楽典のススメ
前川 裕
初めてのゲームをする時、ルールをまず確認しないことがあるだろうか? また、初めての機械を使う時、説明書を読む/誰かに操作法を聞くということをしないことがあるだろうか? 何でも知っているような天才的な才能を持つ人なら、しないかもしれない。しかし、私たちのような普通の人には、上のような準備作業が不可欠である。音楽についても、このことはあてはまる。例えば楽器を弾く時には、一定のルールを知っていないと話にならないことが多い。
ところが何故か、「合唱」の場合にはこの話が当てはまらないようだ。「楽譜が読めない」「和音というものが分からない」という合唱団員は、意外に多いようだ。もちろんこれらを知らなくても歌は歌える。かの美空ひばりは楽譜が読めなかったという。理屈にこだわってばかりで歌えていない、という人も、これまた多いのだ。
とはいえ、合唱も音楽である以上、音楽一般のルールに則っているのである。このルールを理解せずして、良い音楽が作れることは(天才でない限り)ない。合唱が他の歌い手との共同作業である以上、ルールに従うことは必要不可欠であることは論を待たない。
確かに音楽のルール、「楽典」はただ活字として学ぶだけではつまらないものだ。しかし、私たちは生きた音楽の現場である「練習」に参加しているのであるから、その楽典の知識を肌で感じることができるのだ。そうして「これが、あそこに書いてあったことなのか」と体で理解した時、その人の音楽はより深いものへと一歩踏み出したことになる。
「楽典は難しい」? 初めて学ぶことで、易しいものがあるだろうか? 必要なことは、どんな難しいことでも私たちは学ぶものだ。であるならば、楽典も私たちは学ぶことができるはずである。
お薦めは「ポケット楽典」(音楽之友社:980円)。コンパクトで携帯に便利、練習にも持ってくることができる。サイズの割に高度な内容で、これ一冊あれば一生大丈夫である。ぜひ購入して手元に置いていただきたい。一読したあとは、折りにふれて参照する。音楽がきっと面白くなるはずである。
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