関 満博氏 1976年、成城大学大学院経済学研究科博士課程修了。現在、一橋大学大学院商学研究科教授(経済学博士)。 1970年代以降30年間にわたり、日本とアジアの地域の「現場」に分け入り、人びとの「誇りと希望と勇気」を丹念に見出す調査の旅を続けている。1994年第34回エコノミスト賞、1997年第19回サントリー学芸賞、1998年第14回大平正芳記念賞特別賞など受賞
 

『「農」と「食」のフロンティア』を語る

2010年8月、当社を訪ねていただいた関さんに、『「農」と「食」のフロンティア』の執筆への抱負をお聞きしました。中山間地域にこそ日本の地域づくりの未来があると熱く語られました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

本書の狙いは?

前田:
 今回の『食と農のフロンティア〜中山間地域に元気を学ぶ〜』は、どんなことを訴える本なのでしょうか。
関:
 戦後60年は、いわば物づくりを軸にして発展してきましたが、ここにきていわば手詰まりになっているというなかで、はてさて、どうしたものかということになっています。
 特に都市と地方の格差が著しいということもあり、地方の問題が重要になってきているといくことだと思います。
 そこを詰めてゆくと、中山間地域問題に突き当たります。昔の過疎地域のことですが、そこが大変苦しいと言うことです。
 ところが実際に行ってみると、中山間地域のいろんなところで、いろんな取り組みが行われていて、特にご婦人方が新しいビジネスを始めたり、集落で新しい仕事をつくったりということで、人びとが自立しはじめているということが良く分かりました。
 ここから日本が変わっていくのかもしれないということを、現場を回りながら意識しています。
 そういった中山間地域問題とビジネス、集落ビジネスですね、それから人々の自立といったあたりを軸にして、まちづくり、むらづくりを考えていく。そういったことをこの本では進めていきたいと考えています。
 特に全国の具体的な取り組みに注目して、それを紹介しながら、全体を構成していって、皆様に分かりやすくご説明していきたいと思います。そして、次の日本を考える一つの手がかりにしていただければなあと考えています。

パン屋さんは今日も楽しい(関満博 氏撮影)

取り上げる地域は?

前田:
 今回、目玉と言いますか、特に取り上げたいと思っておられる地域はどこでしょうか。
関:
 一つは中国地方ですね。岡山県とか島根県とか広島県です。
 中国山地が、この種の問題を考えるときの一番の先端にあります。不思議な輝きを示している人たちがいる、あるいは集団がいます。そういった人たちと巡り会うことによって、むしろ都市に住んでいる我われが勇気を貰えるのではないかとさえ思います。
 農村地域、中山間地域の問題は、どうも西側から動いていくという傾向があります。
 だいたい広島、島根あたりからいろいろな事態が動いて、それが全国に伝搬していくという感じです。今、それが始まったばかりです。
 これから20、30年は、中山間地域を中心として地域の問題が語られていくのだろうと思っています。

中山間地域の不思議な輝きとは?

前田:
 不思議な輝きを、もう少し具体的にお願いします。
関:
 皆さんも直売所にいったことがあると思いますが、直売所にいくとそれを担っているご婦人たちとか、それからお客さんも、なぜか笑顔なんですね。
 逆に東京あたりのスーパーにいくと、人びとは暗い表情をして、籠に物を放り込むだけですが、むしろ中山間地域の直売所とか、農村レストランとか、小さな加工所がありますけれども、そういうところで働いている女性たちは元気いっぱいなんですね。
 それは自立していると言うことではないかと思います。
 自分の意思で、事業活動のなかに自分が参加して、社会に貢献しているという意識を持てるというあたりが、たぶん、彼女たちの表情を輝かしいものにしているんだろうな、というように思います。
 どうでしょうかね。人の幸せは自立することではないかと思うのですが、その一つの流れが中山間地域から起こってきているということだと思います。
 我われは自立の心を取り戻して、地域との関係をつくっていくという時代に踏み込んでいるんじゃないかと考えています。

加工場でフキを煮ている年配の女性(関満博 氏撮影)

再生には、かなり時間がかかるでしょうか

前田:
 最後ですが、さきほど20、30年は中山間地域が焦点になっていくとおっしゃいましたが、かなり長い期間が必要だと言うことでしょうか。
関:
 すでに成果が上がっているところもありますが、それが地域的に広がっていくには多少時間がかかると思います。
 おそらく21世紀の前半は、そういった中山間地域とか、農村地域を焦点として、新しいうねりが生じてくると思います。
 世の中、辺境という言い方がありますね。中山間地域は日本の辺境ですけれども、置かれている状況が変わりますと、辺境は一変して先端に変わりうるということです。
 そういった先端にたどり着き始めているというのが現状ではないかと思います。
 ここをうまく抜けていくと、とても輝かしい国、地域になっていく可能性が高いと私は見ています。
前田:
 有り難うございました。

日本の原風景、畑地区の「柿小屋」(関満博 氏撮影)
 

「農」と「食」のフロンティア

●予定目次●


はじめに

○1 中山間地域への招待
  • 「村」が3つに分解した
  •  「自立」に向かう村/岡山県新庄村
  •  「中山間地域」とは何か
  •  「農産物直売所」「農産物加工場」「農村レストラン」──3点セットの展開
  •  「集落営農」の推進
    ○2 農産物直売所は地域との「出会いの場」
  • 「農産物直売所」とは何か
  • 誰もがここに来て「笑顔」になる場
       ──島根県邑南町[旧石見町]/農産物直売所「香南市」
  • 女性たちの直売所と加工場
       ──岩手県二戸市[旧浄法寺町]/進化し続ける「キッチンガーデン」
  • 旧村の思いを込めた直売所
       ──高知県四万十町[旧十和村]/女性たちの活動母体「おかみさん市」
  • 日本最大級の農産物直売所
       ──長野県伊那市/出入り自由の「グリーンファーム」
  • 「農産物直売所」のゆくえ

    ○3 地域活性化を願う農村レストランの展開
  • 「農村レストラン」とは何か
  • 栃木県の「農村レストラン」の草分け
       ──栃木県佐野市[旧葛生町]/そば街道の起点「仙波そば」
  • 「過疎」という名前が生まれた町
       ──島根県益田市[旧匹見町]/高齢女性たちの「萩の会」
  • 四万十川流域で「仕事づくり」と「食事の場」提供
       ──高知県四万十市[旧西土佐村]/清流を楽しむ「しゃえんじり」
  • 3点セットを展開する開拓集落
       ──栃木県那須塩原市[旧塩原町]/法人化に向かう「アグリパル塩原会」
  • 「農村レストラン」のゆくえ

    ○4 中山間地域の女性起業と小さな加工
  • 「小さな加工」の意味するもの
  • 「小さな加工」から、体験、宿泊まで
       ──岩手県久慈市[旧山形村]/農産加工グループ「成谷自然食の会」
  • 女性たちが神戸で評価されるパンを目指す
       ──島根県津和野町[旧日原町]/田園の中の「はたのパン屋さん」
  • 女性起業と農作物の受託加工
       ──福島県会津若松市[旧北会津村]/次に向かう「企業組合ぴかりん村」
  • どぶろく特区と農家食堂、民泊
       ──高知県三原村/「濁酒特区」の展開
  • 「小さな加工」のゆくえ

    ○5 集落営農が中山間地域を変える
  • 「集落営農」とは何か
  • 日本初の集落営農の農事組合法人化
       ──島根県津和野町/農事組合法人「おくがの村」
  • 「農」と「環境」の田園都市の新たな取り組み
       ──北海道江別市/株式会社「輝楽里」
  • 中山間地域直接支払制度で直売所を展開
       ──岩手県奥州市[旧江刺市]/「伊手地区」全体の取り組み
  • 「ぐるみ型」集落営農の展開
       ──長野県駒ヶ根市/農事組合法人「北の原」
  • 「集落営農」と進化の方向

    ○6 中山間地域の「自立」と「豊かさ」
  • 中山間地域へ「希望」と「勇気」を
  • 農村レストランと攻めの産直
       ──岩手県葛巻町/「江刈川集落」の取り組み
  • 戦国時代から続く集落の仕事
       ──島根県東出雲町/原風景の中の「畑ほし柿生産組合」
  • 集落再生に向けたこだわり豆腐と、次の一手
       ──島根県益田市/若者たちも集う「真砂地区」
  • 無農薬栽培、露地飼いの養鶏で「楽園」を形成
       ──高知県四万十市/3代目の若者が継ぐ「一圓農場」
  • 「庭先集荷」まで行う地方青果卸市場
       ──高知県香南市[旧赤岡町]/株式会社「赤岡青果市場」
  • 地域に対する「愛情」の深さ

    ○7 中山間地域の「未来」
  • 中山間地域と限界集落
  • 中山間地域の新たな取り組み
       ──島根県と高知県
  • 中山間地域の新たな「価値」の創造

    むすび
     

  • 出版記念セミナー(01.01.19)



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    グリーンツーリズム

      

    農ある暮らしで地域再生

      

    季刊まち16号





    出版記念セミナー

    ・2010年1月19日
    ・京都・学芸出版社
    詳細&申込み

    『「農」と「食」のフロンティア』ご注文受付

     

    関満博著『「農」と「食」のフロンティア』
    〜中山間地域から元気を学ぶ〜
    四六判、240頁、2000円+税(2100円)
    2011年1月1日発売
     

    『「農」と「食」のフロンティア』(送料315円)

     
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