1956年浜松市生まれ。法政大学工学部建築学科、同大学院を経て、イタリア・ピサ大学・ローマ大学大学院にて都市・地域計画学専攻、歴史都市再生政策の研究で工学博士(京都大学)。国際連合地域開発センターを経て、1993年より京都府立大学人間環境学部准教授。国際記念物遺産会議理事、東京文化財研究所客員研究員、国立民族学博物館共同研究員などを歴任。 | ||
『町家再生の論理』を語る京町家の再生は、この十数年間で大きく進展しました。もっとも大きなポイントは町家の住民や事業者の気持ちと、専門家や行政の気持ちが、丹念な応答のなかで一つになっていったことだと本書は主張しています。その点、京都が特殊なのではなく、むしろ普遍的なまちづくりのあり方を示したのではないか。その点を宗田さんに聞きました。 聞き手:前田裕資(編集部)
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京都の話は伝わりにくいともいわれますが前田)『町家再生の論理』を出させて頂いたのですが、なかなか伝わっていないところがあります。 京都ブームなんだからもっと京都のことを打ち出せば良かったという意見と、普通のまちじゃできないよ、という意見があります。それをずっと悩んでいました。 中途半端になった点があったかもしれません。 本当は普通の町でもでもできるという点を伝えたかったのですが、伝えきれなかったのではないかと思いますが、いかがでしょうか。 宗田) そのご指摘は正しいと思います。 全国の町並み保存が今、限界というか、超えなければいけない壁にぶつかっているんだと思うんです。1975年に文化財保護法が改正されて町並み保存が制度として整いました。それはとても良い制度だったのですが、ただ伝建地区の中に保存を閉じこめるという取り組みが進んで来たわけです。 ところが景観法、歴史まちづくり法という新しい仕組みができてきて、閉じこめるのではなく、都市全体の歴史まちづくりを進めようということになりました。そのことに最初に果敢に挑戦して成功をおさめたのが京都なのです。 なぜ京都が最初だったのかということについては、それは京都だからできたとは思うのですが、しかしそこで止まらずに、私の町でも京都以上に歴史まちづくりを進めていこうという人たちに、つまりポスト町並み保存の取り組みを進めていくときに必要なこと、つまり京都で何が起こったかということを、この本で伝えたかったわけです。 1人1人の気持ちを丁寧に集めるその方法論として私がもっとも言いたかったことは、この本のなかにも書いてあるように、住民や事業者がどういう気持ちで町家を選択したか、同時にその町家を選択したことによって何が開けたか、それが新しい町をつくっていくときの、どういうエネルギーになって、それが景観という抽象的な概念ではなくて、明日のあなたの具体的な暮らし、あるいは商業・サービス業のあり方、お店づくりですよね。そこに繋がっていったということ。そして住民や事業者の方は観光客を含むいろんな方たちと交流しながら、21世紀の日本の暮らしはこうだ、それが歴史のある我が町にふさわしい未来だということを、1人1人が着実に発見してらっしゃるんです。 それを皆さんのまちでも1人1人探してくることで、その声を記録し、お伝えし、自分の人生を開くことがまちづくりに広がってくる。それがご家族の幸せ、市民全体の幸せに繋がってくるということです。 市民の未来に対する、あるいは町に対する要求が、上手に一つにまとまったときに、過去を保存するのではない、未来を開くというまちづくりとしての町家の活かし方、その論理がさっと通ったのが、多分京都なのではないかと思います。 その意味で、1人1人の声を大切にしながら、まちづくりの新しい条例をつくり、新しい制度をつくっていくといった町家再生のための京都市の取り組みが一つの形になっていった。 そこを成功しないかぎり、合意形成、コンセンサスを得てその町を変えていくということができない。その1人1人の声を大切にするということが、町家再生であり、まちづくりであるということを是非ご理解頂きたかった訳です。 これから取り組む方に特にお伝えしたいことは前田)地域でこれから取り組んでいこうというときに、あるいは先生のような専門家の方々がお手伝いされるときに、どういう点を特に重視して取り組めば良いのでしょうか。 宗田) 私自身もそういう傾向があるのですが、多くの場合、ついモデルを求めてしまいます。たとえば町並み保存はこうでなければいけない、こういう先生を呼んできて、こういう話を聞こうというところから始めてしまうのですね。 ところがそういうのは地元に根付かないし、たぶん三分の一ぐらいまでの住民の理解は得ることができるけれども、残りの三分の二がなかなか得られない。 だから逆に、ちょっと町並み保存の方向とは違うかもしれないけど、自分はこの町をこうしたいんだという、その町に独特なというか、個性的な考えを持っている方々の意見を丁寧に聞いてきて、この町はこういう理由で町家を選択したんだ、この町並みを選択したんだという論理を組み立てることだと思うんです。 つまり町家再生には全国共通のある論理があるわけではなくて、京都なら京都、金沢なら金沢のそれぞれの論理がある。それは1人1人の町家の住人、あるいは町家の事業者の心の中にあるわけであって、それを丹念に聞いてきて組み立てていくということに、まちづくりの方向を見い出したということです。 そもそも町家保存、町並み保存はボトムアップから始まってきたのですが、その点においては今もまったくのボトムアップです。それを一部の人に限るわけではない。一定の地域に限定するわけではない。 むしろ町全体のなかで歴史を本当に必要としている人たちがいる、歴史を未来への足がかりとしたい人たちが必ずいる。 そこをどう聞き取ってくるか。集めてきて、それをみんなの声にしていくかというところに、論理の普遍化という大きなテーマがあるわけです。 そこを是非、ご理解いただきたいと思います。 前田) 有り難うございます。
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