「外国語」を歌うために
前川 裕

 日本人が合唱を始めようとするとき、すぐぶつかる壁は「外国語」である。もちろん日本語の曲だけを歌い続けることも、あるいは外国の曲を訳詞で歌うことも可能である。しかし日本の作曲家による作品はまだまだ少なく、また日本語の制約を受ける面がある。訳詞は簡便な方法ではあるが、原語とのアクセントの違いや翻訳で表せる内容の限界など、原曲の良さが損なわれているのが残念である。やはり原語で歌ってこそ曲の持ち味が生かされるものである。また、膨大な量のレパートリーに触れることができ、日本の合唱曲だけでは味わえなかった世界を楽しむことができる。

 外国語を読むとき、普通いちばん気になるのは「子音」の発音である。これはまさに言語によってさまざまなルールがあり、英語などからは全く想像がつかない奇想天外?な文字や発音があったりする。このため、私たちは子音を如何に発音するかに気を取られ、力を注ぐことになる。

 ところが、実際に音にしてみたときに一番に問題になるのは「母音」の発音であることに気づいているだろうか。考えてみれば当然で、子音はそれほど長く伸ばすものではないが、母音はその音の長さのほとんどの部分を占めることになるからである。また、母音の発音にもさまざまなルールがある。綴りと発音が一致していない言語の最たるものは英語であり、aひとつとっても5つ以上の発音を区別しなくてはならないのだ。これに比べれば子音はどのような言語でも2、3程度の区別で十分で、ほとんどの文字は英語と同じサウンドの1音のみである。さらに、日本語の母音の音と同じ音を持つ外国語は少なく、また同じといっても微妙な違いがあるものである。(そもそも、日本語の母音ですら上手に歌えているか怪しいものだ。)基本的に、日本語の母音は少なく、またあまり口を動かさず楽に発音できるようになっている。ゆえに、そもそも私たちは外国語の母音を歌うための筋肉が発達していないのだ。これでは外国語を歌いようがないはずである。

 このような誤解のために、多くの合唱団は「発音はマスターしたのに、外国語っぽく聞こえない」と悩みつづけることになる。これは、子音の発音にばかり気を取られて、肝心の母音の発音に注意を払っていないためである。

 ではどうすればよいか? これはやはり、実際のその言語の生の音を聞いてみるしかない。主要な言語ならNHKの語学講座があり、タダで触れることができる。文法を学ぶわけではないからテキストなどは不要である。できればテレビのほうが、口の形や表情などにも注意することができるので望ましい。語学講座にないものでも、大概の言語は日本語で入門書がでている。購入するほどでなければ図書館で借りることもできる。またその言語を歌っているCDなどでももちろん構わない。

 とにかく、完璧を目指さないこと。しょせん日本人相手に歌うだけであるから、ある程度「雰囲気」が真似できれば十分である。しかしこの「マネ」がおろそかになっているのも事実である。耳をすまして、母音の響きを捉えてみよう。次からは歌い方が変わるはずである。


メールはこちら:  yutaka70@mbox.kyoto-inet.or.jp

All rights reserved. Copyright by Yutaka Maekawa, 2002.