愛唱曲
前川 裕

 愛唱曲とは、文字どおり合唱団で愛唱されている歌のことである。機会があれば常に歌い、メンバーなら皆が知っている。そういう歌は、どこの合唱団も持っているものだ。

 ところが全国規模になると、意外に共通に歌えるものは少ないことを発見する。ともに歌えるのは、アカペラでは「はるかな友に」「サリーマライズ」くらいなもので、あとは中学の教科書にも載っている「大地讃頌」だった、ということも稀ではない。その昔、「うたごえ運動」華やかなりし頃は共通のレパートリーも多かったようだが、レパートリーが多様化した現在に至って、逆に「定番」といわれるものを歌ったことがないという人たちも多くなったのである。いずれにせよ、これはちょっと寂しい事態である。

 フィンランドでは、「愛唱曲」というシステムが発達していた。男声と女声においては、合唱連盟が「基礎曲集」(20曲程度)を作成して出版している。また各合唱団に委託して、これらの曲が歌えるかどうかを各合唱団でテストしてもらい、合格した人にはバッチを与えている。つまりこのバッチをつけている人を見たら、共に歌える曲が20曲はある、ということになる。またアメリカのバーバーショップという男声合唱の団体も同じようなシステムを取り、こちらは5曲程度ではあるがやはり団体として楽譜を配布して普及に努めている。ただし、いずれも混声合唱では存在しないようで、各合唱団で独自の愛唱曲を決めているようである。

 ともあれ、フィンランドのようなシステムは大変興味深い。知らない人でも共に歌える曲があると分かれば楽しいし、実際に歌ってみることもできる。「リーダーシャッツ」と呼ばれる曲集は本来そのような目的のために編まれているはずだが、曲数が多すぎてかえってばらつきを生み出しているようだ。また定番的なレパートリーは、どうしても歌う動機が欠けやすいという弱点がある。

 連盟のような団体で愛唱曲を編成し、それを認定するという方式を日本でもとれないものか。このようなシステムができたならば、日本全国で共通に歌える曲が出来、合唱の普及にも一助となるのではないだろうか。関係者の一考を望みたい。


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