違法が合法に転換するとき
法学上、「違法」であった行為が途中から「合法」に転換することはあります。
ちょっと長くなりますが簡単に説明しますと、
ある人が詐欺にあって偽物の絵画を500万円で買わされてしまったとする。
詐欺なので売買契約を取り消すことができますが、
実はその絵画がもっと凄い人が作者であったことが判明し、
1000万円以上の価値があることが発覚した。
本当の価値がわかっても騙されたことには変わらないので
もちろん契約を取り消すことはできますが、
「そのままでいいや」と思った場合、取り消さないでいることもできます。
取り消し要因はあるが、取り消すかどうかは本人次第。
取り消した場合は、この売買契約は無効となりますが、取り消さなかったら有効。
当事者の意思に関係なく、自動的に取り消し・無効だということにはならないということです。
これが法理論です。
取り消さない場合は、通常、契約を確定させるために追認の意思を明らかにするものですが、
特に追認行為もせず、しかし、取り消さずそのまま使用すれば、
追認したとみなされることになります。
取消権を行使しなければ、その取消権も時効により消滅します。
これが「違法が合法に転換する」構図です。
最初に違法であった行為も、追認か時効により、
後で完全に合法となってしまうのです。
問題は違法が合法に転換しない「無効」です。
無効なものは追認することはできません。
無効なものは最初から存在しないので、追認することもできないのです。
無いものは追認できない。
「無」を「有」に転換できないという論理です。
詐欺などの違法行為の場合、さしあたり有効とみなし、
取り消すことができる扱いとなります。
取り消さなければ有効の推定が働きます。
追認した場合、最初から有効であったとみなされますが、
無効な違法行為では一切何も生み出されないので
追認もできないというのが無効理論です。
無効である行為の法的瑕疵は治癒されません。
ただし、民法や行政法の場合はそれでいいのですが、
憲法は法体系の頂点なので、憲法を縛る存在がありません。
なので、憲法の場合、無効な状態が発生した場合、「後法は前法を破る」の論理で、
違う性質のものが生まれたと考えるしかないのです。
「無」は「有」に転換されませんが、本来のものと異なる「有」が発生したと考えるのです。
帝国憲法改正が無効であるとするなら、「無」なので、
帝国憲法の改正物としての「有」は追認しても発生しませんが、
帝国憲法と関係のない日本国憲法という「有」が発生したという法学的な理屈は成り立つのです。
こうなると反対理論を形成するのは至難の業です。
治癒のできない完全無効を主張するならば、
「後法は前法を破る」を覆す法学理論を示すことができないと、
八月革命説に完敗することとなります。
とにかく無効論の立証は大変です。
日本国憲法(後法)が日本国の憲法ではなく、
帝国憲法(前法)が現存していることを立証しなくてはならないのですから。
単に違法性を並べているだけでは憲法は無効ではありません。
違法性の主張だけでは、法的瑕疵の治癒を認める改正憲法説か、
法的断絶を認める八月革命説のどちらかにしかならないのです。
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