「選曲」という仕事
前川 裕

 「指揮者の仕事の九割は選曲である」という言葉があるとおり、指揮者にとって次に演奏する曲目を決めることは重大な意味を持つ。演奏そのものがいくら素晴らしくても、曲がつまらなければ興味もわきにくくなるものである。

 指揮者はどのように「選曲」という作業を行うのだろうか? 人によって色々なパターンがある。しかし基本は二つの点で、「耳」と「目」である。(1)演奏会やCDを聴いて、気に入ったものをとりあげる (2)楽譜屋に行ったりカタログを見たりしてさまざまな楽譜を眺めて良さそうなものを取り上げる の二つがそれであり、人によって(1)と(2)の割合は異なる。もっぱら(1)による、という人もいれば、(2)の形を主流にする人もいる。(1)の場合も最終的には楽譜を購入するわけであるから、費用が大きくかかることになる。ただしこの場合音源があるので、全体像が見えやすくなり曲の完成度を高めることが可能であるといえる。

 ちなみに私は(2)をメインとするタイプである。というのも、(1)の場合はすでに演奏されたことがある曲であり、またCD等は広く市販されているためにすでにそれを聴いたことがある人が多いことになる。そういう曲をやるよりも、まだ誰も聴いたことがないような曲を取り上げるほうが興味が沸くし、また価値もある。日本では某輸入楽譜屋のリストが全てだと考える人が少なくない。インターネットが普及した現在、海外の楽譜屋から直接購入することは以前ほど困難ではなくなった。輸入楽譜屋は売れるか売れないか分からない楽譜を在庫することには当然ながら躊躇するものである。その隙をついて新しい曲を仕入れ、「日本初演」を狙うのは大変醍醐味があるのだ。

 いずれにせよ、音源の購入・楽譜の購入についてはお金がかかるものである。広くレパートリーを取り入れようとする先取の気負いがある人ほど、出費も多くなる。また楽譜をチェックする時間、音源を聞く時間も必要である。しかも選曲によって、その指揮者の評価が決まってくるところもある。選曲とは実に大変な作業なのだ。指揮者にすべてお任せで「早く曲を決めてください」というのもいいが、そのあたりもご理解いただきたいところである。


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