合唱指揮者は職業として成り立つか?
前川 裕

合唱の指揮をする人は日本中に数多い。しかし、その中で合唱指揮を本業としている人はどれくらいいるのだろうか。そもそも、合唱指揮が職業になりうるのだろうか

オーケストラの指揮者になるのが難しいことはよく知られているようだ。サラリーマンの「なってみたい職業」投票で野球の監督とともに挙げられることは、それが簡単になれる職業ではないことも裏づけているといえる。同じ音楽の指揮者と考えれば、合唱指揮者になるのもやはり難しいという推測ができるだろう

実際に、合唱指揮を専門にしている人はどれくらいいるのだろうか。正確な統計はないし、オケの指揮者が合唱を振ることも珍しくはないので簡単には答えが出せないが、日本には数十人といったところだろうか

ただし問題は、このなかに「プロとしての教育を受けたことがある人が何人いるか」である。日本の音楽大学には、合唱指揮科というのはまずない。このことから考えても、プロ教育を受けた合唱指揮者は少ないことが予想されるだろう。実際のところ数十人のうちのほんの一握りである。欧米の音楽大学には合唱指揮科があるところが多いので、留学によって研鑽を積んでくる、というパターンである。

つまり日本の職業合唱指揮者の大多数はアマチュア上がりである。多くは大学合唱団で学生指揮を経験した人である。卒業後も一般合唱団で指揮をして経験を積み、力をつけていくのである。当然、一般企業などに本職を持っている。実力を付けた指揮者のなかには会社を辞め、いくつもの合唱団を指導することで生計を立てることも可能になる。もちろんそれが困難な道であることには違いない

欧米においては特に教会の聖歌隊を中心として、地域に合唱団が多数存在する。それがプロ教育を受けた合唱指揮者の受入れ先となる。これまた決して楽なことではないが、しかし合唱団の数が多いこと、プロを受け入れる風土があることが大きな励みとなっているだろう

日本で合唱指揮者として生活することは非常な苦労をともなう。しかしそれでもそれを目指す人がいる。合唱の魅力に取り憑かれると、なかなか大変なのかもしれない。


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