心を大いに引きつけるものが少なくない。
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次に、コンピュータの普及は、ソフトウェアの開発とあいまって、子供たちの個別的な学習をより可能とするとともに、多彩な教材を提供することなどによって、子供たちの学習の在り方により多くの可能性を与えることになる。 様々な方法によるコンピュータの活用は、既に我が国の学校教育において広範に見られるものであるが、コンピュータの普及とソフトウェアの開発がさらに進めば、コンピュータが、教員の役割を補完して、一人一人の子供の特性等に合わせた個別指導を徹底して行っていくといった学習の在り方が、学校教育の中でさらに充実していくこととなろう。こうしたコンピュータの活用は子供たちの学習の改善・充実に大いに資するものと考えられる。
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情報通信ネットワークの普及により、学校はその学校の置かれた地理的環境にかかわりなく、必要とする情報を迅速に入手して、指導の場面に生かしていくことができる。インターネットなどを活用すれば、その範囲は国内にとどまらず、一挙に世界に広げることができるのである。このことは、子供たちの学習素材を豊かにし、子供たちの興味や関心を広く豊かにすることに大いに資するであろう。また、情報通信ネットワークの活用によって、学校は必要な情報の収集、情報交換等を適時に行い、遅滞なく必要な措置を講ずるなど、学校運営の改善・充実にも寄与するところが非常に大きいものと考えられる。
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加えて、我々は、ここで情報通信ネットワークの活用について提言したい。
高度情報通信社会は、コンピュータを単体で活用するのではなく、それらが情報通信ネットワークによって一体となって機能するところに、その本質があるのであり、我が国社会全体は、既にその方向に向かって急速に前進している。 現在、初等中等教育の関係では、インターネットを活用した教育や光ファイバー網を活用した教育について、研究開発が進められているが、これらの研究成果や我が国における情報通信ネットワーク環境の整備状況などを踏まえつつ、初等中等教育段階での情報通信ネットワークの活用を本格的に進めるべきである。 情報通信ネットワークの活用は、一つの学校の枠を越えて、様々な学校や地域との情報の共有・交流を可能にし、学校がそれらとの連携の下に教育活動を展開することを可能にするものであるから、子供たちに豊富な教材を提供する上で、また子供たちの学習の対象を広げ、興味や関心を高める上でその効果は極めて大きなものがあると考えられる。例えば、他の学校とネットワークを結ぶことによって、様々な情報交換を行うことなどは、日常のありふれた活動となるであろうし、時には合同授業を実施することも考えられるであろう。これらの試みによって、子供たちの世界は大きく広がっていく。社会教育施設や文化施設、大学、関係行政機関等とネットワークを形成することも意義のあることである。博物館、美術館、図書館、大学等は子供たちにとって魅力のある教育用素材の宝庫であり、これらの素材の情報データベース化を進めるとともに、これらを情報通信ネットワークを通して授業に活用することは、子供たちの学習に対する興味を大いに高めるであろう。国際理解教育や環境教育も情報通信ネットワークの対象を世界に広げることによってはるかに豊かな充実したものになっていくであろう。 こうした学習を通して、子供たちは、自らの情報発信能力を高めることの必要性を実感するであろうし、教室の授業だけでは得られない感動を覚えるであろう。子供たちの興味や関心の対象は、意図すると否とにかかわらず、国内外の様々な社会や人々へと広がり、これにより子供たちの視野が大きく広がっていくものと考えられる。
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情報通信ネットワーク環境の整備の在り方としては、近い将来、すべての学校がインターネットに接続することを目指しつつ、当面は、全国の幾つかの地域の学校にネットワーク環境を整備し、インターネット利用の実践研究を積極的に実施し、その成果等を踏まえながら全国に広げていく方法が適切と考える。
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また、21世紀には、光ファイバー網や衛星通信等の高度情報通信ネットワークが、一層普及していくとともに、さらなる技術革新によって、ネットワークの新たな形態での活用が展開されていくものと考えられる。このような点についても、今後の動向を見据えつつ、教育における活用の在り方について、さらに積極的に研究開発に取り組んでいく必要がある。
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ここでは、我々はそのような教育活動を展開していくためには、学校自体が高度情報通信社会にふさわしい施設・設備を備えた「新しい学校」になっていく必要があることを指摘したい。 学校、とりわけ初等中等教育段階における学校の情報通信関連施設・設備の現状は、高度情報通信社会への対応という点で必ずしも十分とは思われない。そうした学校の状況を改善していくことが、子供たちの教育を充実させることにつながっていくのである。<2>や<3>で述べたコンピュータやネットワーク環境の整備等をはじめ、学校の施設・設備全体の高機能化・高度化を図り、学校全体を高度情報通信社会に対応した機関にしていかなければならない。学校、教育センター、大学等の教育関係機関はもとより、他の様々な機関、組織等とネットワークを形成し、情報収集の迅速化、学校運営や学校事務処理の合理化・迅速化等を図るとともに、適時、保護者、地域の人々、さらには広く社会に対し、自らの情報を積極的に発信していく開かれた学校となっていくことを強く望むものである。
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***** 後略 *****