「国体の安定」と「皇位継承の安定」の違いすら理解できないのか
〜第30章「櫻井よしこ氏、大原康男氏までもが、なぜ!?」についての考察〜
----------小林よしのり----------
大原氏は見逃せない嘘をついている。
伊藤博文の名義による公的注釈書「皇室典範義解」の一節を、こう言ったのだ。
大原康男氏
「蓋(けだし)皇室ノ家法ハ祖宗ニ承ケ子孫ニ伝フ、
既ニ君主ノ任意ニ制作スル所ニ非ス」(皇室典範義解)
つまり皇室の家法は祖先から、子孫に伝えていくものであって、
天皇の個人的見解において、もはや任意に変えたりすることはできませんとまで言っている。
(中略)
天皇自身の個人的な見解でも変えられない、
その一番中心はまさに、男系主義であると言わざるをえない。
(以下小林よしのり)
大原氏が引用した文章は、皇室典範を変えてはならなぬという意味とはまったく違う。
(中略)
つまり、将来、典範を改正せざるを得ない場合には、帝国議会には諮らなくていい。
祖先から受け継ぎ、子孫に伝える家法である以上、
時の天皇が、勝手気ままに変えてはいけない。
つまり改定するなら慎重にせよと言っているだけで、
決して変えてはならぬとは言っていないのだ!
(中略)
本当に皇室典範が天皇の意思でも変えられないのなら、
男系主義者が主張する「旧宮家の復帰」だって
皇室典範の改定が不可欠なのだから、これも不可能になるではないか!
大原氏、完全に破綻している!
(304-305頁)
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大原氏がインチキを述べているのではなく、
これは小林よしのり氏の歴史・伝統についての考え方が、
あまりに無知であるに過ぎないということだ。
まさに歴史・伝統に基づく「不文の法」と、
人間が制定する「法律」を区別できていないことを物語っている。
論敵の主張に反発するのはいいとしても、相手の主張の趣旨だけは理解するのが、
議論をする上での最低限のマナーである。
少なくともプロの言論人としては。
伊藤博文が大前提として述べているのが
「古くから伝わっているものなので、本来ならこういうことは文字にする必要などないものである。
もっとも個々の天皇が変えられるものではない」ということである。
つまり、大原氏が「皇室の家法」と語るのは、人間が制定できる「法律」ではなく、
古くから存在する「不文律」であるということを述べているのだ。
だから、「その一番中心はまさに男系主義であると言わざるをえない」と語っている。
大原氏は法律である皇室典範の「条文」を変えてはいけないなどと述べているわけではない。
伝統に基づく「不文の法」と「法律」の区別ができていないことの証明である。
-----------小林よしのり----------
(櫻井よしこ氏)
「制度として安定したもの」として有識者会議の方たちは女系をOKとしたわけですけれども、
女系であって本当に制度が安定するのか大いに疑問でありまして、
だからこそ今日、私たちはここに集って、いかに男系で続くのが大事かということをお話ししております。
(以下小林よしのり)
もうデタラメ!
これがあの櫻井よしこか?
男系の固執する者は、全員、思考が劣化していくな!
「必ず男子しか生まれなければならない制度」と、「男女どちらでもいい制度」の、
どちらが安定しているかなんて、小学生でもわかるではないか!
(307頁)
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「小学生でもわかる」ではなく、小林よしのり氏の頭が「小学生レベル」ということであろう。
櫻井よしこ氏が述べているのは、万世一系による継承が、
皇室の制度、国体そのものを安定させてきたと考えられるということだ。
歴史的に女系が容認されていれば、皇室が存続できたかどうかわからないということであり、
男系継承が皇室の安定に寄与したということである。
小林氏はそのようなことにも思いが及ばす、目の前の皇位継承制度だけに目を奪われている。
悠久の歴史に目を向けず、近視眼的に論じている証拠である。
----------小林よしのり----------
「傍系継承は前例があるが、女系天皇には前例がない。だから旧宮家復活」
これは男系主義者の決まり文句だが、デマに等しい。
第一に、傍系でも最も血が離れた例は継体天皇で、応神天皇の5世の孫。
これが唯一の例外であり、それ以外は全て3世以内である。
ところが「旧宮家」の子孫は、北朝第3代崇光天皇20世以上の子孫だ。
こんな前例はまったくない!
(308-309頁)
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女系天皇なるものは、何千年さかのぼろうとも一度も存在しない。
それはまったく問題にしない。
むしろ女系論を正当化するために使う詭弁が、
斉明天皇(母)から天智天皇(子)、元明天皇(母)から元正天皇(子)という継承は、
女系継承だということだ。
基本的なことを確認しておかなくてはならないが、血統には「単系」と「非単系」の2種類しかない。
「単系」とは父子一系か、母子一系の継承である。
母子一系はあり得ないので、単系は事実上男系継承のことになる。
皇統は血統であり、皇位を誰から受け継いだかということは問題ではない。
血統とは生まれたときに決まっていることであり、普遍的なものである。
皇位を誰から継承したという、生まれた後の外的要因で変化することはない。
皇統はこれまで神武天皇から父子一系の原則を崩したことは一度もない。
過去に一例もなかった非単系による女系容認と、
戦前まで皇位継承権のあった父子一系の旧宮家という選択肢について、
どちらを選択するべきかは一目瞭然である。