「ピア伴あれこれ」
前川 裕

 「合唱なら無伴奏」という認識は、日本においては最近になってやっと定着してきた感があるが、本来西欧型の合唱曲は無伴奏が基本である。伴奏がつく場合はオルガンないしオーケストラで、ピアノ伴奏という作品は全体からみればほんの僅かしかない。一方、ソロ歌曲の場合にはほとんどがピアノ伴奏となる。これは、別稿で述べた平均律・純正律の問題と関係してくると考えられる。

 逆に日本では、ピアノ伴奏が作品のほとんどを占めている。これは日本の合唱音楽の一つの特徴であるといえよう。この背景はいろいろと考えられるが、日本に西洋音楽が導入されて以降、ピアノが多くの人が手軽に扱える西洋楽器として急速に受け入れられていったこと、また日本人が慣れない合唱という形態を下支えし、歌を盛り上げる役割を担ったこと等があろう。その証拠に、初期の合唱曲のピアノ伴奏のほとんどは和音を強調し、いわゆる「伴奏」に徹している。

 最近の作曲家におけるピアノ伴奏の扱いは変化しつつある。合唱の下支えとして和音を鳴らすよりも、まったく独立した一つのパートとして扱われていることが増えてきている。これらの作品ではもはや「伴奏」ではなく、「合唱とピアノの協奏曲」という趣をもっている。歌とピアノのお互いが主張をぶつけあって一つの音楽を作り上げていく、という面白さがある。

 ピアノ伴奏を崇めるのではなく、挑戦していってみよう。お互いに得るものがあるはずである。


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