合唱バカの華麗なる人生

 =全国コンクール編=


2000.11.25(土)


 目が覚めて時計を見ると、6時10分。しばし呆然。今日は、6時19分の地下鉄に乗らなければならないはずだった。とにかくなんとかして、京都駅までたどりつかねばならない。次の地下鉄まで待っては、空港バスにあぶれる可能性がある。これはタクシーしかない…と寝ぼけた頭をめぐらして考える。手早く身だしなみだけ整えて、外に出る。幸い、土曜日の朝にもかかわらずタクシーはすぐ拾えた。空港バスは45分に出るが、あまりぎりぎりに行くと「次のにしてください」と言われかねない。しかし次のバスでは飛行機に間に合わなくなってしまう。タクシーの運転手とも話すが、「そんなにバスは混むんですか、大変ですね」と言われる。京都駅八条口に着いたのは28分。上出来だ。すでにバスにはかなりの客が乗っている。いそいで切符を買い、バスに乗り込む。幸い席は余裕があった。座ってほっとするまもなく、バスが出ようとする雰囲気になる。あれ…と思ったら、30分発のバスであった。手持ちの時刻表は古かったらしい。これなら空港でも十分に余裕がある。一安心して、一路空港へ。途中高速が自然渋滞気味になっていたが、特に止まることもなく、空港に到着する。
 まずはチェックインを済ませる。土曜日の朝ということもあって人は多い。しかし幸い自動チェックイン機は空いているので、窓側の席を取る。しかし既に後ろのほうの席はない。さてこれで飛行機の確保はできたので、一安心。念のため、機内持ち込みの鞄をチェック用の枠に入れてみるが、大丈夫だった。朝食も食べていないし、ここらで腹ごしらえをしたいところ。いくつかの店・売店を見て回るが、これといったものがない。うろうろしているうちに、長い行列があるのに気づく。どうも手荷物検査が混んでいるようだ。あまりこちらでのんびりしていると後が大変かもしれない、ととりあえず入ることにする。2、3列で50mほどだから、結構な長さである。少しずつ列は進む。こちらは出発までは時間があるので、余裕がある。自分の番になって、機内持ち込み鞄を通すと、「不可」。ナイフなどがありませんか、というが、心当たりは一つ。ペンケースに入れていた「オルファ・タッチナイフ」。これは今までも国内・国際線に持ち込んでいたのだが、今回は引っかかってしまった。別に今必要なものでもないし、到着先の空港で返してもらうのも大仰なので、空港側で廃棄してもらうことにする。廃棄同意の書面にサインしてやっとOK。やはり検査は厳しくなっていたのだ。
 搭乗口まで進む。といっても、まだ40分以上ある。サンドイッチとコーヒーで朝食。自販機があっても、温かい飲み物はほとんど置いていないのが×。そうこうしているあいだに乗客が集まってくる。手には衣装ケースを下げた人が多い。もしかしたら、この札幌便は半分くらいが合唱関係者かもしれない。登場開始時刻になって、飛行機へ。今回は前から6番目、右側。よく考えたらこちらは日光が当たるのでまぶしい側だった。ちょっと失敗。飛行機の中では、念のためマスクをしておく。一眠りしてから、今後の予定を確認。ステージ上の立ち位置についてしばし検討。そうこうしているうちに、飛行機は津軽海峡上空へ。北のほうを見ると、白い山並みが雲のかなたに見えている。しばらくすると、北海道の大地が見えてくる。なんとなく、フィンランドの風景を思い出す。天候は晴れ。いよいよ、新千歳空港に着陸。
空港はさっさと通り抜け、JRの駅へ。ちょうど空いている「快速エアポート」に乗れた。座っていける。地下線を抜けて、札幌へ向かう。空港の近辺はそう雪もないが、札幌に近づくと雪が残っている部分が増える。札幌駅のホームに降りて、初めて外気に触れる。やはり空気は冷たい。駅を抜けて、地下鉄へ。地下街を抜けて歩いていく。中島公園駅で降りて、ホールへ向かう。さすがに季節がら、閑散とした雰囲気がある。ホールまではわりと歩く。池があるが、かなりの部分が凍っている。 鴨は、氷の上を歩いている。Kitaraホールは大きい。隣の札幌市天文台がおもちゃのように見える。エントランスに入ると、T氏が待っていた。彼からチケットを預かり、中に入る。
 ホワイエも広い。出場合唱団が階段で写真を撮っていてもじゃまにならない。さすが北国の余裕?を感じる。ホールの中に入る。なるほど、いいつくりである。座席がいくつものブロックになっているのが特徴的。伊丹市にあるアイフォニックホールを連想した。響きも素晴らしい。あちこち席を移動して、声の飛び具合を研究するが、どこでもそうは変わらない。最後には審査員席の後ろに座ってみる。やはりここが一番いいようである。天井にある反響板の効果を感じる。演奏をいくつか聞いたが、ここの残響を生かしきれていないことがよくあった。通常とはちがった響き方なので、型通りにやっていると前後の音がかぶさってしまう。このあたりは難しいところである。
 直にお昼休みになる。ここで外に出て、明日のためのホール見学に参加する。H氏と合流し、誘導に従って案内される。大ホールだけかと思っていたら、控え室の場所・リハーサルに使う小ホールも案内された。小ホールの響きも確認。「ここの響きを見てもしかたがない」という声もあったが、本番直前のリハーサルでの印象はわりと大事だと思うので、丁寧にチェックする。このホールそのものもいいところ。合唱には使いやすそうだ。いよいよ大ホールへ。ステージに立つと、さっそく皆響きのチェックを始めている。まず立ち位置について考えるように指示されているので、並び方・人数の幅などを考える。それから響きの位置のポイント。雛壇の端のほうは響きにくい。4、5段目は声が後ろに飛んでしまう。やはり、どまんなかが一番響きがよく乗っている。これは、真上にある反響板の効果そのままという感じ。しかし、こうやって皆が声を出したりしてチェックしているさなかに、ピアノの調律もしていた。これはかわいそう。時間が来たので退出。
 休憩後、再びホールで演奏を聞く。全国大会といっても、いろいろな演奏があるものだ。なにコラの練習時間に合わせて、ホールから出る。
 ここから歩いて、ホテルに荷物を置きに行くことにする。地図を見たら近いみたいだし、お金もおろしたかったので、郵便局にでも寄れるだろう。しばらく歩いていると地図通りの場所に郵便局を発見するが、閉まっていた。この時、「今日が土曜日である」という事実に気がついた。これでは本局しか開いていない…しかし本局は遠い…明日はおろす時間もないだろう…手持ちの現金で足りるか…。不安な思いが交錯しながら歩いていく。銀行でもあればと思ったが、取引銀行は一向に見つからない。ふと思いついた。郵便貯金なら、コンビニでもおろせたはずだ。あるいていくうちにコンビニを発見。祈る思いで入っていくと…あった! 手数料は余計にかかるが、とにかくこれで一安心。
 しかし、ホテルにはなかなか到着しない。思っていたより遠かった。そのうちに、体が冷えはじめてくる。さすがに北海道の冬、慣れていないのに長時間歩くのは毒だ。あせりつつ歩いて、なんとかホテルにたどり着いた。チェックインして、部屋に荷物を置いたらすぐに練習へ行かねばならない。また歩いて地下鉄駅へ。今度は近かった。ホームを歩いて、そろそろなにコラメンバーも来る時間だなあ…と思っていたら、本当に階段からどやどやと降りてきた(笑)。共に琴似へ向かう。到着が遅れる予定の指揮者からは事前に練習の最初をまかされていたが、結局オンタイムで到着したとのことで、本日の指揮者の権利はく奪を宣告される。
  今回の練習は、琴似中学校を借りることになっている。音楽の先生が、なにコラオンステメンバーF氏の高校時代の先輩だとかの縁。琴似中の合唱部の生徒も見学しての練習となる。3時から練習開始。中学生の元気の良い挨拶に、くたびれかけたなにコラメンもにこやかに答える。音楽室の黒板には生徒からの歓迎の挨拶が書かれている。声だし、曲の練習。本番前日ではあるが、そこはなにコラメン。1回歌っては笑いが出る。団員からの音楽的な指摘も飛ぶ。強力なベースやトップに、中学生たちもにやり、としている。夕食休憩は1時間。F氏によりこの近辺のラーメンマップが配られ、それぞれ町に散っていく。次の練習開始時間になっても、揃わない面々多数。 電話すると、「間に合わないのでタクシーで帰ります」。どこまで行っているのだか(笑)。9時まで練習して、今日は終わり。先生にお礼をいう。先生の感想、「美しいピアニッシモに涙が出ました」に感激。
 風邪引きのH氏の提案で、仲間をつのってタクシーで札幌まで戻ることにする。しかし郊外、流しは少ない。天井のランプがついているだけでは空車ではなく、フロントガラスに「空」の札が出ていないといけない。しばらくこれに気がつかなかった。もう一組タクシーを待っていたT氏のグループの配慮により、配車をしてもらえる。そのうちに到着。札幌へ向かう。皆はなにコラパックのホテルで降ろして、こちらは自分のホテルへ。運転手と少し話す。「ここのところは寒かったのでしょう」「そうでもないですよ」「でもマイナス2度とかだったじゃないですか」「それは普通です」…さすが北海道。
  大通り公園を通ると、ライトアップ電飾がある。奇麗。とりあえずホテルの前まで送ってもらってから、公園まで歩いて戻る。デジカメで写真を撮りはじめ、2枚目を撮ろうとしたら、ファインダーの中で一部の明かりが消えた。あれ、と思ったら他のものも消えはじめている。「あー」という声があちこちから聞こえてくる。10時になったので消灯、ということだった。帰り道にコンビニでビールを買って、ホテルの部屋に帰る。改めて設備などを見ると、ホテルオリジナルの絵葉書も入っている。家に一枚書いて送ることにする。寝る前には乾燥対策が必要。バスタブにお湯を張る。バスタオルは濡らして部屋の椅子にかける。それほど寒くないので、暖房はかけなくてもよさそうだ。目覚ましをセットして、就寝。

2000.11.26(日)


 目覚ましより前に目が覚める。喉は大丈夫。寒くもない。外を見ると、小雨模様。路面が濡れている。身仕度をして、朝食へ。バイキングだと、最近は洋食を取ることが多い。それなりの品数だったが、スプーン・フォークなどがまとめて置かれていないのが気になった。しっかり食べて、今日のプログラムに備える。朝食後はゆっくり準備する時間がある。荷物をまとめて8時半頃にチェックアウト。絵葉書はフロントに出してもらうことにする。さすがに日曜日の朝、繁華街も閑散としている。 植木に、雪よけの傘が全体にかぶさっているのが面白い。北陸の雪吊りともまた違う。地下鉄で北へと向かう。
午前中の練習は、ノースエイム。北18条まで行く。地下鉄を降りたところで、何人かのなにコラメンと合流。今回は初めて札幌駅より北側に来たが、こちらのほうが残っている雪が多いような気がする。アイスバーンになっている部分に注意しながら歩く。会場は駅から少しのところ。もともと学校関係の施設らしい。すでに何人も集まってきている。練習開始の9時の時点で集まったのはしかし半分くらい(^^ ;)。さっそく、呼び出しが始まる。今日の飛行機で参加するメンバーもいるので、まだ全員にはならない。指揮者から「これから遅刻一分につき罰金一万円」という命令が出る(笑)。 ともあれ、練習開始。声をゆっくり出して、喉を暖めていく。時々霧吹きで水分を会場に補給。その間にも遅刻者がぱらぱらと入ってくる。しかしなかなか揃わず、9時半くらいには指揮者も「さすがに心配になってきた」と。これはもちろん罰金の金額の話(笑)。「すでに10万以上」との声が飛ぶ。比較的ゆっくりめに練習を進めていくが、ここで事件発生。トップのヒソヒソ声に対して指揮者から「何だ?」と声が飛ぶ。「あのー、そのセーター前後逆じゃないですか?」「あーっ、ほんまや」皆、大爆笑。「みんなをなごませようと思ってやな…」「そんなん嘘や!」とにかく笑いの絶えない練習が続く。11時すぎに当日組がやってきて、やっと全員集合。他の合唱団との都合で、お昼には別の小さな部屋に移動して、今日の日程の確認と仕上げ歌い。
 お昼の時間をかねて、ホールに移動する。当日組の話を聞きながら歩くが、なんでもマスクをして楽譜を見ている怪しげな集団であったが、飛行機の中でスチュワーデスに囲まれて、短く歌ってきたとか。「スチュワーデスに囲まれるなんて、一生に一遍あるかだなあ」と笑いあう。地下鉄に乗って、中島公園へ。公園には豊平館という明治くらいのバルコニーつきの洋風建築があるが、「あれはセレナーデを歌うのにぴったりのところだな」。合唱人の考えることはその程度である(笑)。 ホールまでたどり着いてから、軒下で簡単な食事。さすがに寒いが、場所がないのでしかたない。そのあいだにも、メンバーはホールに集まってくる。
 ホワイエに集合して、人数確認。参加章を受け取って、団体集合場所に移動する。後は誘導に従うだけ。着替えて、待機。小ホールでリハーサル。なかなかいい感じのホールで、歌いやすい。「なにコラ北海道演奏旅行の時はここで」という声も上がる。それから再び本番前待機。このホール、ステージ裏が大変広い。自動販売機や、喫茶のコーナーもある。大規模合唱団でも十分に余裕があるだろう。袖待機の後、本番へ。ニ回目の全国なので、少し余裕がある。「客席へ目くばせをするように」という指示が出ていたが、こういうバックステージ席のあるホールではきょろきょろと忙しい(笑)。整列し、静まったところで課題曲の音取り。さあ指揮者が振り出した…と思ったところで、客席から「ざざっ」となにかが落ちる音。演奏開始直前の静寂の中なので、なおさら目立つ。指揮者が一度止めるかな、と思ったが、そのまま続けていった。事前に下見した通りの響き。反響、残響が心地よい。それから、これも事前に情報収集していた「ピアニッシモを生かす」こと。このホールの力を発揮するには、ピアニッシモをできるだけ引くこと…。そのとおりであった。ピアニッシシモの部分、ホールに静寂の音が響く。大成功だ。その美しさに、思わず身震いしそうになる。一度弱音が決まると、後は余裕が出てくる。自由曲も難なく…と行きたいところだが、舞台の上ではいろいろな粗が聞こえている。しかし、金の手応えは十分だろう。演奏終了。拍手も、心なしか大きく、暖かく聞こえる。
 演奏終了後は、また誘導に従って、写真撮影へ。ホールのホワイエにある階段に並ぶ。ちょうど休憩になったこともあいまって、ホワイエにはたくさんの人たちが出ている。その中で60人の黒い集団、注目を浴びる。さすがに幅があるので、カメラマンも一杯まで下がって、全体写真を撮影。続いてパート別写真を撮る。指揮者は新聞記者の取材を受けている。自分も、誰かに呼ばれた。なんでも、次の夏に行くシンガポールのシンポジウムの担当者が聞きに来ているので、紹介したいとか。指揮者とともに、3人の担当者と挨拶する。あちらからは、シンポジウムの案内、ピンバッジやシンガポールのガイドをおみやげとしてもらった。しかし紙なので重い。「これだと、飛行機の超過料金が必要ですね」という定番のジョークが受けた。しかし、本番直後でもあり、英会話も久しぶりだったので、うまく言い回しが出てこない。あやふやな英語で、時々あちらも首をかしげていた。失敗。そうこうしているあいだに写真撮影も終わり、再び着替えへ。エントランスホールを抜けていくが、さすがにこの行列に周りの人は一歩引いている(笑)。更衣の時に、先程もらったシンガポールグッズを団員に配る。うっかり残ると、自分が重いものを持って帰らねばならない。幸い、はくことができた。 再びエントランスホールに戻って、ここで誘導はおしまい。一度ホールの外に出て諸連絡をするが、外は小雨気味。せまい軒下に集まって、連絡を聞く。ここで、解散。
 自分は飛行機の時間も迫っているので、早々にホールを後にする。冷たい小雨の中を地下鉄駅まで急ぎ、札幌駅へ。おみやげは空港で買うことにして、とりあえずホームへ上がる。日曜の夕方、ホームもずいぶん混んでいる。空港行きの乗車口にはすでに列ができている。とにかく早く空港に行く必要があるし、並んで待つ。結局、空港まで立っていかねばならなかった。疲れてくる時間でもあり、ちょっと辛い。空港に着いて、とにかくチェックイン。改札からチェックインカウンターまでは結構遠い。今度は夜でもあるし、通路側の席を取ることにする。席を確保できれば、あとは待つのみ。土産物屋をぶらぶらとする。ありきたりでない土産物というのもなかなかない。季節的に、カニがたくさんならんでいるが、荷物になるので敬遠。こまごまとしたものを買い揃える。飛行機に乗る前に夕食を食べておきたい気もするが、そんなにおなかも空いておらず、レストラン街を歩いてももう一つ惹かれない。結局、弁当を買って機内で食べることにする。じゃがいもからつくったビール、というのも購入。これらを鞄に押し込め、手荷物検査を通過。搭乗口に行くと、もう搭乗が始まっている。適当に見はからって、中に入る。真ん中3席の端側で、真ん中は空き。楽ができるのでラッキー。あとは一路関空へ。
 関空へ着いてからさっさとJRの駅へ行って、「はるか」に乗る。自由席も、ほぼ定員くらい。出発前に、まだ札幌にいるメンバーに電話して結果を聞く。「シード、2位!」との返事に驚く。確かになにコラの最大限の力を発揮していたが、そこまでとは。これで来年も全国出場が決まった。疲れが一気に取れた気がする。京都まで帰って、自宅へ。今回はこれで終わり。さて、来年は福島だ!

<おしまい>


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