音が合うために―ピッチとトーン
前川 裕

 「音を合わせる」とは言うは易し、行うは難し、の代表格。そこには様々な要素が絡んでいるからである。大きく分けると、「ピッチ(音高)」と「トーン(音色)」の二つの要素がある。

 「ピッチ」は音の高さである。音は波であり、低い音は波が緩く、高い音は波が細かくなる(ここでは波の高さの違いではなく、波の緩急の度合を問題としている)。そして同じ波形になった時に、音が一致する=ピッチが合うことになる。これは絶対的なものであるから、例えば機械で測ればはっきりと違いが分かる。

 「トーン」は音の色、カラーである。明るい音、暗い音、軽い音、重い音など、いろいろな形容詞で表現することができる。これらを一人で歌い分けることはそれほど難しくはない。難しいのは、人と同じ色を作り出そうとする時である。例えば絵の具で考えてみよう。赤い絵の具が足らなくなってきて、追加したいとする。「赤色が欲しい」と言ったとしても、それぞれの人の持つイメージは異なる。ピンクに近いイメージを持つ人もいるし、紫に近いものを思い浮かべる人もいるであろう。それらを混ぜ合わせたらどうなるだろうか?音や声もこれと同じである。良い合唱団はどこでも、全体として一つのトーンを作り出すことを念頭に置いている。どういうトーンを目指すかはそれぞれだが、一つのトーンを目指す、という点では共通しているのである。

 言葉が「母音」と「子音」で構成されているのはご存じのとおり。そのうち、トーンに大きな影響を与えるのは「母音」である。母音は口の形によって形作られるが、めいめいがまちまちな口の形をしているとそれぞれまちまちなトーンの母音がつくられることになる。これらの音が合わさった時どうなるか、というのは、先の絵の具の話と同様である。

 また声の難しさは、「ピッチ」と「トーン」が不可分であることにも関係する。つまり「音があわない」といった場合、「ピッチがあわない」のか「トーンがあわない」のかを正しく判断しないと、何度繰り返してもうまくいかない、ということになりかねない。ピアノを叩いて「これに合せて!」というだけではうまくいかない、ということである。指導者がいる場合はその指示に従えばよいが、前で聞く人がいない場合には「ピッチ」「トーン」の両面から検討する必要がある。

 まずは、隣の人がどんな口の形で歌っているかを盗み見てみることから始めてみよう。何かが変わるはずである。


メールはこちら:  yutaka70@mbox.kyoto-inet.or.jp

All rights reserved. Copyright by Yutaka Maekawa, 2001.