●「和」の都市デザインとは何か
前田:
今回『「和」の都市デザインはありうるか』という本をお書き頂きましたが、「和」の都市デザインという考え方自体がわかりにくいと思いますので、読者の皆様に簡潔にご説明頂けないでしょうか。
田端:
この本では現代の都市の空間とか都市景観が混乱しているわけですが、これを敷地と建築の関係から考えてみようというところから始めました。
日本の都市は間口が狭い小規模な敷地、それを私は和風敷地と呼んでいるのですが、その和風敷地のうえに、高さとか大きさとか、あるいはデザインが違う建物がバラバラに建っています。
それはどうもまずい。
それは建築デザイン上の問題だけではなくて、敷地との関係のなかでこういった問題を考えなければいけないということです。歴史的な和風敷地と近代以降生まれてきた洋風建築をうまく適用していくことを、そういう視点の中で引き出すことができたと思います。
つまり和風敷地は和風建築、町家と対応しているわけです。ところが和風敷地に洋風建築を建てると、これがフィット感がないということだと思います。その結果として、都市景観、都市空間の混乱が起こっているのです。
ではどうするかですが、ヨーロッパの都市を考えると、19世紀を中心に個別建築から長屋建てとか共同建てに変わり、集合化が進められるという大転換が起こったわけです。その結果として、まとまった町並みができあがってきました。
ところが日本の場合はいままでずっと小敷地のママできました。その結果として、申し上げたような問題が起こっているわけです。
これを解決するために小規模な敷地を大規模化するという話は、これから起こりそうにない。うまくゆきそうにありません。小敷地はそのまま継続していくでしょう。ですから、その小敷地をうまく使うということをきちんと考えてなければいけないのです。
ではどう考えていけば良いのか、それが大きな問題なわけです。
そういう問題の総体、が和風の敷地のうえに主として洋風の建築をどう作るかという課題です。これを総称して「和」の都市デザインと呼ぼうと考えました。
●具体的なイメージ
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『都の魁』に描かれたまち通りの看板
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その具体的なイメージとして、本書の第2部では、これまで和風敷地のうえで蓄えられてきたデザイン作法とか、空間文化の蓄積を提示していくようにしました。そういうのをまとめると、これからの都市デザインの大きなヒントになるだろうと思ったわけです。
たとえば間口が小さくて奥行きの長い敷地ですが、これを用途ミックス的な使い方できるんじゃないかとか、あるいは表側はどう使えばよいかといった、敷地利用の提案もしています。
それから、また店頭のデザインについて、明治のはじめに日本の都市の店頭デザインを収集し描いた絵があるのですが、これを分析しまして、店頭デザインのなかに蓄えられている知恵を整理しました。その中で小規模なお店が連続していく町並みというあり方が、日本のまちの程よい賑わいを作っています。一か所に集中するのではなくて、賑わいがまちなかに広がっていくようなあり方でした。
あるいは街区のなかにたくさん路地空間があって、そういうものによって町のなかの賑わい、あるいは魅力が造られていました。
そういうこれまでの蓄積をまとめて、これからの都市デザインのためのヒントとすることができたと考えています。
第3章では、小規模敷地が集まっている場所を、建築基準法と違う枠組みで考えなければいけないのではないかなど、制度的な提案もしております。
●建築家やお施主さんへのメッセージは
前田:
ありがとう、ございます。
最後に短くお答え頂きたいのですが、「和」の都市デザインでは、実際に建物を建てる建築家や、ユーザーの役割が大きくなるのではないかと思いますが、彼らが元気が出るようなお話をお聞かせ下さい。
田端:
元気というのは難しいですね。
これからの建築活動は、かつて経験してきたような活発な状況は、これからも現れてくるとはちょっと考えられません。経済の低成長とか人口減少といった状況が続いていきますから。
つまりヨーロッパの街で起こったような敷地の大規模化は起こらず、小規模な敷地のまま続くと思うのです。だから、そういうことをきちんと認識することです。
そういう都市敷地の特徴をきちんと踏まえて、そのうえで都市デザインの方法、建築の作り方について考えていただくと、世界に珍しい、そして固有性の高い都市空間ができていくのではないかと思います。
前田:
ありがとうございました。