宗田好史 1956年浜松市生まれ。法政大学工学部建築学科、同大学院を経て、イタリア・ピサ大学・ローマ大学大学院にて都市・地域計画学専攻、歴史都市再生政策の研究で工学博士(京都大学)。国際連合地域開発センターを経て、1993年より京都府立大学人間環境学部准教授。国際記念物遺産会議理事、東京文化財研究所客員研究員、国立民族学博物館共同研究員などを歴任。
 

『創造都市のための観光振興』を語る

観光客が増えても、それを受け止める産業がなければ観光公害だけが残る。つまり人を元気にする、特に女性の創造的な仕事を応援することが観光振興の成否をわける、と語られました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

この本で一番、伝えたかったことは

 今、日本は観光立国を標榜して全国各地で観光振興をはかろうとしているのですが、そもそも私は観光立国、観光振興について大きな誤解というか、曖昧さがあると思います。
 というのは少なくとも自治体のレベルから見てみると、観光振興とはその自治体のなかの商業・サービス業、そしてもちろん観光事業者を含む部分の生産性が上がってくれて、そのことが地域経済を活性化していくという仕組みだと思うんですね。
 ただ観光客が増えるだけで、観光消費を受け止めることをできなければ、自治体にとっては観光に関連する支出が増えていくだけで、決して住民の暮らしを豊かにすることに結びつかない、むしろ観光公害だけが残ると思います。
 その意味で、元気な商業者、事業者を育てていくということが、振興の大きな柱になると思います。
 実は観光立国の基本政策のなかには、そのことがうたわれています。日本は製造業と比べると、商業・サービス業のグローバル化が遅れている。あるいは、生産性の向上に大いに遅れをとっていて、未だに零細な家内工業的な部分がたくさん残っている。
 そのところをどう国家戦略にふさわしいような元気な事業者にしていくか、その生産性の向上という大きな課題があるわけです。
 そのことが実は創造都市、あるいは小さな創造的なビジネスを伸ばすことだと、本書では言っている訳です。

創造的な女性に活躍の場を

 いま生産性が低いということは、たとえば人件費がかかりすぎるということです。京都でも旅館の皆さんは、人件費をどう削っていくか、あるいは人件費を高く維持したまま、質の高いサービスで売っていくかに苦労されています。そのためには、ラグジャリーな、あるいは稼働率が高いといった形で生産性を上げるなければなりません。しかし、それが期待できない、稼働率が7割を切るような旅館では、どうしても人件費を圧縮する必要がある。
 そしたら、そこで浮いた、あるいは整理された人員をどういうビジネスに振り当てるか、どういう雇用を確保するかということになりますが、そこにいろいろな可能性があると思うんですね。
 たとえば、旅館には仲居さんがいますが、昔は地元の女性たちの一つの重要な働き口であったわけですが、この間、女性の能力はどんどん上がってきて、男性以上にクリエイティブな仕事ができるようになっている。
 町は女性化しているんだ。特にサービス産業で女性の力は大きいんだということが、よく言われていますが、その方たちが従来の観光ビジネスでは提供できなかったような、質の高いサービスとか商品を提供している。ここに凄い潜在的な力があると思うんです。
 彼女たちは地元の人たちであって、同時に彼女たちなりに地元の観光としての魅力とか、文化遺産の魅力をよく理解しています。これを便乗商法とか便乗商品だといった言い方をせずに、その地域の文化的な価値のカストゥーディアンという言い方をしていますが、その町の守り神、守り手として、どうまちづくりのなかに活かしていくか。
 彼女たちの創造的なビジネスを通じて観光地の魅力を発信する。決して景色やお寺を見てもらうだけじゃない。彼女たちの生き様、働き様というのを見て観光客が愉しんでいく。そういうまちづくりに大きく変えていくということが観光振興ではないか。
 つまり人を元気にする、特に女性を元気にするということが観光振興の成否をわける大きな鍵になるのではないかということを伝えたかったわけです。

前田)
 どうも有り難うございました。
 

『創造都市のための観光振興』目次

Chapter1─地方都市が観光振興のためにすべきこと

1 観光振興策の根本的間違い
2 まず、日帰り観光客を確実に増やせ
3 観光客の五感を満足させる街を創れ

Chapter2─観光の大きなトレンドを知る

1 京都観光の主流は男性から女性、若者から中高年へ
2 観光の中心は名所旧跡巡りから、お洒落な街へ
3 観光旅行は団体からグループへ、個人へ
4 変化のキーワードは多様化、深化、日常化
5 変化を受け止めるのは街の多様性と文化力

Chapter3─何が観光客を惹きつけるのか

1 観光客が本当に買いたいものは
2 その街のステキな市民が育てた逸品こそ魅力
3 商品・サービスの魅力を生む市民の芸術力
4 文化遺産を産業の付加価値に活かすアーティスト
5 観光都市から創造都市への転換
6 遺産の守り手(住民)と第三の市民(観光客)
7 進む市民と観光客の融合

Chapter4─市民も観光客も楽しむ街──京都・長浜・彦根

1 女性化した観光客は京都をどう変えたのか?
2 女性の好みにあわせて深化する京土産
3 市民も観光客も日常的に楽しめる飲食店
4 地方にも芽生え始めた個性が光る店
5 サービス化、飲食店化が中心市街地を変貌させた彦根市
6 小洒落た商品を小綺麗な店で売る長浜の黒壁
7 地方の歴史都市、町並み保存の先にあるべきもの

Chapter5─地域の雇用を生み出す観光政策へ

1 観光消費が伸びない町に欠けているもの
2 観光消費を伸ばすには飲食・買物が決め手
3 官が観光施設をつくっても消費は伸びない
4 これから観光政策は何をすれば良いのか
5 小さな公共事業で街の魅力を高め新規事業者を育てよ

Chapter6─感動できる町並みを創る景観まちづくりへ

1 景観保全と観光の今日的関係
2 文化財保存から美しい街の創造へ
3 祭りの感動が味わえる町並みを創る
4 美しい街に配慮した事業者が栄える仕組みをつくる

Chapter7─歩いて楽しい街を創る交通政策へ

1 溢れかえる車が街の魅力を台無しにする
2 歩くことの楽しさが復活してきた京都観光
3 観光消費を伸ばすための交通政策を

Chapter8─多様な力で動かす創造都市への道

1 観光まちづくりは個人の小さなビジネスの応援のため
2 観光の創造力を生むアーティストたち
3 グローバル化の2つの活かし方
4 観光地を育てる都市計画と文化・商業政策
5 創造都市に向けた観光まちづくりの進め方

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