さしみの法則

【発表メディア】出雲大社大阪分祠機関誌「ひふみ」1993年5月号初出 / 「ルネサンス」VOL.3(1998年6月)改稿採録


 五〜六月は進学や就職した人たちが最も悩みやすい時期。希望通り

の学校や会社に入れなかった人もいるかもしれない。そこで思い出す

のが、先日、日経新聞経済部のデスクをしている友人と旧交を温めたと

きに話題になった“さしみの法則”である。

 さしみの法則とは次のようなものである。

 どんな集団でも、構成される人たちは3・4・3の割合で分けられる。

「バリバリ働いて集団を引っ張っていく人」3割と、「普通の人」4割、そし

て「どちらかというと働かずに集団におんぶにだっこしている人」3割であ

る。3・4・3なので「さしみ」というわけだ。

 さしみの法則の面白いところは、例えば各集団から3割の「働かない

人」ばかりを抜き出してきて新しい集団を作ってみても、これがまた“さ

しみの法則”どおりの結果を示すところにある。“落ちこぼれ”のはずだっ

た人たちの3割が、見違えるようにバリバリ働いて集団を引っ張ってい

くようになるというのだ。

 働く人ばかりを集めて作った集団でも同じことで、優秀だったはずの

人たちのやはり4割が普通になって、3割はあまり働かなくなるという。

 この法則は本来、アリをはじめ動物界の集団を観察して認められた

ものだが、どうやら企業集団など人間社会にも適用できるらしいと彼は

言う。

 このことが何を意味するか。二つあると思う。

 第一は本来人間はみんな無限の可能性を秘めているということ。現

在ある集団で、ある能力しか発揮できていない人も、実は環境が変わ

れば見違えるように素晴らしい能力を発揮するかもしれない。潜在的

な能力に差はないというのだ。

 第二はどんな環境にいようとも、それがその人の能力開花にベスト

かどうかは一概にいえないということ。

 例えば、世間的に一ランク下と見られる集団(学校、会社)に入った

人がいたとしよう。でも、その方がその人の能力開花に大きく役立つ

かもしれない。さしみの法則による上位3割の働きである。

 逆に一ランク上の集団にいても、その中で下位3割に位置してしまう

と、本来開くべき能力が開かないかもしれない。昔の中国人が「鶏口

(けいこう)となるとも牛後(ぎゅうご)となるなかれ」といったのは、その

あたりのいきさつを述べたものだろう。

 もちろん、下位3割の「あまり働かない」部分に位置すること自体が

悪いわけではない。その場合、内部にある何かをじっくりと醸造する期

間として、とても大切な時期かもしれないからだ。

 神道で「人間は神の子」と教えているとおり、私たちは実は無限の可

能性を与えられいる(因)。それが環境(縁)によって現実の人生(果)

となっていく。

 「縁」は人智を超えた計らいによって、その人にとって最も適切な時期

に適切な形で与えられる。たとえそれが人の目でみて一見逆境に見え

ることであっても……。さしみの法則はそのことを教えてくれているよう

な気がする。

 だから、人生のどの段階にいても、自分にはこの程度の能力しかない

のか、と悲観することは一切ないに違いない。

 これを神への全託といえば難しそうに思えるが、さしみの法則の例を

通して考えれば分かりやすくなるのではないだろうか。

 


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