宗田好史 1956年浜松市生まれ。法政大学工学部建築学科、同大学院を経て、イタリア・ピサ大学・ローマ大学大学院にて都市・地域計画学専攻、歴史都市再生政策の研究で工学博士(京都大学)。国際連合地域開発センターを経て、1993年より京都府立大学人間環境学部准教授。国際記念物遺産会議理事、東京文化財研究所客員研究員、国立民族学博物館共同研究員などを歴任。
 

『中心市街地の創造力』を語る

 街は女性化・サービス化していく、していかなければダメになるということを理解しないおじさんたちが町中に蔓延していて、それが地方都市の活性化を阻害している。ちょっと肩の力を抜いて、新しい時代、この変化を素直に受け入れさえすれば、もっとスムースに街は蘇っていく、と熱っぽく語られました。

聞き手:前田裕資(編集部)
 

この本で一番、伝えたかったことは

宗田)
 まず都心の衰退、商店街が厳しいということは長年言われているのですが、従来の認識では的確に問題を捉えていない、したがって従来の政策、対応策では効果がないということです。
 まず、その根底にある原因、一商店街とか一地方都市の努力ではとても解決できないということを訴えるとともに、同時にその変化の内実を明らかにすることで、だったらどう対応すれば良いんだということを、1人1人の事業者、商業者の人に考えてもらう、合わせて自治体にも考えてもらうということです。

町の女性化、サービス化

 たとえば女性の消費はこの日本でもすでに全消費の63%、アメリカでは73%になると言われています。
 実際に女性の消費が伸びている結果として、町の女性化が起こっている。物を買わずにサービスを求めている。居心地の良い場所を求めている女性が増えているのです。
 この女性化、サービス化が町を変えていくエネルギーになっています。だからそこを捉えさえすれば、町はどんどん活性化していくにも拘わらず、未だに世の中が女性化・サービス化していることを気づかないのか、気づかないふりをしているのか、昔ながらのやり方でやっている人たちがいるわけですね。
 この人たちが頑張れば頑張るほど、中心市街地は衰退していくんだという矛盾があるのです。
 そこに是非、気づいて欲しいのです。
 女性の消費が63%、さらに今後10年、20年の間に70、80%へと伸びていくことが予測できるんだったら、そのことを的確に理解している女性の事業者が絶対に必要です。その女性たちの発想、女性たちの考え方が良いんだということを素直に認めてあげる、それを特にご年配のリーダーたち、社長さんたちであったり、市長さんであったりしますが、その人たちに期待したいのです。
 その人たちの発想を変えないかぎり、実は、すでにもう邪魔なおじさんたちが町中に蔓延していて、それが地方都市の活性化を阻害しているという現実に対して、なんら手を打たないまま状態が悪化していくということになるわけです。
 女性化・サービス化ということは、確かに受け入れるのが難しいかもしれない。今までずっと男性優位の社会が続いてきて、高度成長のときは何もしなくても、立地さえあれば商品が飛ぶような時代だったのです。
 ただ、反面、ご自身の家庭のなかで起こっている変化に気づいてくだされば、もっと謙虚に、この大きな変化が理解できる。奥さんの振るまいも、お子さんたちの暮らしぶりも随分変わっている。
 そのことが、あなたの暮らしを貧しくさせているわけでも決してなければ、不自由にしているわけでもない。むしろ、そのことであなたの家族は幸せを得ている。この幸せが町の商業、サービス業の本質だということですね。
 だからもっとみんなが喜ぶような町をつくってあげるということを、ちょっと肩の力を抜いて、新しい時代、この変化を素直に受け入れさえすれば、もっとスムースに進んでいきますよ。そんなところに実は未来を開いてくれる元気な事業者が溢れている。
 そのことを、ありとあらゆる証拠が示しているにも拘わらず、頑固な昔気質なお気持ちがそれを理解することを阻んでいる。ちょっと肩の力を抜いて素直になろうよ、ということを言いたかったのです。

具体的に都市はどのように変わっているのでしょうか

宗田)
 具体的にということをことを言われると分かりにくいかもしれませんが、今は、都心が衰退して郊外のショッピングセンターが栄えているとう形ですが、そうではなくて、次に何が来るかと考えると、もう一度、都心にあるような創造的で個性的なご商売、サービス業だったり、商業だったりすると思いますが、そういうものがぐっと伸びてくると思います。
 実際、イタリアの町とかアメリカの元気な町で起こっていることなんですが、そういうことを担う創造的な業種の人たちが女性化したり、サービス化したり、あるいはもっともっと急速に変わっていくお客様のニーズに対して的確に答えていく。そこでお客様とのコミュニケーションを進めながら、大型店ではできないような質の高いサービスが展開していくとういうことになると思います。
 そのことが力になって、今度はデパートのようなビルのなかではなくて、個性的な町家とか、緑豊かな水辺の空間といったところが、そういうお客様と事業者のコミュニケーションが成立する場所として元気になってくる。
 それが町を大きく変えていく。文化的にも風景的にも変えていく大きな力になっていくと思います。

実際に起こっている場所は

前田)
この本のなかで、そういうことが具体的に起こっている事例が書かれているのですか?

宗田)
私は京都で見ていますが、三条通がなぜ元気になったかということ。あるいは北山とか。
 それから『創造都市のための観光振興』という観光まちづくりの本も書いていますが、そこでは長浜とか彦根といった町で具体的に起こったことを挙げています。
 こういう優れた事例はいくつかあるのですが、それを観光地のことだ、あるいは京都特有のことだと見てしまって、そこで起こっている本質的なこと、地方都市の中心市街地を活性化するポイントを捉えずに、東京の真似に走ってしまうというところに、長く続いた日本の弊害が端的に現れていますよね。
前田)
 なるほど。有り難うございました。

 

『中心市街地の創造力』目次

序章 いま都心で何がおこっているか

1 暮らしが変わる、街が変わる
2 誰が都心を必要としているのか
3 暮らしが街を変える

第1部 暮らしの変化、都心の変化

第1章 変わる市民、変わる家族と家計、労働

1 都心商業の危機─なぜ商店街は追いつめられているのか
2 モノからソフトへシフトする消費構造
3 家計の変化、家族の変化
4 労働時間の変化、時間消費が変化
5 変化する都心の住民と家族
6 都心のコミュニティはどう変わったか

第2章 店が変わる、地域が変わる ― 増える業種と減る業種

1 元気な街にはわけがある─京都四条界隈
   ◆業種別、立地特性と業態の変化
   ◆通り別調査
   ◆町家再生店舗の増加
   ◆都心が変わる仕組みとは?
2 大型店頼りの京都駅周辺
3 二極化する郊外駅前商店街
4 郊外大型店地域に荒廃の兆し、夜間営業、犯罪の増加

第3章 サービス化する都心、女性化する都心

1 都心ビルの変化、業務機能(銀行・証券)が流出
2 空いたテナントを埋めた業種、誰が都心に来るようになったか
3 女性化する都心、増える美容院とエステ
4 オフィスに取って変わる語学教室、学習塾
5 もう一つの賑わい健康・スポーツ系
6 都心から撤退気味のパチンコ、カラオケ系
7 なぜ美容院は増えるのか
8 日々女性化する都心、その先に何が見えるか

第4章 誰が都心商業を支えているのか

1 商店街の歴史的変化と商店街振興策の行き詰まり
2 崩れた商業集積・商店構成の積層性
3 もはや不可能に近い商店街全体の救済
4 では誰が都心再生を支えているのか
5 小さな事業者、新規開業を支える地域金融が鍵

第2部 都市再生の方途

第5章 心が弾む都心をつくる

1 都市商業が憧れの場をつくる
2 市民・商業者がつくる都市の文化とは
3 都市の文化的連続性を担う事業者の役割
4 ハコモノ、受身の文化からの脱却―地方都市の文化はなぜ再生しないか
5 文化産業を産む小都市とは

第6章 訪ねて和む都市をつくる

1 変わる観光、観光地化する都心
2 都市型観光を支える元気な事業者
3 和装業界の新展開「勝負服としてのキモノ」
4 街を変える人々のネットワーク
5 事業者の個性をきわだたせる町家
6 これからの都心に相応しい町をつくる

第7章 歩いて楽しい都心をつくる

1 モール化はなぜ進まないか
2 歩行者優先の実利を示す
3 都心の駐車場化を止めるための交通制御

第8章 コンパクトな都心をつくる

1 中心市街地にはダウンサイジングが必要
2 都心の変化を地価でみる
3 都市開発の成果を見る指標としての地価変動
4 日本的エリアマネジメントと商業計画

第9章 都心を守るために自治体がすべきこと ─ 商業立地政策と商業計画

1 都心商業が再生する方策は豊富にある?
2 失敗した中心市街地の活性化施策
3 自治体にとってなぜ都心再生が必要か
4 大型商業施設の規制、京都市の商業集積ガイドプラン
   ◆京都市の土地利用転換問題
   ◆まちづくり条例とは
   ◆商業集積ガイドプランが示すまちづくり方針
   ◆まちづくり条例の効果、その実例
   ◆合意形成を図る都市計画への模索
5 より厳しい規制を望んだ金沢市、商業形成指針

第10章 都心を守り育てる都市再生の手法 ― 商業都市計画論

1 地方都市の再生に向けた地域経済の自立、都心を自らの手に
2 地方都市再生の処方箋
   ◆小さな町と村の中心市街地
   ◆小規模都市の中心市街地
   ◆中規模都市の都心再生
   ◆特例市の都心の役割
   ◆中核市の都心再生
   ◆政令指定都市の都心再生
3 都心商業集積のダウンサイジング・モデル
4 創造的企業活動を支援するために

終章 明日の都心に私たちは何を望むか

1 都心の暮らしを取り戻す、賑わいを取り戻す
2 都心の文化的連続性を取り戻す
3 市民に愛される都心をつくるために

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