天皇論と新天皇論の矛盾

 

----------小林よしのり----------

わしは昔サヨクだった。

だが「戦争論」で明確に転向してしまった。

過去の『ゴー宣』を見れば、わしの思想の変化が歴然とわかる。

言っていることが違っている箇所もわかるように残している。

(中略)

だが、わしの思想遍歴は、初期の頃からの読者はみんな知っている。

わしについてきた読者は一緒に成長してきたのだ。

言うことが変わっている点もあろう。

わしは「思想」しているのだから!

(『WiLL』平成22年8月号)

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この考え方こそが左翼思想であるということは保守思想のところで、繰り返し述べているが、

それはともかくとしても、最低限確認しておかなくてはならないことがある。

『天皇論』から『天皇論追撃編』については変化しているのですか?

 

過去の「ゴー宣」から転向していようが構わないが、

皇室のことについて論じているときに、

「天皇論」と「天皇論追撃編」の記述が矛盾していると、議論が非常にやりにくい。

勝手に思想して、成長・転向するのは結構だが、

ここだけは、はっきりさせておかなくてはならない。

 

それでは、「天皇論」と「天皇論追撃編」の矛盾について指摘していく。

青字が『天皇論』、赤字が『新天皇論』とする。

 

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「非科学的だあっ!」

「三種の神器なんてただのモノじゃないかーっ!」

「なんで見ちゃいけないんだーっ!」

「オレが見てやるう!」

この世のすべてを合理的に説明できると思ったら大間違いだ。

相対性理論でも量子力学でも、宇宙と物質のすべてを解明できていない。

人間とて、意識下には得体の知れない欲望が渦巻いている。

堕胎にしても、人工授精にしても、「ならぬものは、ならぬ!」というタブーが壊された

ときに、まさにそのタブーこそが、人間の知恵であったことを知るだろう。

合理主義のおごりに気づく日が来るだろう。

「天皇論」(110頁)

 

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「なぜ天皇は男系でなければいけないのか?」

この質問に対して明確に答えた人は未だ一人もいない。

いわゆる「男系絶対主義者」たちは、終いには異口同音に

「そうなっているのだ、理屈じゃない!」と言い出すのだ。

「新天皇論(223頁)

 

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朝鮮は歴代シナ王朝の半属国であった時期が長く、

その間はシナ王朝の元号をそのまま使った。

(中略)

独自の元号を持つということが独立の証だったのであり、

日本は元号においても最も早くから、

そして一貫して、中華文明から独立した文明を築いていたのである。

「天皇論」(83頁)

 

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女系天皇公認は、古代から続いていた不完全な

シナ文明の最後の頸木を解き放つ画期となる歴史的英断なのである!

「新天皇論」(232頁)

 

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サヨクはよく「皇室祭祀令は明治41年に制定されたもので、

天皇の祭祀なんて伝統でも何でもない」と言う。

バカバカしいイチャモンだ。

皇室祭祀令は古代・中世で展開されてきた祭祀を整備したもので、

それまでになかった祭祀を明治に作ったわけではない。

「天皇論」(52頁)

 

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そもそも古来、日本には皇位継承に関する成文法は存在しなかった。

(中略)

皇位継承は男系に限るとなどという法が作られたことはなかったのである!

わが国で初めて皇位継承のルールが明文化されたのは、

明治22年制定の旧皇室典範で、その第1条に「皇統ニシテ男系ノ男子」と規定され、

現在の皇室典範にもそのまま受け継がれた。

「新天皇論」(241-242頁)

 

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万世一系において注目すべき点は、

「男系のみによる世襲」で皇位を継承してきたということです。

(中略)

天照大神の神勅をもとに、その系統をまっすぐ受け継ぐ天皇が代々日本を治めることになった。

日本の皇室において「万世一系」は軽視できない、とても重要なことなのです。

「天皇論」(57頁)

 

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日本の天皇の「男系継承」は、美風として誇るべき「伝統」とは言えない!

シナ・朝鮮の家族制度を十分に日本化せず、不完全に模倣した「因習」に過ぎない!

「新天皇論」(230頁)

 

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過去の女帝は、男系の皇位継承者が幼少のため、

即位するには時間がかかる時や、

次の継承者がなかなか決まらない時など、一時の中継ぎとして即位されました。

そして役目を終えると、天皇は男系男子に戻っていったのです。

つまり、長い歴史上、「女系天皇」は一度も存在したことがないのです!

「天皇論」(211頁)

 

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日本の歴史には、8人10代の女帝が存在する。

「それらすべては"中継ぎ"の天皇にすぎない」と男系固執論者は言うが、

それは明治以降男尊女卑感情から言われ始めた虚構、

歴史研究の上ではすでに否定されている。

「新天皇論」(257頁)

 

元明天皇はまだ若年だという理由で首皇子への譲位を見送った。

(中略)

そこで代わりに譲位した相手がまた異例だった。

自分の娘に譲ったのだ。

(中略)

母から娘へ継いだのだから、当然女系継承である。

「新天皇論」(266-267頁)

 

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「人格」は天皇即位の資格ではない!

実際に、なかなか人格の怪しい天皇も歴史上存在している。

第20代安康天皇は讒言を信じて叔父の大草香皇子を殺し、その妃を皇后に迎えるが・・・

その連れ子で6歳の眉輪王に父の仇として殺された。

(中略)

これらの事実に関しては諸説あるものの、

このような記述が「古事記」や「日本書紀」にあるということは、

必ずしも人格者が天皇になるわけではないということを古くから公式に認めていたことに他ならない。

「天皇論」(179頁)

 

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第19章「旧宮家復活なんてあり得るか?」では戦前の旧宮家の問題行動を罵倒

 

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聖徳太子の第3回の遣隋使の国書で、皇帝の臣下である「王」ではなく、

シナの皇帝と上下の別がない「天皇」を名乗った!

(中略)

「天皇」とは、シナの冊封体制を抜け出した

自主独立の国の君主であると宣言する称号だったのである!

「天皇論」(290-291頁)

 

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称徳天皇を最後に女帝が登場しなくなったのはシナ男系主義が定着した・・・

「新天皇論」(270頁)

 

遣隋使の派遣は西暦600年から618年まで。

自主独立の君主国として宣言してから、かなり後になる称徳天皇崩御(770年)以降に、

なぜ突如としてシナ男系主義が定着したのか意味不明である(谷田川)

 

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鎌倉幕府の倒幕以降、革命理論が消えたのは、

後醍醐天皇の「建武の新政」が「万世一系」を前提としたためであろう。

「天皇論」(294頁)

 

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(女系論の根拠に)後醍醐天皇は、政治改革を自ら乗り出すにあたり、こうおっしゃった。

「今の例は古の新儀なり。朕が新儀は未来の先例たるべし」

「新天皇論」(158頁)

 

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将来の皇統の問題を「男女平等だから女帝でもいいじゃないか」

などという浅はかな考えで決着つけるべきではないのは当然だ。

「天皇論」(372頁)

 

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皇位継承を男系に限るべきという根拠は、歴史や伝統の中にはない。

その根拠は、「男尊女卑」の感情論だったのだ!

「新天皇論」(249頁)

 

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テレビで伝えられる皇室報道はそれなりに両陛下の優しさや

ご幼少の皇族方の成長などを伝えていて、

それはほほえましく国民に見られていることだろう。

素朴な庶民や年配の皇室ファンならそれで満足かもしれない。

だがしょせんは敬宮殿下を「愛子ちゃん」と呼んだり、

雅子妃殿下を「雅子さま」と呼んだりしているレベルの女性誌的な皇室への関心である。

「天皇論」(20頁)

 

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わしは女性誌のインタビューには、なるべく応じるようにしている。

女性誌の皇室記事は毎号、読んでいるし、

毎週、日曜朝の2つの皇室番組は欠かさず見ている。

皇室ファンの御婦人方は侮れない。

あの御婦人方こそが、珠玉の船を浮かべる国民という大海である!

『WiLL』(平成22年9月号)

 

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しかし昨年(08 年)、天皇陛下が体調を崩されたのを機に、

宮内庁は再び祭祀の「簡略化」を打ち出した。

その内容は入江氏が行った祭祀破壊をそっくり「前例踏襲」するものになっている。

「天皇論」(100貢)

(※宮内庁長官は羽毛田信吾氏である)

 

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羽毛田長官は陛下の信用が非常に厚いという。

(中略)

羽毛田氏が女系天皇容認の典範改正を進めようとしたのは、

陛下の意を汲んでのことだろう。

「新天皇論」(136頁)

 

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天皇家というものはあり得ない言葉である。

戦後に左翼が流布したインチキ語なのだ。

天皇には姓がないのに、「天皇」を姓のようにして、

「小林家」とか「岸端家」と同列に「天皇家」と呼ぶだけでもヘンテコな話なのだが、

これは「天皇家もタダの家に過ぎない。

その一家を特別扱いするな」という具合に、皇室を普通の「家」扱いすることで、

「天皇制廃止」につなげようという発想なのだ。

「家」のために「公」の視点が欠落してしまうことは往々にしてある。

「御家騒動」というものは、大抵は私欲から起こされるものだ。

天皇は無私の存在であるからこそ、「家」としても存在していない。

だから古来、日本人は「天皇家」ではなく、「皇室」とお呼びしてきたのである。

(中略)

「家」とは社会生活を営む上での私的生活の単位である。

だが、皇室は天皇陛下はじめ皇族方が私的生活をすることが本質ではない。

 

国家国民統合の中心として、天皇陛下とそのご近親によって構成される国家という有機

体の一器官と考えるべきである。

したがって「天皇家」などというものはない。

「皇室」でいいのだ。

(中略)

天皇は、他の宮家や、一般国民の家とも同列に扱えない最も公的な地位である。

「天皇論」(219-220頁)

 

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だからこそ、わしは女系天皇を公認する!

なぜなら「男系絶対主義」とは、シナ文明の家族制度そのものであり、

日本の文明でも伝統でもないからだ!

「新天皇論」(226頁)

 

したがって、小林よしのり氏は、皇室を普通の「家」扱いすることで、

「天皇制廃止」につなげようという人物という結論になります(谷田川)

 

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もし天皇が憲法改正反対を明言なさったら、わしは逆賊になる。個人崇拝はしない!

だから、いざという時は、西郷隆盛のように逆賊となることも覚悟しておかねばならん

だろう!

「天皇論」(366-367頁)

 

わしは天皇のお言葉に反しても、日本の伝統を強制する悪役に徹していこうと思ってい

る。

「天皇論」(370頁)

 

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竹田恒泰氏

「承詔必謹」という言葉がある。

天皇の命令を承ったなら、必ず実行しなくてはいけないという意味だ。

昔から勅命は神聖視されていて、絶対的なものだった。

しかし、その一方で例外があり、従ってはいけない場合もある。

大義のない勅命には、むしろ従ってはいけない。

それが皇室をお守りすることになる。

 

小林よしのり氏

その「大義」の有無は誰が決めるのか?

つまり、「オレ様が決める」と言っているわけだ。

要するに竹田氏は「もしも天皇陛下の御真意が"女系天皇容認"だったとしても、

オレ様が気に食わなければ従わなくてもいい」と言っているのである。

ところが渡部昇一氏もこの竹田氏発言に完全に同意した。

これは天皇陛下に対する「逆賊宣言」に等しい!

『WiLL』(平成22年6月号)

 

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さらに「天皇論」には以下のような素晴らしい記述もあります。

 

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昭和21年以前は多くの宮家がありました。

ところが、米軍の占領下の昭和22年、GHQの指令によって、

11宮家の51方が皇籍離脱を余儀なくされました。

残ったのは昭和天皇の弟宮である「秩父宮」「高松宮」「三笠宮」の3宮家だけで、

その後、秩父宮家と高松宮家も継承者がおられなかったので、すでに断絶してしまったのです。

現在の宮家断絶の危機は間違いなくGHQが計算したものでしょう!

「天皇論」(76頁)

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賢者は歴史に学びその時代を経験しているからといって、

その時代のことを正確に把握しているとは限らない。

まさに「賢者は歴史を学び、愚者は経験に学ぶ」という言葉のとおりである。

「天皇論」(168頁)

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『天皇論』が完成し、「天皇論追撃編」を描いて以降、

『天皇論』には間違いがあるという記述を目にしたことはない。

  

むしろ『SAPIO』には以下のような宣伝文句が毎号のように入っている。

 

『天皇論』は一家に一冊、天皇と皇室について学ぶ最良の書

(2010/3/10)

最終章で女系天皇を容認−まず『天皇論』から始めよう

(2010/3/31・4/14-21・5/12・5/26・6/10・6/23)

女系天皇公認のすべてがわかる−まず『天皇論』を読むべし

(2010/7/14・7/28-8/4・9/8)

なぜ女系天皇公認なのか、思想しよう−まずは『天皇論』を読むべし

(2010/9/29)

なぜ女系天皇公認なのか−思想は『天皇論』を読むことから始まる

(2010/10/13-20)

すべてはここから始まる−『天皇論』を読み、思想しよう

(2010/11/10)

天皇とは何か−まずは『天皇論』を読み、思想しよう

(2010/11/24/)

 

ざっと挙げただけでこんなものである。

「女系天皇公認のすべてがわかる−まず『天皇論』を読むべし」とあるが、

これを信じて『天皇論』を読むと、

「万世一系において注目すべき点は、[男系のみによる世襲]で皇位を継承してきたということです。

(中略) 

天照大神の神勅をもとに、その系統をまっすぐ受け継ぐ天皇が代々日本を治めることになった。

日本の皇室において「万世一系」は軽視できない、

とても重要なことなのです(57頁)」と書いてある。

 

辞書で「詐欺」という用語を引くと、

「他人をだまして、金品を奪ったり損害を与えたりすること。

他人を欺いて錯誤に陥れる行為」と書いてあります。

このサイトのタイトル「小林よしのりウソ詐欺全集」が、

いよいよ本物になってきたということだろうか。

そのとき小林よしのり氏はこう言うのか。

「商売のために描いているが、何か?」(本家ゴーマニズム宣言第14話タイトル)

いえいえ、小林さん間違っていますよ!

正しくは「他人をだまして、金品をいただいているが、何か?」

ということでしょう。

 

 

 

 

 

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