田端 修 1939年京都市生まれ。京都工芸繊維大学工芸学部卒業、京都大学大学院博士課程中退。椛蝸ム組、藤川デザイン学院を経て、1977年より大阪芸術大学。講師・助教授を経て1993年から教授、同年から同大学大学院担当。2010年3月に退職。工学博士。技術士(都市および地方計画)。一級建築士。
 

『「和」の都市デザインはありうるか』を語る

田端修さんに「和」の都市デザインとは何かをお聞きしました。
昔からの間口が狭い小規模な敷地(和の敷地)に洋風建築をいかにフィットさせるか、それが本書の狙いだと語られました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

●「和」の都市デザインとは何か
前田:
 今回『「和」の都市デザインはありうるか』という本をお書き頂きましたが、「和」の都市デザインという考え方自体がわかりにくいと思いますので、読者の皆様に簡潔にご説明頂けないでしょうか。

田端:
 この本では現代の都市の空間とか都市景観が混乱しているわけですが、これを敷地と建築の関係から考えてみようというところから始めました。
 日本の都市は間口が狭い小規模な敷地、それを私は和風敷地と呼んでいるのですが、その和風敷地のうえに、高さとか大きさとか、あるいはデザインが違う建物がバラバラに建っています。
 それはどうもまずい。
 それは建築デザイン上の問題だけではなくて、敷地との関係のなかでこういった問題を考えなければいけないということです。歴史的な和風敷地と近代以降生まれてきた洋風建築をうまく適用していくことを、そういう視点の中で引き出すことができたと思います。
 つまり和風敷地は和風建築、町家と対応しているわけです。ところが和風敷地に洋風建築を建てると、これがフィット感がないということだと思います。その結果として、都市景観、都市空間の混乱が起こっているのです。
 ではどうするかですが、ヨーロッパの都市を考えると、19世紀を中心に個別建築から長屋建てとか共同建てに変わり、集合化が進められるという大転換が起こったわけです。その結果として、まとまった町並みができあがってきました。
 ところが日本の場合はいままでずっと小敷地のママできました。その結果として、申し上げたような問題が起こっているわけです。
 これを解決するために小規模な敷地を大規模化するという話は、これから起こりそうにない。うまくゆきそうにありません。小敷地はそのまま継続していくでしょう。ですから、その小敷地をうまく使うということをきちんと考えてなければいけないのです。
 ではどう考えていけば良いのか、それが大きな問題なわけです。
 そういう問題の総体、が和風の敷地のうえに主として洋風の建築をどう作るかという課題です。これを総称して「和」の都市デザインと呼ぼうと考えました。

●具体的なイメージ
『都の魁』に描かれたまち通りの看板
 その具体的なイメージとして、本書の第2部では、これまで和風敷地のうえで蓄えられてきたデザイン作法とか、空間文化の蓄積を提示していくようにしました。そういうのをまとめると、これからの都市デザインの大きなヒントになるだろうと思ったわけです。
 たとえば間口が小さくて奥行きの長い敷地ですが、これを用途ミックス的な使い方できるんじゃないかとか、あるいは表側はどう使えばよいかといった、敷地利用の提案もしています。
 それから、また店頭のデザインについて、明治のはじめに日本の都市の店頭デザインを収集し描いた絵があるのですが、これを分析しまして、店頭デザインのなかに蓄えられている知恵を整理しました。その中で小規模なお店が連続していく町並みというあり方が、日本のまちの程よい賑わいを作っています。一か所に集中するのではなくて、賑わいがまちなかに広がっていくようなあり方でした。
 あるいは街区のなかにたくさん路地空間があって、そういうものによって町のなかの賑わい、あるいは魅力が造られていました。
 そういうこれまでの蓄積をまとめて、これからの都市デザインのためのヒントとすることができたと考えています。
 第3章では、小規模敷地が集まっている場所を、建築基準法と違う枠組みで考えなければいけないのではないかなど、制度的な提案もしております。

●建築家やお施主さんへのメッセージは
前田:
 ありがとう、ございます。
 最後に短くお答え頂きたいのですが、「和」の都市デザインでは、実際に建物を建てる建築家や、ユーザーの役割が大きくなるのではないかと思いますが、彼らが元気が出るようなお話をお聞かせ下さい。

田端:
 元気というのは難しいですね。
 これからの建築活動は、かつて経験してきたような活発な状況は、これからも現れてくるとはちょっと考えられません。経済の低成長とか人口減少といった状況が続いていきますから。
 つまりヨーロッパの街で起こったような敷地の大規模化は起こらず、小規模な敷地のまま続くと思うのです。だから、そういうことをきちんと認識することです。
 そういう都市敷地の特徴をきちんと踏まえて、そのうえで都市デザインの方法、建築の作り方について考えていただくと、世界に珍しい、そして固有性の高い都市空間ができていくのではないかと思います。

前田:
 ありがとうございました。

 
 

『「和」の都市デザイン』


●主要目次●
はじめに
第1部 小規模間口・独立建築がもたらした「洋風×和風」都市
第1章 町家敷地に建ち上がる「せんべいマンション」
 1 京都の景観問題と敷地の小規模間口性
 2 都市空間のチグハグ感 ―異なるボリウムとデザインの雑居
 3 京都都心部における小規模間口の慣性力
 4 ヨーロッパで多いのは中規模間口・連続建、日本は小規模間口・独立建築
 5 「和風」敷地のなかの「洋風」都市デザインという切り口
第2章 「小規模間口性」の定着と「和風」敷地
 1 日本の都市における小敷地性と小間口性
 2 都市敷地形態の日欧比較 ―接街・接隣する都市建築
 3 都市開発事業としての西欧都市建築
 4 日本ではなぜ、敷地は小規模のままなのか
 5 街区構成や敷地割は「都市空間の慣性力」をそなえている
第3章 「洋風×和風」ハイブリッド都市がつくる都市性
 1 ハイブリッドがつくる都市性
 2 住宅における「西洋化」と「近代化」
 3 日本の「近代化」=「洋風」×「和風」と考えてみる
 4 敷地の「小規模間口性」がみちびく「洋風×和風」のデザイン

第2部 文化としてのヒューマンスケールの可能性
第4章 都市空間を多彩多様化する小規模間口性建築
 1 小規模間口性の敷地と建築的特性
 2 都市建築のもたらす「ほどよい賑わい」
 3 清水寺門前商店街における職住一致の居住方式
 4 「小規模間口性」都市における洋風独立建築化の困難と課題
第5章 小規模要素が重なり合う「和風」店頭空間
 1 明治初期の店頭デザイン ―『浪華の魁』『都の魁』から
 2 店頭をつくるデザイン要素
 3 町並みに華やぎをもたらす店頭空間
 4 屋外広告物と「まち通り」「大通り」
 5 屋外広告物と一体化する「和風」軒下空間
第6章 路地空間が息づく都心街区
 1 歴史的都心における路地 ―大阪・京都の事例から
 2 路地の都市比較 ―心斎橋地区と烏丸東地区
 3 都心街区における路地のデザイン ―大阪・心斎橋地区を事例に
 4 路地空間にみる魅力的都市デザイン
第7章 「洋風×和風」の都市デザインと小規模間口・独立建築
 1 キーワードとしての職住共存地区
 2 職住共存地区の容積率と建築像
 3 まち通りでの連接のデザイン ―まち通り型町並みの提案
 4 小規模間口・独立建築の復権を

 おわりに

京都市中京区のマンション化敷地の半数は間口10m以下、15m以下で7割をしめる
敷地を幾つかまとめてできたマンションは2割もなく、大規模敷地を推奨する法制度にもかかわらず敷地の慣性力は強い
 

 
装丁 KOTO DESIGN Inc.
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A5判・176頁・定価2205円(本体2100円)
ISBN978-4-7615-2486-9
2010-05-30 初版発行

お薦めの一冊で中村良夫先生が絶賛
お薦めの一冊2010.8.

担当編集者による紹介
都市計画・まちづくり・地域再生編集日誌2010.5.24



田端修著・既刊書


都市デザインの手法 ☆ 町なかルネサンス
『町なかルネサンス』は品切れです

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