「皇統に属する男系の男子」の皇統に女系は含まない
〜第11章「皇室典範改正は急がねばならない」についての考察〜
----------小林よしのり----------
羽毛田長官
「皇位継承の問題があることを伝え、対処していただく必要があると申し上げたい。
皇室が安定的に続くかどうかという問題が存在するという意識は、
政権が代わっても相変わらず持っている」
八木秀次氏
「宮内庁長官の発言は普通には天皇陛下のご意向を受けてのことだと思われているが、
私なりのルートで確かめたところによれば、必ずしもそういうわけではない。
事務方は場合によっては手段を選ばず「大御心」をねつ造するのである」
(以下小林)
そもそも大御心を捏造までして、宮内庁や羽毛田長官に何とトクがある?
官僚といえば「事なかれ主義」とか「前例踏襲主義」とか言われるくらいなのに、
なぜそこまで典範改正を急ぐ必要を感じているのか?
(110頁)
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小林よしのり氏は『天皇論』で大きくページさいて
官僚による皇室祭祀の破壊につて批判していた。
具体的には「第6章皇室祭祀と三種の神器」、
「第12章学術を装った宮中祭祀廃止論の悪意」である。
そして、その時の宮内庁長官は羽毛田信吾氏でもある。
「事なかれ主義」、「前例踏襲主義」の官僚が、なぜそのようなことをやるのか。
そんなことをまったく考えずに、官僚のやることは裏がない盲信するのは、
あまりに単純な思考ではないだろうか。
----------小林よしのり----------
実際は、女系も皇統に含まれているのだ。
皇室典範の第1条を見よ。
「皇位は皇統に属する男系の男子が継承する」
明治の皇室典範でも、この規定の趣旨は全く同じである。
この条文は、「皇統」には男系・女系の両方が含まれるという前提の上で、
皇統に属する者のうち、男系男子が皇位を継承するとしか読みようがない。
「皇統」が男系のみならば、「皇統に属する男子」とだけ書けばよいことになる。
女系継承は、決して皇統の断絶を意味するものではない!
(113頁)
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この件に関しては、皇學館大学の新田均教授がすでに
決定的な論拠を示している。
枢密院議事録(明治21年5月28日)によると、
皇室典範審議の過程において、皇統と男系は同義反復になるので、
「男系の」の部分を削除するべきだとの修正案が出されたが、
議長の伊藤博文が
「自分たちの時代はともかく、将来に女系も含むというような意見が出て、
祖先の常道が否定されるようなことがないようにしておかなければならない」
と述べ、あえて同義反復の表現を残すことになったと記されている。
つまり、修正案の提案者も、議長である伊藤博文も「皇統=男系」で一致していた。
審議の過程では、女系も皇統に含むなどという意見を主張した人間はいないし、
皇室典範第1条の規定の皇統に女系が含まれないことは
完全なる立法意志であったことが明らかとなっている。
----------小林よしのり----------
結局のところ、「男系絶対主義者」からは、
「今までそれで続いてきたから」以上の理由を聞いたことがない。
(114頁)
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小林よしのり氏には保守としての時間の効力という概念がまったく欠落している。
人間の理性には限界がある。
だからこそ、世の中というものは、
新しいことを取り入れたり、不必要なことを捨てたりしながら、
時代時代で真剣に判断していくものである。
それが財産となって積み重なったのが伝統となる。
むしろ、おかしなことは絶対に長く続かない。
長く続いていることは知性を超えた意味が含まれている。
長き時代による取捨選択のなかで、男系子孫で皇位を継承するということは捨てずに、
ずっと継続してきたということに意義があるということができる。
小林よしのり氏は人間の知性と伝統の関係を
まったく理解していないということがよくわかる記述である。