「聞き上手」
前川 裕

「聞き上手」という言葉がある。このような表現が存在すること自体、「聞き上手」である人が少ないことを示している。「聞く」とはどのような行為なのだろうか

日本語では「聞く」「聴く」という二種類の漢字を使い分ける。英語にも同じ使い分けがあり、それぞれ「hear」「listen 」に相当する。前者が「耳に入ってくる」、後者が「注意してきく」とは中学校の英語の時間に叩き込まれたのではないだろうか

では「聞き上手」とはこのどちらなのだろうか。「聞き上手」といえども、あらゆることをすべて注意深く聞いているとは言えない。さりとて、まったく聞き流しているわけでもない。要は、ポイントとなる(であろう)ところをうまく聞き分けている、ということではないだろうか

合唱に求められる「耳」も同様である。四六時中「他のパートをきく」ことなど、普通の人には不可能である。しかし、「聞かなければならない時」が必ず存在する。たとえば、縦が揃うところ。追っかけの形で入るところ。そのような所には、全神経を集中してきかねばならない。しかしそれ以外のところではさらっと聞き流していたほうが、かえっていい結果となることも多い

「きく耳の使い分け」。きくべきところは押さえ、あとは感覚として流す。この柔軟性が合唱には求められよう。


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