宗田好史 1956年浜松市生まれ。法政大学工学部建築学科、同大学院を経て、イタリア・ピサ大学・ローマ大学大学院にて都市・地域計画学専攻、歴史都市再生政策の研究で工学博士(京都大学)。国際連合地域開発センターを経て、1993年より京都府立大学人間環境学部准教授。国際記念物遺産会議理事、東京文化財研究所客員研究員、国立民族学博物館共同研究員などを歴任。
 

『にぎわいをよぶイタリアのまちづくり』を語る

10年前に書かれたイタリア研究の本を振り返りながら、日本の田舎を再生してゆくために、イタリア研究が生かせないか、次の課題として取り組みたいと語られました
本書は品切れ中ですが、近々電子書籍で復刊予定です。また次作はもうすぐ原稿完成です。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

この本で一番、伝えたかったことは

 私がイタリアと出会ったのは70年代の終わりに陣内秀信先生の授業を受けたこと、特に陣内先生が書かれた『イタリア都市再生の論理』や『都市のルネサンス』という本に感銘を受けた訳ですが、そのあと、そのことを詳しく知るためにイタリアに留学しました。
 ピサとかローマとかいった町、あるいはフィレンツェなど、イタリアのいろいろな町を歩きながら、どうしてこんな綺麗な町が残っていて、かつそのなかで商業もサービス業も元気なのか、それは多分、日本の豊かさとは違う別の仕組みがあるのだろう。この社会のなかにも、あるいはまちづくりの仕組みのなかにもあるだろうということ気づいたのです。
 それで、その仕組みを一つずつ調べていって明らかにするということを考えました。
 ちょうどこの本を書く7年前に京都の大学に職を得て、京都のまちづくりに関わるようになったのですが、確信を得たことはイタリアのまちづくりの仕組みが京都を再生するのに非常に大きな力になるということです。
 実際にイタリアのまちづくりの本を書くうえでは、京都の町をこうしよう、ああしようということが全て念頭にあって、京都の町家はこうすべきだ、京都の老舗はこうすべきだ、新しい観光政策はこうあるべきだ、文化はこう捉えるべきだということを意識して書いたのです。
 これは2000年に出した本ですが、思いの外早く、10年の間に京都は随分変わってきて、この本に書いた一つ一つが実現できています。まさにもう一息というところです。
 京都にはイタリアのようなお洒落なブティックも出てきました。それから、言うまでもなく京都の景観政策は大きく進んで、まだこれからではありますが、着実に京都のこれからのまちづくりは、京都がフィレンツェやローマに負けないような美しい町になっていくということを、目ざしている。その手がかりをしっかりと掴んでいると思います。
 同時にイタリアの町と同じように町家とか、いろんなお店のなかで様々な文化活動が行われ、アーティストあるいは職人さんがクリエイティブな質の高い仕事をするようになっている。
 これが21世紀の都市の姿だなあということがよく分かってきて、こういうことをすれば、歴史まちづくりが市民の合意形成を経たうえで町を変えていくということが良く理解された。それを京都の市民の皆さんと一緒に共有することができるようになったことを心から喜んでいるわけです。

次の課題

 ただ、その後もイタリアの町は進んでいて、いまイタリアではスローフード、スローシティということが話題になっていますが、京都以外の日本を見ると、たとえば何故、日本では農業観光、農村観光がうまくゆかないのか。その仕組みとか、あるいは日本人の暮らしが、これだけイタリア好きの日本人でありながら、まだワークライフバランスが変わっていないといったような残された課題があると思います。
 それは、これからまたイタリアを見つつ、もちろんイタリアだけが良いとは言いませんが、イタリアからヒントを得ながら、日本らしい田舎のあり方、日本らしいまちづくりのあり方を模索しつつ、イタリアで得たヒントを日本らしい形で具現化していくということが、これからの課題だと思っています。

田舎の町は

前田)
 イタリアはフィレンツェのような大きな町だけではなくて、小さな町も元気で綺麗ですね。
 さきほどイタリアの本を書くときに京都の問題をすごく意識して書かれたとおっしゃいましたが、もしこれからイタリアのご紹介をしていただくとしたら、日本の小さな町の問題を意識して書いて頂くことは可能なのでしょうか。
宗田)
 そうですね。フィレンツェが大きいといっても京都の三分の一です。ミラノに匹敵するぐらい京都は大きな町なのですが、日本でも人口50万、あるいは20万、30万といった町をどうするかが、これからの大きなテーマとしてあると思います。
 同時に日本の膨大な田舎ですよね。これをこれからどう考えていくかということは大きな関心事です。
 実際、自分で歩いてみると、ほんとにイタリアの小さな町は元気で、ワクワクするような楽しい町並みが広がっていて、お店やレストランで過ごしてもローマやフィレンツェのお店で過ごすのとは違った、質の高いサービスが提供されます。
 この秘密はもう一度丁寧に解き明かしていく必要があります。イタリアでも大都市と地方の差はあるわけですし、それは1人1人の意識のなかにもあるわけですが、その差を克服するというのとは違うと思うのですが、もう一つ別のイタリアの田舎再生の論理というのがあるのじゃないかと思います。
 日本の田舎を再生してゆくためには、国民の意識がどう変わるかをつきつめて、田舎が元気になる方法、田舎に暮らすことはこんなに楽しいということを、日本に紹介できるようなイタリア研究の本を書きたいと思います。
前田)
 是非、お願いします。期待しておりますので。
 どうも有り難うございました。

○アマゾンリンク
宗田好史著『にぎわいを呼ぶイタリアのまちづくり―歴史的景観の再生と商業政策
陣内秀信著『イタリア都市再生の論理 (SD選書 147)
陣内秀信著『都市のルネサンス―イタリア建築の現在 (1978年) (中公新書)

 

『にぎわいをよぶイタリアのまちづくり』目次

1章 都心を活かすまちづくり イタリア都市計画の30年

1・1 イタリアのまちづくりへのまなざし
1・2 イタリア都市計画の戦後
1・3 中心市街地衰退の問題、都市商業再生のシナリオ
1・4 都市行政の地方分権化という改革
1・5 市民参加の推進
1・6 広がりゆくイタリアのまちづくり―農村景観の保存と再生

2章 都市の個性を活かす 都市計画制度はどう整えられたか

2・1 ファシズム期の都市計画法と革新勢力による公営住宅用地取得法
2・2 〈橋渡し法〉による都市計画法改正とその内容
2・3 歴史的都心部での建築行為の規制
2・4 ブカロッシ法による建築許可の強化
2・5 建築不自由の都市計画制度の問題点と評価
2・6 国土計画と景観計画、1985年〈ガラッソ法〉
2・7 イタリアの都市計画制度とまちづくりの矛盾

3章 建物を美しく、都市を魅力的に 保存修復計画とその経済効果

3・1 建造物から歴史的都心部全体の保存へ
3・2 歴史的都心部保存から、都市の建築遺産の有効活用へ
3・3 建築修復から歴史的都市と歴史的地域の再生、再評価へ
3・4 建築保存の経済的規模
3・5 都心住宅の保存技術の普及と革新
3・6 商業建築の保存技術の開発と普及
3・7 都市再生と建築保存

4章 歴史的建造物を活かす 文化財保護と建築修復技術の発展

4・1 ヨーロッパの歴史的建造物へのまなざし・・保存か活用か
4・2 イタリアの歴史的建造物保存の起源
4・3 文化財保護法による文化財の定義と建造物の修復
4・4 歴史的環境保全のための法律・・文化財保護から歴史的景観・環境への広がり
4・5 都市の景観、修景計画から地域の景観計画へ
4・6 建築物の『修復マニュアル』に示された建築修復の広い考え方

5章 街中の暮らしを楽しむ 都市居住はどう回復したのか

5・1 都心部の衰退と住宅問題
5・2 大規模再開発によらない都市の再生、都心の活性化
5・3 都心への回帰・・ジェントリフィケーション
5・4 住民階層の変化にみるイタリアン・ジェントリフィケーションの特質
5・5 イタリアン・ジェントリフィケーションを支えた零細商工業の変化

6章 町並みの魅力を演出する 都市デザインの仕組みと都心再生

6・1 歴史的都心部屋外広告物に関する条例
6・2 ローマ市歴史的都心部広告物条例、特別規定の手法と効果
6・3 歴史的都心部の変遷、中心市街地の形成と都心商業の変化
6・4 歴史的都心部景観条例の発展
6・5 歴史的都市にふさわしい景観デザイン規制手法の確立

7章 ブティック街の誕生と出店規制 中心市街地のための商業計画とその運用

7・1 都心小売商業再生に歴史的景観保存が果たした役割
7・2 ヨーロッパの都心商業の衰退と対策の推移
7・3 イタリアの都心商業政策
7・4 中心市街地を活性化する手法と組織
7・5 歴史的市街地を活かした活性化

8章 都市型産業の展開 職人企業が都心活性化に果たした役割

8・1 職人企業の構造と特色
8・2 イタリアの中小企業の特色
8・3 新しい流れ・・都市型産業としてのサービス部門の職人企業
8・4 サービス業を支える歴史的都心部
8・5 自治体の産業政策と職人企業
8・6 消費者を育てる脱工業化時代の文化政策
8・7 文化とサービス業を支える盛り場づくり

9章 歴史文化に遊ぶ 変わりゆく歴史都市の観光政策

9・1 新しい観光形態としての都市型観光とその制御
9・2 都市型観光の振興をめざす都市政策
9・3 近年の観光客と観光行動の変化
9・4 オルターナティブ・ツーリズムとヘリテージ・ツーリズム
9・5 フィレンツェ市の都市型観光政策・・施設の有効利用のために
9・6 ヴェネツィア市の場合・・沈みゆく水上都市の入場制限
9・7 イタリアの今後の都市型観光政策

10章 地方分権がまちづくりに与えた効果 コムーネと市民の役割

10・1 コムーネの歴史的側面・・現代のコムーネが受け継いでいるもの
10・2 現行憲法におけるコムーネの曖昧な位置づけとその問題点
10・3 コムーネの機構、権限と役割
10・4 コムーネ行政の分権・参加制度
10・5 住民の変質と参加意識の変化
10・6 首都ローマとローマ市行政
10・7 地方分権のゆくえとまちづくり

11章 イタリアのまちづくりの思想 一人ひとりを大切にする暮らしの知恵

11・1 イタリアブームの背景に
11・2 保全的開発政策の都心再生メカニズム
11・3 都市再生のメカニズムをささえる合意形成

関連講演会記録

イタリアの都市デザインと商業調整
都市環境デザインセミナー 2000年第4回記録
美しい都市景観の新たな取組に向けて
都心界隈の新しい景観を考えるシンポジウム記録


好評既刊書


にぎわいを呼ぶ イタリアのまちづくり  ☆ 中心市街地の創造力  ☆ 町家再生の論理  ☆ 創造都市のための観光振興

学芸トップ ☆ 著者からのメッセージ・トップ


貴方は人目(11.4〜)の訪問者です。