皇室の正統性の有無を一世代の人間が決められるか
〜第12章「男系絶対に後退させる同調圧力」についての論評〜
----------小林よしのり----------
今現在、皇室という「聖域」でお育ちになった方々が
おられることこそが重要なのである!
なんでわざわざ「俗界」で生まれ育ち、
すっかり一般大衆化したタダの男を皇族にしなければならんのだ?
その男はレンタルビデオ屋でアダルトDVDを借りた記録を残しているかもしれない。
いかがわしい男女交際をしたり、人に金借りたりしてるかもしれない。
あとで続々と「俗界」の証言者が現れて暴露するかもしれない。
(123頁)
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上記の言葉はすべて女性皇族の配偶者にもそのまま当てはまることである。
単純に一方的な刷り込み論法である。それ以外に言いようがない。
----------小林よしのり----------
そもそも「男系優先派」は、いつから「男系絶対主義」になったのか?
例えば八木秀次氏は以前、こんなことを言っていた。
八木秀次氏「私とて、女性天皇に絶対反対ということではない。
男系継承という道を探して、万策尽きた場合には女性天皇も女系天皇もやむをえないと思う」
八木氏も「女系容認」ではないか!
他の保守系知識人も「男系優先・女系容認」だったはずなのに、
大衆運動を始めると「同調圧力」で、どんどん「男系絶対」に後退していった!
(123頁)
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私の知る限り、八木秀次氏の意見が変わったなどと聞いたことがない。
八木氏が述べる「男系継承という道を探して」というのは、
旧宮家の皇籍復帰も含まれているわけで、何ら主張の変遷など見せていない。
小林よしのり氏が述べる「男系優先」から「男系絶対」になったというのは、
具体的に何を指しているのか皆目理解できないし、意味不明となる。
----------小林よしのり----------
ただし、わしは指摘しておく。
「万策尽きたら女系容認」とは、
「万策尽きたら正統性のない女系でもいい。何だっていいや!」という意味になる。
女系天皇は、万策尽きた末の「やけっぱち天皇」か?
こんな不敬な話があるか!
(124頁)
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小林よしのり氏は伝統と理性の関係を
まったく理解していないことを物語る記述である。
話は少しさかのぼるが、小泉政権時に皇室典範改正論議が盛んだった頃、
テレビ朝日の「朝まで生テレビ」でも討論が行われていた。
その中で高森明勅氏が八木秀次氏に対して次のような質問をした。
「八木さんは、皇統が女系となった場合、正統性がないと考えるのか?」
私はこの質問を見たとき愕然とした。
たかだか一世代の人間の知性で、まったく新たな皇位継承方法について、
正統性があるかどうか判断できると考えているということだ。
これは完全に左翼の設計主義そのものである。
ただし、この時は悠仁親王殿下がご誕生されていなかった。
旧宮家の復活か、女系容認かという判断であった。
ところが、悠仁親王殿下がご誕生されているのに、
女系継承に正統性があると言い切ってしまうのは、完全な理性万能主義に他ならない。
例えば、推古天皇は、はじめての女性天皇となるが、
これは皇位がこれまで男性に限られていたということに対する一つの伝統破壊ともいえる。
しかしこの時代は皇位継承争いが激しく、
推古天皇が即位しなければ収拾がつかなかったというぎりぎりの判断があったと考えられている。
小林よしのり氏がいま、悠仁親王殿下の行く末を見守ることのできないぎりぎりの理由とは何だろうか。
そんなものがあるはずがない。
それにもかかわらず、いまこの時点で女系継承に正統性があると断言するのは、
自分の知性が絶対であるという理性主義であり、設計主義であるということだ。
私は仮に万策尽きて女系継承となった場合、未来の日本人が我々に対して、
「この時代の人たちは、皇室を残すためにぎりぎりの判断を迫られたのだ」
と認識されることで、新しい天皇に正統性をもたらすものである考える。
一世代の人間が理性により勝手に正統性があると判断しても、
次の世代の人間が正統性はないと判断すれば、それで終わりである。
これが理性主義というものだ。
誰が見ても「そうせざるを得なかった」ということこそが、
新しい皇位継承法に正統性を与えるのだということを認識しておく必要があるだろう。
----------小林よしのり----------
そもそも大御心が「女系容認」だったら、どうするんだ?
(中略)
わしは大御心が「女系容認」の可能性は十分にあると考えている。
(126頁)
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そもそも大御心が「男系」だったら、小林よしのり氏はどうするのだろうか?
歴代天皇がそうだったのだから、今上陛下も同じであるということの方が十分に考えられる。
小林よしのり氏自身も上の記述で
「女系容認の可能性は十分にあると考えている」と述べているように、
あくまで「十分にある」という程度である。
もし陛下の大御心が「男系」であるなら、皇位継承が「直系・第一子」になれば、
言葉が悪いですが陛下にとってこの上ない「地獄の仕打ち」となるだろう。
女系容認派の立場に立ったとしても、そのような可能性が残されている以上、
たとえ女系容認論であろうと本当に陛下に対する忠義の心があれば、
「直系・第一子」論は引っ込めなくてはならないはずだ。
小林よしのり氏は「男系論」のことを「やけっぱち女系容認論」というが、
百歩譲ってそれが正しいとしても、女系継承への道は残されているのである。
「直系・第一子」論は、いますぐに男系継承の道を閉ざすというものであるから、
陛下の大御心が自分たちの主張と違った場合、
取り返しがつかないのはどちらであるか、一目瞭然であろう。
----------小林よしのり----------
将来、女性天皇が結婚することになれば、
男(皇婿)は戸籍が消滅し、「姓」がなくなるのだから、
「易姓革命」など起こるわけがないではないか?
(125頁)
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皇婿の戸籍が消滅し、「姓」がなくなって完全に皇族になることができるのであれば、
何かの時は、その皇婿も即位できることになると言うのだろうか。
そんな馬鹿なことはないし、さすがに小林よしのり氏もそれには納得できないだろう。
戸籍が消滅することと、「姓」の観念が消えることは別だということである。
そもそも戸籍は人間が制定した法律制度であって、
法律制度により「姓」をなくせるというのは、完全な理性主義の「社会契約説」となる。
その時代に生きる人間同士の決定(契約)で、
皇位継承資格者をつくることができるという考え方になる。
こんな認識で二千年の皇統の歴史を語っているということを、まず恥じるべきではないか。