学芸出版社で発行した本に基づき、著者が京都でセミナーを開いてくださいました(主催:日本福祉のまちづくり学会 観光まちづくり特別研究委員会)。
定員40名のところ参加希望者が相次ぎ、大雨にも関わらず、当日は52名の参加者がありました。
観光プロデューサーや研究者、まちづくりに取り組む方々、学生諸氏など、幅広い方々にお集まりいただき、皆さん熱心に聞き入っておられました。ご参加の皆様、ありがとうございました!
2010.7.14
■プログラム
第一部 観光ユニバーサルデザインのまちづくりと交通の基本
観光のユニバーサルデザインの考え方 秋山哲男(前首都大学東京・教授)
観光地を歩行者の空間にする 松原悟朗(国際開発コンサルタンツ)
第二部 文化遺産と自然のユニバーサルデザイン
世界自然遺産におけるオーセンティシティとユニバーサルデザイン
清水政司(地域開発研究所・主任研究員)
歴史遺産の観光ユニバーサルデザイン 伊澤岬(日本大学・教授)
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■第一部
■■観光のユニバーサルデザインの考え方_______秋山哲男
観光の定義から始まり、世界遺産の自然遺産・文化遺産の登録基準、続いて、ユニバーサルデザイン(以下UD)の解説がなされる。その上で、観光におけるUDを考える。
ここで、交通のUDについての事例。交通のUDとは、@交通施設のバリアフリーデザイン、A交通のシームレス化、B人的対応から成る。@は駅舎やホーム、車両での垂直移動、乗降などを確保すること。Aは空間的・時間的・料金の不連続を解消することである。それらで対応不可能なことをBで補う。
これらはそのまま、町の魅力を高める観光地のUD化についても当てはまり、観光地としての魅力をいっそう高めることにもなる。
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大雨の中、たくさんの方が来場くださいました |
秋山哲男氏のレクチャー(写真が暗くてすみません) |
■■観光地を歩行者の空間にする_______松原悟朗
これからの観光まちづくりがめざすべき方向について、人口構造や経済状況、国の施策などから概説。
観光交通の特徴、都市型観光の特性等を示しつつ、観光地における交通の基本的考え方を提示する。とくにヨーロッパの都市では、美しく、歩いて楽しめる観光地が多い。それらの各都市の取り組みや政策を紹介。ストラスブール、ナント、フライブルグ、シエーナ、パリ、ノッティンガム、アンジェ、そして国内では伊勢。レーンやゾーンの規制で公共交通を使用しやすく、自動車を利用しにくくし、LRTや自転車(レンタサイクル)利用を促進する事例が多い。
最後に歩行者の権利に関する欧州憲章と交通基本法の概要について触れられた。
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ヨーロッパの魅力的な歩行者空間について語る松原悟朗氏 |
迫力ある自然遺産とそのUD化について清水政司氏が紹介 |
■■世界自然遺産におけるオーセンティシティとユニバーサルデザイン_______清水政司
自然のなかのUDにおける三つの課題を提示。@自然保護優先地域とアクセシビリティ整備優先地域の区分、A好みや能力に応じて選択できる多様なルート設定の難しさ、B最小限の自然破壊でいかにアクセシビリティ整備をなしえるか。
まず北米の自然遺産を概観。世界自然遺産等でのオーセンティシティの考え方を紹介し、オーセンティシティという概念が、歴史文化遺産ばかりでなく、自然遺産や自然公園についても適用可能であることが述べられ、日本の事例、知床・白神・屋久島のゾーンについて紹介された。このオーセンティシティの考え方を元に、連続性、歩きやすさについて、内外での具体例をみていく。メンテナンスの難しさや、選択性の少なさを克服し、より多くの人々が、五感に響く自然の素晴らしさを享受できるような整備をしていくことの重要性が説かれた。
■■歴史遺産の観光ユニバーサルデザイン_______伊澤岬
地形から場所の魅力を紐解く視点を提示。オーセンティシティとノーマライゼーションは矛盾する概念であることがまず示され、京都の世界遺産における戦後の反オーセンティシティ対応の例として、車、ユニバーサルデザイン化、ソーラー化の三つが上げられる。
世界遺産に指定されている京都の社寺境内を、山・斜面・平地の地形によって区分し、バリアフリー対応を見ていく。すべて山は厳しく、平地は易しいわけではなく、山であっても、清水寺の男坂・女坂のように異なるアプローチにより対応している例も。最後に、ガラスを用いたルーブル美術館やモンマルトルのケーブルを例に歴史遺産だからといって伝統的であることだけにとらわれない、新たなデザインの可能性が提案された。
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伝統と、新しいデザインの可能性について語る伊澤岬氏 |
会場からも活発なご意見をいただきました |
■会場から(意見・質問の要約)
苦労なく歩ける距離が500mというデータのエビデンス(科学的根拠)について←←岡並木氏などの先行研究はあるが、エビデンスについてはこれから。
屋内では靴を脱ぐのが文化。そのことと車輪を拭いても車いすで屋内を回るのは矛盾しないか。
配慮していることに気付かないことが良いデザイン。
観光地は万人が手が届くと魅力が少なく、難易度が高いからこそ、達成した時の素晴らしさもある。
「評価」ではなく、「向いているか、向いていないか」というのがよい表現ではないか?
外国の新たな試みについては、日本では法規の壁で歯が立たないことも。
■アンケートから
日本国内観光地のUDの在り方実施例と共に法的基準が理解できましたが、世界遺産・自然遺産として認定されているなかで国によって対応及び法的処置及び対処が異なるので国際的な立場で今後残すべき遺産の統一基準運営及び指導教育が必要と思いますがいかがでしょう?
歴史遺産における評価、選定基準の在り方の検証は大変興味深い話でした。(萩原義明氏)
観光UDについては、当事者の視点からの意見がもう少しすり合わせる必要があると思います。今回は当事者の視点が乏しかったです。京都の寺社仏閣のバリアフリーについては、京都の車イスユーザーの村田孝雄さんの検証と働きかけがあり、清水寺のBFトイレなど多くのBF化に貢献しています。こうした建物についても光をあててほしい。
英国のEnglish Heritageは、歴史的建造物、ランドスケープのアクセシビリティについて、good practice・bad practiceについてガイド集を出しています。京都についてもまず現状を知らせるべきと思います。歴史性を理解したアクセスコンサルタントが必要と思います。(O氏)
UDと聞くと足の不自由な方、車いすの方を対象としたものとイメージしていたが、「交通のシームレス化」など健常者にも大いに関わりのある問題だと知り、興味がさらに深まった。また、京都の街に対する問題意識もいっそう強まった。(M氏)
観光という切り口でユニバーサルデザインを見てみると、単にハード以外の部分が多くあることが分かりました。また、日本のレベルが今後向上することを期待したいです。(N氏)
非常に知的でおもしろい議論でした。ぜひとも今後も続けてください。(小島新氏)
観光バリアフリーはだいぶ良くなってきましたが、まだ介助前提が多いのが現状です。もっと多くの人が実際に行って、注文をつけ理解を深めることが必要と思います。本日のセミナー、たいへんおもしろかったです。(山名勝氏)
外出介助に関心があり、参加しました。先生方のお話に対して、車椅子の方の意見があったのがとても良いと思いました。(坂東博子氏)
オーセンティシティについての件ですが、例えば、元々ある歴史的建築物に“新たな現代的機能を有する”建物を付加することはオーセンティシティに反するのではないかと思われるのですが……。その点が少し気になりました。(K氏)
■メールから
Kさんの話で、「数値や評価というカタチ」で表し、「ここは行ける、ここは行けない」というお話の表現方法については、私も同感で、二条城と数値の話のどちらを話すか迷っていました。
そのあと、考えたのですが、あのような場面では、表現方法として仕方なかったように思えます。 しかし、個人の能力により、ここは行ける、ここは行けないと、断言しても良いか疑問に思います。
判断は、利用者が決めることであり、ひとりひとりの利用者の能力を知らない外部者が断言することは、その人の行こうとする権利を束縛する意味にも受け止められます。
行こうとする意欲を消さないように、いかに、挑戦するか、工夫するかです。
学識経験豊かな先生方にお越し頂き、文献やセミナーのような場所では行けるか行けないかの答えを出さなくてはならない現実があります。
その基盤があって、現場があって、利用者がいる。
我々現場人は、それを、応用する力が必要であると感じました。とかく、勤勉な日本人は、応用せずに、そのまま現場で生かそうとする国民性があります。これが、自己主張の強い、欧米との考え方の違いですね。
昨日の結びに、このような話があれば、良かったかな?と思いました。(Y氏)
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3時間半という長丁場にも関わらず、会場質問・アンケートからも伺われるように、たいへん密度の濃いセミナーとなりました。単に○×をつけることが重要なのではなく、「ユニバーサルデザイン」とは、あくなき改善への姿勢であるという意識が共有されていたことが感じられました。
みなさま、ありがとうございました。(編集G)
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