竹田恒泰氏に対する言われ無き批判

     〜第17章「竹田恒泰の皇籍復帰はありえるか?」についての考察〜

 

 

----------小林よしのり----------

竹田氏は、旧宮家が頻繁に皇室から嫁をもらったり、

逆に皇室に嫁を送ったりしてきたことを強調し、こう言い出す。

 

竹田恒泰氏

「つまり、男系を辿ると何百年かさかのぼるかもしれないが、

実際には、近親関係を保ちながら、血のリレーの伴走者をしてきた。

それが世襲親王家なわけです。

ですから、何親等も離れているというのは、重要なことではありません」

 

(以下小林)

この「血のリレー」は女系のことである。

あれだけ否定していた女系の血を自分の都合のいい時だけ最大限利用するのだ。

(179頁)

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竹田恒泰氏の発言は、どう考えても血のリレーとは「皇位継承」であって、

伴走者は「世襲親王家」ではないか?

「血のリレー」が女系のことであれば、「伴走者」ではなく「当事者」であるはずだ。

「伴走者」とは、誰かにあわせて伴走する以外に使いようがない言葉である。

竹田氏が述べるのは、その時々の天皇の血筋と近親関係を保ちながら、

世襲による皇位継承という血のリレーを、宮家は一緒に伴走してきたということだ。

こんな程度のことを、いちいちかみ砕いて解説しなければならないほど、

小林よしのり氏の理解力・読解力は低レベルにあるということである。

 

 

----------小林よしのり----------

現憲法には前文のさらに前に、天皇の「上諭」があると指摘した。

そして、この昭和天皇の「上諭」を根拠に、実に奇妙な「現憲法擁護論」を行った。

(中略)

竹田氏はこれを根拠に、右派論客が主張する

現憲法無効論・破棄論は「天皇の御意思に反する」と発言!

当時の国会に自由意志がなく、連合国の思い通りにつくられた憲法だとしても、

天皇が公布されたという事実は重く、

「『現憲法無効論』は先帝陛下と今上陛下のお考えを否定することになる」と重ねて主張した!

 

おい、おい、アホかいな!?

日本国憲法の「上諭」は単なる公布文である。

(中略)

今だって、どんな悪法でも国会で成立すれば天皇は「裁可」するし、

誰が総理に選ばれても天皇は「任命」するのだ。

(中略)

こんな詐術で右翼に「現日本国憲法が大御心」だと思い込ませようとするとは、卑劣ではないか?

己れが「護憲派サヨク」なら、堂々、護憲の論理を述べればよかろう。

 

占領憲法を「国体」にしている人物を、

「改憲」を主張しているはずの八木秀次や保守系言論人が、

よりによって皇族に祭り上げようとしている!

これが今の「男系絶対主義者」のレベルである。

お笑いではないか!

(180頁)

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これは小林よしのり氏の無知蒙昧と頭の悪さを如実に表した記述である。

どこから説明したらいいのかというレベルだ。

まず小林氏は「現憲法無効論」と「憲法改正論」の区別をまったく理解していない。

「現憲法無効論」とは、占領期間中、主権のない時期につくられた憲法は無効であるということである。

一方で、「憲法改正論」とは、占領期間中にアメリカに押しつけられたということで不当ではあるものの、

憲法としては有効であり、即刻改正すべきという主張である。

この違いをお解りになるだろうか?

「憲法無効論」は、無効なものは永久に無効であり、現在は大日本帝国憲法が生きている状態である。

現憲法は暫定法規として機能しているに過ぎないという。

だから、新しい憲法を作るのであれば、大日本帝国憲法を改正するという手続になると主張する。

占領憲法を容認してはならない、

日本はあくまで大日本帝国憲法を改正して運用しなくてはならないということだ。

 

このような主張に対して、竹田恒泰氏は昭和天皇の「上諭」がある以上、

不当であろうとも憲法としては有効であると述べているのである。

そして、憲法改正論者は、その上に立って、

不当な憲法を日本人の手により改正しなくてはならないと主張しているのだ。

だから、竹田恒泰氏の主張と憲法改正論は何ら矛盾しないのである。

つまり、現憲法が法的に「有効」か「無効」かという議論であるのに、

小林氏はそのようなことを知らずに、竹田氏の言葉から「護憲」対「改憲」の話だと勘違いしているのである。

このことをふまえた上で、同頁欄外の記述を見ていただきたい。

 

----------小林よしのり----------

同じく竹田氏の発言。

「占領軍によって押し付けられた憲法としても

『天皇が公布した』という事実はそれ以上に重たいのです」

このような発言を八木秀次・小堀桂一郎・渡部昇一氏らは承認できるのか?

ここまで占領憲法絶対護持を明確にした者を皇族復帰させたいか?

(180頁・欄外)

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改正するかどうかという話ではなく、

現憲法はさしあたって有効であると竹田氏が述べていることに対して、

小林氏は「占領憲法絶対護持」と罵倒しているのだ。

あまりに恥ずかしすぎる批判となる。

"あとがき"によると『天皇論』は高森明勅氏が最終チェックしたようだが、

相も変わらず人が悪い。

高森氏はさすがにこの程度の憲法論議は知っている。

 

ちなみに、小林よしのり氏の竹田恒泰氏批判が的を射ているのであれば、

「現憲法無効論」に立つことになる。

そうなると、当然、現皇室典範も無効であり、

いわゆる旧宮家の皇籍離脱も無効ということになる。

小林氏の旧宮家に対する罵詈雑言を見れば、それはないだろう。

単純に「憲法無効論」と「憲法改正論」の違いを理解せず、

素人レベルの批判を行っていたということを証明している。

よくもまあこんなことも知らずに『戦争論』など描いていたものだと、開いた口が塞がらない。

 

 

----------小林よしのり----------

竹田氏が小学館経由で、わしに対談申し込みのメールを送ってきて、

それを見てわしは愕然とした。

 

竹田氏は、自分にとって男系さえ守れればいい、男系が途切れたあとに、

女系で繋ごうがどうしようが、その時の国民が決めればいい、

70年、80年先のことだから自分は生きていないと書いてきたのだ!

(中略)

これはもう…「皇室の弥栄」を願うわしの感覚とは完全にかけ離れている!

わしが対談に応じなかったのは言うまでもない。

(181頁)

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古いものを大事にするのは日本人の感覚である。

二千年続いてきたのであれば、せっかくだから続けていきたいと考えるのも、

日本人的な素朴な感情である。

どうしても続けることができないのであれば、その時に考えればいいのであって、

いまを生きる我々が率先して断絶させる理由はないというのが竹田氏の素朴な感覚であろう。

万世一系の皇室を、未来の日本人も受け継ぐ権利を持っている。

将来の人たちのことを勝手に心配して、我々の世代で好きなように変えて良いということではない。

将来の日本人にとっては「大きなお世話だ」ということになる。

 

子孫たちから「なぜ男系を続けてくれなかったのだ」と非難されることはあっても、

「なぜ女系にしておいてくれなかったのだ」などという批判はない。

女系はそのときにでもできるからだ。

将来の日本人に対して、我々はどのような責任を果たすかは一目瞭然である。

竹田恒泰氏はそのことを述べているに過ぎないということである。

 

 

 

 

 

 

 

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