愛子殿下と旧宮家との比較は巧みな印象操作
〜第16章「リアルな皇統の危機とは何か」についての考察〜
----------小林よしのり----------
今上陛下が崩御され、現在の徳仁皇太子殿下が天皇に即位なさった場合、
現行の制度では、次の「皇太子」の地位に就くお方がいなくなってしまう!
皇室典範では皇太子とは「皇嗣たる皇子」、
つまり皇位継承順位第一位の、天皇の子と規定されている。
徳仁皇太子殿下が天皇に即位なさると、皇位継承順位第一位は秋篠宮殿下になる。
しかし、天皇の弟である秋篠宮殿下は皇太子にはなれない。
もちろん皇位継承順位第二位で、天皇の甥の悠仁殿下も皇太子にはなれない。
つまり、皇太子が空位になってしまうのだ!
我々は皇太子のいない時代に生きることになる。
このことは国民の皇室への関心や敬意を薄れさせる原因となるだろう。
(161頁)
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これは今にはじまったことではなく、明治の皇室典範制定以来、
そういった制度となっているのではないか。
仮に昭和天皇のところに男子が誕生されず、
弟宮の方々に男子がいっぱいおられたとしても同じことになる。
もともとそういう制度である。何という姑息なすり替えだろうか。
そもそも女系直系長子優先だって、お子様が生まれなかったら同じことになる。
ここを問題にするのなら、譲位の制度を復活させるか、
養子制度を認めるしかない。まったく別の問題を混同させている。
----------小林よしのり----------
敬宮(愛子)さまは今年9歳、悠仁さまは今年4歳になられるが、
どちらが帝王学を学ぶのかを早く決めなければならない。
(163頁)
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これはよく言われていることで、いつも不思議で仕方がないのだが、
帝王学というのは一人しか学んではいけないというルールでもあるのだろうか。
帝王学の重要性を説くのであれば、
皇位継承資格者全員が帝王学を学んでおく必要があるのではないか。
何かのきっかけで突如として継承する可能性があるのであれば、当然ではないか。
むしろその方が、皇室が盤石化する。
家産制度の概念だと、それがお家騒動の元になったりするのだが、
皇位は家産ではないので、基本的にお家騒動にはならない。
また、皇室典範により皇位継承順位もはっきりしていれば、まったく問題がない。
これも議論のすり替えである。
----------小林よしのり----------
こんな野蛮な風習を、21世紀の時代に続けてはいけない。
伝統は斬新的に革新するものだ!
(169頁)
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とうとう歴代天皇がやってこられたことを、「野蛮な風習」と言い放つ始末。
これが伝統に対する小林よしのり氏の考え方なのである。
これまで皇室に対して、「人権がない」、「野蛮だ、可哀想だ」、
「21世紀の時代に皇室は必要ない」と言ってきたのは左翼だ。
小林氏の思考回路は完全に左翼と同じになっている。
----------小林よしのり----------
皇太子という名称は特に男子を意味するものではなく、
歴史的にも女子が皇太子となった事実がある。
(169頁)
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歴史的に女子が皇太子となった事実は、阿倍内親王(孝謙天皇/称徳天皇)の一例だけとなる。
女性天皇は10代8人おられるのと、
一度きりで二度と現れなかった女性皇太子と同等に扱うことはできない。
保守思想でいえば、一度きりで二度と採用されなかったものは時間の効力(時効)にはならないからである。
いわゆる伝統ではないということだ。
二度と採用しなかったというのが先人たちの叡智となる。
一度しかない前例に安易に飛びつくことは、
先人たちの叡智をまったく無視するものと言わざるを得ない。
----------小林よしのり----------
旧宮家系の子孫男子も復帰できる者がいるならさっさと記者会見しろ!
仮にそんな人物が名乗りを上げたとしても、600年、20数世代、40親等も離れた、
もはや一般国民を、「直系の愛子内親王殿下よりも正統性がある」と、
国民を説得できるかどうか、やってみるがいい!
「どこの馬の骨だ!」と思われるのがオチだろう。
(165頁)
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愛子内親王殿下と旧宮家子孫を比較するのは、完全な印象操作となる。
愛子内親王殿下は歴とした男系子孫である。
本来、比べるべきなのは、神武天皇の男系子孫である旧宮家子孫と、
「どこの馬の骨」と愛子殿下との間に生まれたお子様との比較である。
女系皇族と男系旧皇族との比較であるべきところを、
愛子殿下と旧皇族との比較にすり替えて、
旧宮家子孫を下位に置くというイメージ操作を行おうとしているのだ。
将来における直近の皇位継承問題は、悠仁親王殿下のお子様世代以降のことになる。
つまり比較すべき対象となる方は愛子内親王殿下ではなく、
まだこの世に生まれておられないということだ。
小林よしのり氏は、皇統問題の本質をはぐらかした論理を述べているに過ぎないということである。
----------小林よしのり----------
有識者会議の報告書は、「女系容認」と共に「長子優先」と結論付けているが、
これも十分納得できる。
実はこの点は、わしと高森明勅氏や所功氏とは意見が違っている。
もし高森氏が主張するように、「女系容認、ただし直系の男子優先」であれば、
天皇の第一子が女子で、第二子以降に男子が生まれたら、
「皇太子の交代」という事態が起きてしまう。
第一子が女子だった場合、「暫定皇太子」のような不安定な状態になってしまい、
それが相当長く続くこともあり得る。
(中略)
それはご本人にとっても相当残酷なことだろうし、
国民感情としても、しこりが残るかもしれない。
やはり、安定的な継承を優先するならば、
「男女を問わず長子優先」とした方がいいとわしは思う。
(170頁)
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ここでは意識のなかに、もう伝統のかけらも残っていない。
小林よしのり氏は女系継承こそ日本的な家族のあり方だと述べるが、
我が国に第一子優先なる世襲方法など存在したことなどない。
「安定的な継承のため、その方がいいと思う」というのは、
完全に理性主義、設計主義の思考となっている。
それは小林氏の頭の中だけで考えていることであって、単なる机上の空論、空想である。
皇位継承法は、さしあたって伝統を尊重しなくてはならないのであって、
二千年の伝統は、小林よしのり氏の空想に従うような軽い存在ではないということだ。