【発表メディア】 朝日新聞 1999年1月17日朝刊
信長の家臣で後に家康の天下取りに貢献した播州姫路城主・池田輝政
は、有能な人材集めに最大の情熱を傾けた戦国武将として知られている。
各地から有能な武士を探し出しては、希望の扶持(ふち)を与えて家
臣に登用していった。そのためにはとてつもない費用がかかるが、自ら
率先して質素倹約の暮らしを貫き、節約した費用でそれをまかなった。
自分の子供におもちゃさえ与えず、姫路五十二万石の当主でありながら、
その暮らしぶりはまるで二、三万石の小大名のようだったという。彼は戦
国の世が治まり“平時”になってからも優秀な人材集めを続けた。「大国を
治めるには、自分一人ではどうにもならないのだから」と。
今、日本列島を不景気風が吹きあれている。各企業はリストラに必死だ。
かつてに比べて就業チャンスが減っているのは事実だろう。だが、その一
方で、新たな採用を着実に進めている点に注目したい。つまり、企業はリ
ストラという名の「倹約」を進め、節約した費用で本気になって有能の士を
求めているとも言えるのだ。まさに池田輝政である。
高度成長やバブルの時代は確かにもっと多くの就業チャンスがあった。
しかし、その人の才能が本当に評価されての就業だっただろうか。唐の
詩人・白楽天がその昔、経歴や情実だけで人を用いがちな風潮に対して、
「才を量りて職を授ければ、すなわち政成り事挙がる」(その人の才能に
着目してそれにふさわしい「職」を与えればべての物事はうまくいく)と戒
めたように。会社に入ってもその人が生かされていないケースが少なくな
かった。
就職難のときこそ人材が生きる時代。白楽天の言う「人の才能がきちんと
評価される」時代がやっとやってきたのだ。「難」に直面して「闘志」と共に
「楽天」を見出したい。