日和サンダル


平成9年7月10日(木)天気:雨
 1年ほど前から、ircで「#にっき」というチャンネルに入り浸っている。当時は知る人ぞ知るボクの恋人も参加していたのだが、まあそれはどうでもいいとして、なんか急に日記を書いてみたくなった。
 さて、まずなぜ「日和サンダル」という題名にしたかということに関する説明だが、ボクが専攻している日本文学で現在研究中なのが永井荷風だからである。永井荷風は日記文学の頂点と言われる「断腸亭日乗」を書き続け、そして死んだ。
 永井荷風との出会いは、もう4年も前になるのだが、家を出て住み込みで新聞配達を始めたその場所が、東京の下町、墨田区の玉の井(現:東向島)だった。どこかでこの地名を聞いた記憶があったと思ったら、それは永井荷風の傑作「墨東綺譚」の舞台であった。
 そして、大学に入り特に何も考えていなかったのだが日本文学を専攻することになった。一時期、浮気もしたが、結局永井荷風を一貫として追い続けている。
 永井荷風の代表作に、「日和下駄」という作品がある。様々なテーマに分けて、東京を荷風が歩きそれを文章にしたためた散歩文学の一種である。そこらへんに生えている木から淫洞まで、荷風は歩くという作業を通して東京を見つめ続けた。
 ボクは散歩が好きだ。いや、もっと学術的に書けば「地域巡検」が好きだ。基本的に市内の移動は自転車を使い、たまに数時間かけて歩いて下宿に帰ったりする。お昼は自転車に乗って今まで行ったことのない道を通ってみたりする。
 そういうことをしていると、実におもしろい看板や地名によく出会う。最近一番おもしろかったのは、「天使突抜3丁目」だ。ヴィム・ヴェンダースが好みそうな地名だ。天使が空から雲を突き抜けて降りてきたのか?なんて思ったりした。調べたら、天使社というお社がかつてあったのだそうだが。
 というわけで、498円で買った便所サンダルを履いて、ボクは今日も街を歩く。下駄もいいけれど、深夜にこれを履いて銭湯に行くと帰り道の誰もいない通りに響いて鬼太郎を思い起こしてしまう住人も多いだろうから、サンダルを履いている。「日和サンダル」、である。