「ヘルシンキ大学合唱団の内実」第2回
前川 裕

【シーズンの登録】
 YLは終身団員制である。当然、特定の時期に都合で参加できない団員もある。そこで秋・春の各シーズンが始まるときに、そのシーズンの参加者は大きな台帳に名前を記入し、登録をする。これをもとに、そのシーズンの名簿が作られる。近年は各シーズンにつき百名弱の登録数であるようだ。この時にシーズンの団費を支払う。一シーズンにつき二〇マルカ(約五百円)。これだけで全ての活動に参加できる。つまりそれだけYLには過去の資産があるということである。多彩な活動のほとんどがこの資産によって賄われているのである。

【国内演奏旅行】
 YLでは、秋・春の各シーズンに一回ずつ国内演奏旅行を実施している。いずれも一泊二日で、ニヶ所で演奏会を行う。演奏旅行の時期が近づくと、練習中に参加希望を取る名簿が回る。もちろん常に全員が参加するわけではない。近場での演奏旅行の場合は、一日目のみ・二日目のみの参加というケースもよくある。土日でなんとかこなしてしまうのは、社会人団員への配慮でもある。
 参加する団員は、土曜日の朝早くに練習場前に集まる。こことオリンピックスタジアム前とが基本の集合場所だが、バスのコースによっては事前に連絡すれば途中で拾ってもくれる。演奏旅行の行き先はさまざまだが、基本的にバスで移動する。午後遅くに演奏会場ないしは練習会場に到着し、直前練習をする。ここでは必ずしも全ての曲をさらわない。ポイントになる曲のみをチェックしていく。夜に演奏会を行う。終演後はその町に泊まることも、次の演奏会場の町にそのまま移動することもある。いずれにしても夜はお楽しみの時間の一つで、遅くまで飲み歩くメンバーも少なくない。事前に現地のバーと交渉してあり、演奏会後に団員に支給されるYL独自のチケットによって、ニ杯はタダで飲めるようになっている。
 ニ日目の午前は移動ないし練習。あまり練習が長いと、また団員から文句が出る。午後に本番をすませると、あとは帰るのみ。やや離れたところからだと、ヘルシンキに戻ってくるのは夜半になる。帰りのバスでは、参加賞(?)として団からビールが一人ニ本ずつ(三三〇ml壜)支給される。もちろんそれだけでは足りず、途中のドライブインや店などでビールを買い込む者は多い。こちらのビールは基本的に壜なので、栓抜きは欠かせない。帰りのバスでは浮かれた気分で、歌いだすことも多いのは万国共通である。もっとも、マッティは当日の演奏テープを聞き、研究に余念がない。
 驚くべきことは、この旅行全てが「無料」であることである。バス代・宿代は団から支払われる。食事は、当地の教会や企業などに提供してもらうことが多い。私が行ったときも、演奏会場から近い製紙工場に行き、工場見学・工場長の話を聞いて、社員食堂で食べさせてもらう、ということがあった。YLのフィンランドでのステータスを感じさせる。また提供する方にとっても、YLの訪問は名誉なことである。協力してくれるところがない場合は団が支払うことになるが、いずれにしても参加団員の負担金は全くないのである。
 なお演奏曲目であるが、同じところに何度も行くわけではないので、一定期間は演奏会プログラムの半分以上同じ曲を演奏している。(おかげでトルミス「大波の魔術」は4回も歌った。)オープニングはやはりシベリウス。「壊れた声」と「ようこそ月よ」のニ曲は必ず入る。これは新人も必ず暗譜で歌うことを要求される。新しく加えられる曲はさまざまだが、私がいたときには近々レコーディングする曲(パルムグレン)を中心としていた。これは、録音前に一度歌ってみる、という目的もあるようだ。アンコールによく歌うのはやはり「フィンランディア」であった。


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