コミュニティビジネス入門講座
 講師:風見正三・木下 斉


 2009年に『コミュニティビジネス入門〜地域市民の社会的事業』を出版しましたが、その後も地域の課題を解決する地域密着型の「コミュニティビジネス」や社会問題の解決を目指した「ソーシャルビジネス」など、新たな働き方への注目がますます高まっています。
 そこで、本書の著者である風見さんと木下さんにおいでいただき、多様な展開を見せるコミュニティビジネスについて、その概念やこれまでの流れを整理し、各地の事例から具体的なビジネスモデルを紹介していただくことに致しました。
 第1部の講演会ではお二人から事例を交えた現状とこれからの課題・展望などを語っていただき、第2部の交流会では、各地でまちづくりに取り組んでおられる行政、コンサル、NPOの方々からの質問をもとに意見交換がなされました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!


2010.11.7
コミュニティビジネス入門講座
 

風見正三・木下 斉

第1部 講演会

まずは、風見正三先生がコミュニティビジネスの概要について、事例を交えながらまとめられた。
風見先生はもともと建築の出身だが、その後「都市計画」や「経営」へと専門分野を拡げてきた。
ゼネコンに勤務していたが、その間にイギリスに留学。「田園都市」をはじめとして、コミュニティの研究などをされていた。アースサミットに関わる中で、経済・環境・社会の持続可能な発展の必要性を感じ、「コモン=公共」という概念にも取り組むようになる。
最近は、いくつかの大学で教鞭を取りつつ、プロジェクトマネジメントや都市・農村交流を中心に多様なまちづくりに関わっている。

「新しい公共とコミュニティビジネスの新展開」

■志のあるスモールビジネスが持続可能な地域を創造する
持続可能な社会、協働社会へむけたコミュニティビジネスの展開が広がっている。 コミュニティビジネス(CB)・ソーシャルビジネス(SB)とは、志を発端とした社会貢献型のビジネス。地域課題の解決をめざすものである。 2つの違いは、
 コミュニティビジネス:地域の課題を解決する
 ソーシャルビジネス:社会的な問題も解決する
であるが、根本は同じ。
 社会性:ミッション
 事業性:継続的な事業
 革新性:新たな価値創造
の3つを柱とする。
現在はまちづくり、観光、農業の分野が多く、マイナスをプラスに転換するものとして取り組まれている。

■行政主導から地域主導へ
新たな市民セクター(第4セクター)からコミュニティビジネスが広がる可能性が見えてきた。地域を良くするためにビジネスの手法を用いて解決するのだ。
これまでは行政主導だったが、これからは市民・商店・大学・行政・NPOなど、多様な参加によるコモンズ社会を創造し、地域を共有して守っていくことが大事となる。行政はコーディネーターとしての役割が求められている。どこまで市民をサポートできるかが問われる。

■「社会的共通資本」としてのコミュニティ
宇沢弘文先生は、「社会的共通資本」を、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」と定義している。
いわば、社会的共通資本とは、持続可能な地域を創造していくための基本条件であり、豊かで活気のある地域社会を創造していくための基本要素となるものである。そして、これらの豊かな地域を形成するための基盤となるものがコミュニティの存在であり、コミュニティビジネスなのである。コミュニティビジネスとは、地域問題の解決や地域資源の活用を主要な目的として行われる地域主体のビジネスといえる。
それは、「志を出発点として、適正な利益を求め、社会貢献と経済発展を両立させる事業」と定義付けられる。
コミュニティビジネスの発端である英国では、地域で失業した人の雇用支援をするために始まった。
日本もいま同じ状況になりつつあり、このような、社会を新たな仕組みで変えようという動きは注目に値する。

■地域資源(地域の遺伝子)を活かしたまちづくりの実践
日本におけるコミュニティビジネスの潮流は、住民が地域ぐるみでまちづくり事業を起こすというものである。
代表的な事例として東の川越、西の長浜といわれるほど、両地域では熱心な取り組みがみられる。ともに蔵造りという地域資源を持つまちだが、交流拠点づくりなど、市民・NPOによる保存活動、再生戦略の共有がなされている。
地域資源による観光まちづくり、地域産品による農業型のまちづくりは今までも行われているが、バラバラだったこれらの資源をつなぐことがコミュニティビジネスの役割だ。そこではプロデュース力が重要となる。新たな発想を持ち込み、市民と共に事業をつくり上げていくことが重要となる。

■新しい公共:コモンズ社会の創造─高松市丸亀商店街の再生
ここでは、地域通貨やまちづくりファンドの設立、市民の集う場、まちの中心となるドームづくりなど、資源、インフラ、しくみの整備を同時に地域主体で行ったことが成功のポイント。

■地域力による持続可能な里づくり─「NPOふうど」埼玉県小川町の農業
異常気象、後継者不足により農業の継続が困難になるなかで、農業を守るために地域の環境を守りたい、という思いからスタートした。農業の環境保全効果に着目し、農村文化の継承を目指している。
ここでは、NPO・市民・行政による循環型社会システムの創造、風土を守るための「地域通貨」の発行が行われている。まさに、社会的共通資本として農業を捉えており、持続的な地域連携を生み出す地域組織だ。

■地域に支えられた農業
□CSA
地域で採れる食材を地域で消費するという、消費者が生産者を支えるしくみのことである。
小さな農家でも買い手がいれば継続できるので、そのしくみをつくろう、というものだ。欧州、アメリカで広がっているが、日本の生協がそのルーツ。
□鳴子の米プロジェクト
地域の農を守るため、寒冷地に適する米を開発し、それを買い支えるという地域全体での取り組みである。農業があるから鳴子の自然景観は成り立つことへの気付きから取り組みが始まる。
つくり手に勇気を与え、地域のつながりを次世代に継承することが持続可能な社会につながるのだ。大事なのは、地域の視点で何を守るかを見極めることである。

■持続可能な地域社会の創造
地域の資源・貨幣を循環させ、人材を育成し、産業を構築する。持続可能な社会の条件は、地域の固有性と自立性の尊重である。それが、経済・社会・環境の調和につながると思う。 コミュニティビジネスは、こういった地域の内発的産業を生み出すツールになりうる。

■CB/SBの可能性
「協働」は活動だけでなく、事業でもあってよい。社会貢献型事業を支援するため、経産省も取り組みを進めている。これからは中間支援機関の役割が重要になる。そして、オープンマーケットをつくるための仕組みづくりを進めたい。
環境省も、事業型NPOと社会的企業の支援を進めている。中央と地方の連携をはかり、多様なサポートを行おうとしている。地域の課題解決のために、パートナーシップとネットワークの構築、人材育成などをはかる。

■まとめ
地域とともに自分自身も輝いていくことが求められている。
志のつながりが地域を再生するためには、3つの「地域力」が鍵となる。それは、
・地域を知るちから(地域の良さを再評価する分析力)
・地域を創るちから(地域の良さを生み出す計画力)
・地域を育むちから(地域の良さを次世代に伝える経営力)
である。
ただ志だけでは継続しないので、それをサポートする中間支援機関、教育機関が必要であり、具体的なプロジェクトを起こすための支援がいる。
これからは、地域自治から地域経営の時代。自立型の経営力(コミュニティガバナンス)が求められている。それを実現するのがコミュニティビジネス。
地域の自立は市民の自立からであり、行政はコーディネーターとして市民を発掘し、事業を起こさせ、それを支援していけばよい。市民力と事業力が地域を再生するのだ。 ====================================================================================
続いて、木下斉先生のお話です。

木下先生は、早稲田大学高等学院在学中から会社を立ち上げ、各地の商店街のまちづくりをされていた。90年代に早稲田商店会は、環境を切り口にした商店街活性化、まちづくり活動への取り組みで全国的に注目された。学生時代は全国各地の商店街を巡り、さらに調査研究でアメリカ、イギリスなどに行き、経営力を背景にしたまちづくり事業の発展を目の当たりし、その後経営学大学院に進学。現在は、全国のまちづくり会社や商店街のアライアンス団体を発足し、経営の観点からの中心市街地活性化事業を推進している。

■『コミュニティビジネス・ビジネス入門』について
従来、コミュニティビジネスといえば、NPOが中心に取り上げられてきた。
本書ではそこから拡げて、本来のコミュニティビジネスの役割を担ってきた生協を含めた協同組合、ワーカーズコレクティブまで多様な軸で、それぞれの実践者がまとめたものであり、問題提起の書でもある。
時期を同じくして「新しい公共円卓会議」が発足し、制度そのものを変えようという意気込みがみられる。そこにはNPOだけでなく、生協や市民や商店街など、様々な組織が、既存公共だけでは担えない課題を共有して解決をはかろうとしている。

「社会を変える仕事・社会起業家の未来」

■地方の現状
現在の経済の落ち込みは、リーマンショックに始まるものではなく、20年来続いている。
売り場面積当たりの売上は半減、商業地価値は、実に75%も喪失している。そして、固定資産税が大幅にダウンしているのが地域の財政難の背景にある。
地域経済は自助努力なしには活性化しない。ところが、現在の行政には、補助金欲しさの取り組みが多い。
これまでの事例主義と補助金の使い捨ての連鎖が地域を衰退させ、本来活性化のために何をすべきかが見えなくなっている。自分たちで考えて課題解決をするべきで、地元の課題を整理して取り組むべきである。成功事例を視察するだけではダメなのだ。
地元にある限られたリソースを有効に使うことが、経営の基本であり、事業的に地域活性化を図ることへの期待が高まっている。先進地域を視察して、「うちにはないな」という無い物ねだりの結論には全く意味がない。
これまでは国全体として産業を興し外貨を獲得、それらを国内地方に再配分を手当てしていくというやり方をしてきた。しかしこれが行き詰っている。今後の地域活性化では、地元の資源を活用しながら、これまで再配分に依存してきた部分を地元でどう自立的に解決していくかが社会構造的に問われている。

■経済を無視して地域の活性化はありえない
次の3つの三位一体は地域経済活性化の基本ルールだ。
・外貨の獲得による「流入増加」
・地域内取引の拡大による「循環促進」
・経費削減・自前主義による「流出減少」
これまでのように、経済合理性と反することを、政治的な合意により平気でやっているのは問題。衰退していくところにはそれなりの理由があるということを直視する必要がある。
例えば、地域活性化のために思い当たった地域資源を使って、補助金もらって製品をつくればよいというのでは成り立たない。これまではほとんど地域活性化といいながらも利益が残らない。事業的にはそれが売れて、利益が残るようにすることが重要。利益が残れば、次の事業は補助金もらわなくても自主的にできるようになる。利益を内部留保することで自己資金調達することが大事なのだ。事業サイクルの中で利益をどう得るかを計画しておかないと、事業仕分けなどで中央からの資金が切られた時に継続できなくなる。

■市街地経営プログラムの事例─熊本城東マネジメント
市街地経営プログラムの第一弾、熊本市では中心市街地・商店街の活性化にむけ、これまで中小不動産オーナーが個別発注していたファシリティマネジメント業務を一括発注に切り替え、生産性を改善したことで不動産オーナーの利益率を改善し、まちづくり会社運営費の捻出、余剰利益の地域プロジェクトへの投資を図った。まずは事業系ゴミの一本化から着手し、年間で400万円程度の改善ができた。さらに、エレベータ保守などに拡大していこうとしている。
これまで行われていた賑わいまちづくりでは、結局お金が出て行くばかりで根本的な問題解決にならない。トータルに見直しを行い、それぞれがプラスになるよう構造的な課題解決を図っている。個別の経営モデルに目を向けて、そこを改善することで得られる収益を地域活性化に投資し、次の収益を作っていく連鎖が重要なのである。
投資としては、ゴミ問題の解決としてグリーンバードによる清掃活動や、店舗の本業と連携した音楽イベントであるストリートアートプレックスの支援などが行われている。この取り組みは、札幌では今年10月から開始、盛岡でも間もなく開始する予定となり、横展開に繋がっている。

■地域の医療・福祉サービス─庄内まちづくり協同組合「虹」
庄内医療生協が母体。介護サービスを行う庄内医療生協をはじめ、高齢者福祉生協や薬局、損保、JAとの連携による産直センターなど、グループ全体でトータルに地域へ生活医療福祉サービスを提供している。
収益部門(医療保険など)と非収益部門(高齢者など地元のニーズ)がバランスを保ちながら経営している。これが、複数の事業体が集まることの強みである。営利団体では成り立ちにくい考え方だが、事業運営が持続可能であればそれ以上の収益は必要ないという場合には適する仕組みであり、これからのコミュニティビジネスを考える上で参考になる。

■地域が単独に取り組む時代は終わった
特定のテーマに基づき活動する団体が増えている。現在、グリーンバード、シブヤ大学、JAPAN ONPAKUなど、ノウハウのオープン化、広域連携への取り組みが広がっている。そこでは共同研修のプロセス化や、webのサービスシステムを活かしたプラットフォームづくりが行われている。
地域課題に地域ごとの特異性はそれほどない。違いを見つけるよりも共通の課題をみつけることで、解決の効率化を図ることができる。そして、同種の地域課題を抱える人が、ノウハウを利用したほうがよい。さらに実践をフィードバックすることで、ノウハウのアップグレードが可能となる。
中間支援組織の体制も重要になる。従来のアドバイザー集団的な中間支援ではなく、実践者たちが集まり、自分たちの事業プログラムを普及するために中間支援組織を運営するボランタリーチェーンに近い形態の中間支援組織が発足している。広域連携のメリットは、認知度・信用のアップにより、支援金が集めやすくなる。同様のプログラム展開する地域の経営ノウハウが集合知として価値を増すこと、もしくは運営コストの統合による利益率改善だ。
一方で広域連携の課題としては、地域が広がっていったときのマネジメントの問題がある。
まだ広域連携手法そのものが試行錯誤の段階であるが、自分たちが主体的にやっていく方法そのものもブラッシュアップしていく必要がある。そうしないと地域を越えたグループづくりが一過性のものになってしまう。
また、全体がつながることで掛け算のバリューアップができると、より大きな課題を解決することができるようになるだろう。そうして、人や資金といった経営資源をつくり上げていくということが、広域連携へのチャレンジの源泉になっている。
プレイヤーが増えつつあるいま、社会企業家などが異端視されることなく、どうすれば世の中に認められるかが課題で、様々なチャレンジを行っているところである。成長過程にある分野なので、議論を深め、発展させるべき余地が多いにある。

質疑応答

Q
コミュニティビジネスの組織として商店街の活性化というのがあるのだろうが、それがどうコミットするかわかりにくい。住民との関わりや効果は?
A
風見:参加の仕方が多様なことがコミュニティビジネス。住民は「商品を買う」という消費における判断行為を通して関わっている。コミュニティビジネスが立ち上がることによって、消費することの社会への影響を身近に感じるチャンスになる。
コミュニティビジネスを成立させるためには地域の人の意識改革が重要で、むしろ主役は市民である。コミュニティビジネスは市民を意識改革のための事業であり、事業によって意識改革も進む。

木下:中心部の活性化において直接の利害者は土地の所有者やオーナーである。勿論それだけではないが、誰が対象かは事業別で明確化することは不可欠である。また、今後は地域の人は消費者としてだけでなく、サービスを共につくっていく参画者の側面もある。生協のような参画型の事業形態の仕組みは、今後地域でより重要になる。

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