「糸染めとお料理」

  当染工場は、主に帯になる絹糸を専門に染色しています。
現在、絹糸は国産・外国産と国籍は様々ですが、特に区別することなく天然繊維として取り扱っています。その絹糸の染色は、煮物料理に似ているので、皆様にも興味をもっていただけるかと思います。

 お料理の麺類にもそれぞれ種類があるように、絹糸にも太い糸・細い糸、撚糸、合わせ糸等、種類はたくさんあります。まず、お料理の下ごしらえの『ボイル』のように、絹糸も下準備として精練をします。精練とは、生糸を石鹸やソーダ等を入れたお湯を90度まで上げて炊き込み、生糸の表面に付いている膠質(セリシン)を取り除く作業です。すると光沢のある絹糸、普段目にしているシルクらしくなるのです。

 さて、ボイルを失敗してしまったイモにいくら味付けでカバーしようとしても美味しく食べられないのと同じように、精練むらのできた絹糸は、どんなに上手に染めようとしてもまだらになってしまうほど重要な作業なのです。

 染色では、お料理の調味料の代わりに、化学染料と助剤を使用します。お料理は調味料を入れて一煮立ちさせ、味見をしてさらに調味料で整えて仕上げます。同様に染め釜のお湯に染料と助剤を入れ、温度と時間の関係を管理しながら絹糸を操作し、色見本の色に合わせます。さらに、染料を追加しながら仕上げていきます。お料理と同じくこの作業にも、長年の感と経験が必要なのです。


     「お料理は、美しさと美味しさとしてできあがったものをいただきますが、
    糸染めは、絹糸を美しい色と風合いに生まれ変わらせる技術なのです。」

2000.8.25