「メロディーモード」と「和音モード」
前川 裕
最近のはやり言葉の中に「〜モード」というものがある。眠い時には「昼寝モード」、起きたばかりの時は「寝起きモード」、働いている時は「仕事モード」などなど。難しい言葉を使えば「時間や空間を分節して、それぞれについての意識を区分している」ということにでもなろうが、早い話が「〜という気分」程度の意味である。
私が最近ロンドで(他の合唱団でもだが)はやらせようとしている言葉に、「和音モード」と「メロディーモード(または旋律モード)」というものがある。これは私のオリジナル(のつもり)だが、この言葉で意図しているのは「和音と旋律について、意識して歌い分ける」ということである。音楽の三要素として「旋律」「リズム」「和音」が挙げられるが、このうち音の高さ(ピッチ)に関係するのは「旋律」と「和音」である。独唱と違って、合唱では特にこの二つの要素が重要であることはおわかりだろう。ソロパートでない限り、合唱にはつねにこの二つが含まれる。
少し楽典を繙くと、実は音階には「旋律的音階」と「和声的音階」には違いがあって、それぞれ音の進み方に違いがある。和声的音階の構成音のみでメロディーを歌うとまことに変なものに聞こえるし、旋律的音階では「ハモらない」のだ。
そういう理屈はともかく、「旋律」と「和音」のどちらをきかせるところか、ということをきっちり理解すると、驚くほどきれいな合唱ができる。基本的な歌い方は次の通り。
(1)「メロディーモード」の時=横の流れを意識して、滑らかに歌う
(2)「和音モード」の時=縦の積み上げを意識して、明るめの音で高く軽い音をイメージして歌う
「メロディーモード」の歌い方は、基本的にいわゆる「歌う」ことであって、そう難しくはない。ところが「和音モード」のように縦に積み上げるような歌い方は、日本の一般的な音楽教育では取り入れられてきていないので、「ピンとこない」のである。これは、実際に歌う中で体得していくのが一番である。全体として奇麗なハーモニーに積み上がった時の快感は、まさに合唱の醍醐味である。
「自分は今どちらのモードで歌うべきか?」と考えることは、歌い方を考え、また曲を理解するためのよい材料ともなる。今日から、この二つを意識して歌ってみよう。もっと合唱が面白くなるはずである。
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