大西 隆 東京大学大学院教授。東京大学大学院博士課程修了、長岡技術科学大学助教授、AIT助教授、MIT客員研究員、東京大学助教授、同教授、同先端科学技術研究センター教授を経て、2008年4月から現職。東大まちづくり大学院コース長。国土審議会、産業構造審議会委員。専門分野は、国土計画、都市計画。
 

『人口減少時代の都市計画〜まちづくりの制度と戦略』を語る

時代にそぐわなかった都市計画制度をどう改革し、まちづくりを支える法制度に変えていくか。東大まちづくり大学院のシリーズ第3巻の狙いをお聞きしました。またハード系の事業量は減ったという面はあっても、まちづくりへの市民の関心は高くなっており、今こそもっと広い視野で取り組もうと語っておられました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

本書の狙いは

前田:
 今度、『人口減少時代の都市計画』という本をお書きいただき、ちょうど、原稿が揃ってこれから校正に入っていくところですが、この本の狙い、どんな人にお読み頂き、どう役立てていただきたいか、ということをお話いただきたいと思います。
大西:
 まちづくり大学院シリーズの第3巻として、出版準備をしているということなのですが、都市計画法が一つの節目を迎えていて、その抜本改正が必要だと各方面で言われていますが、その問題に焦点をあてて「執筆陣は抜本改正の方向をどう考えたのか」をまとめたのが、この本です。
 その背景としては、やはり人口が減る時代になり、逆都市化の時代になってきて、都市化の時代につくられた制度とはだいぶ違う制度が必要になってきたということが大きなポイントになると思います。
 一つには歴史的に都市計画法の沿革を整理しているパートがあります。
 それから都市計画は土地利用とか施設整備、あるいは市街地開発といったいくつかの柱から出来ていますので、それぞれの柱の専門家にそのパートを振り返ってもらって、さらに将来を展望してもらいました。

 実は都市計画法の改正は、自治体ベースの、あるいは市民参加型のまちづくりということと、深く関係しています。新しい動きがすでにそういうかっこうで始まっています。そういう条例によるまちづくりとか、参加型のまちづくりということについても、将来を展望するというところに力点がありますが、書いて頂きました。
 さらにケーススタディもそうした先進的なケースを集めているので、お読み頂くとこれからまちづくりの制度がどうあるべきなのか、あるいはそこに自治体や市民がどういうふうに加わっていくべきなのかを考えていただくのに参考になるものなったのではないかと考えています。

自治体の方へのメッセージを

前田:
 この機会ですから、お聞きしたいのですが、自治体の方々、特に都市計画の方は必ずしも元気があるとは言い難い面があると思うのですが、そういう方々に、この本のメッセージ、あるいは全体的なメッセージも含めてエールを送っていただけたらと思います。

大西:
 ハードな意味での都市計画については事業量が少なくなっているということがあると思うのですが、ただ、まちづくりに関心を持っている一般市民の方々はずいぶん増えています。ですからそういう方々と議論したり、ソフトないろいろな活動を含めて、広い意味でのまちづくりはずいぶん広がっているんじゃないでしょうか。
 自治体の方が自分たちの従来の事業に結びつけるということではなくて、市民の考え、ニーズを把握することが、いろんな格好で自治体の仕事に生きてくるんだという、少し広い視野をもって取り組んでいくことが大事かな、と思うんです。
 そういうことについても、なんらかの示唆が得られるような編集にしたつもりなので、少し広い視野にたって読んでいただくと良いのかな、と思います。

東大まちづくり大学院シリーズの今後は

前田:
 東大まちづくり大学院シリーズは今回で3冊目で、さらにもう1冊というお話がございますが、抱負をお話いただければと思います。
大西:
 まちづくり大学院は丸3年たちましたが、社会人の方に好評で入っていただいているんですが、あわせてイベントも開催しています。そのイベントへの参加者を含めるとずいぶん裾のが広がってきています。
 ただ、具体的に「どういうことがこれからのまちづくりなのか」ということについては、いろいろな議論があるということなので、我われとしては一定の土台をつくるということで、いままで三冊、『低炭素都市』『広域計画』、そして今回の『都市計画』を出してきました。
 さらにたとえば都市再生が必要だという議論がありますし、都市を新たなかっこうで運営していくにはどういうアイデアがいるのかという都市のマネージメントも重要ですし、さらに中心市街地問題とか、いろいろなキーワードが出ていると思います。
 そういうことにも積極的に考えて取り組んでいきたいと思います。
前田:
 どうも、有り難うございました。
 

本書の概要(予定)

●タイトル

人口減少時代の都市計画
〜東大まちづくり大学院シリーズ〜

●予定目次

1章 都市の発展と都市計画制度/大西 隆
 1-1 都市計画制度の機能と意義
 1-2 都市計画制度の歴史的発展
 1-3 現代の都市計画制度
 1-4 都市問題の構造と都市計画制度

2章 土地利用計画とまちづくり/明石達生
 2-1 計画の論理と規制の論理
 2-2 用途地域の変更は機械的に
 2-3 地区計画の使い方
 2-4 街を良くする動機を仕組む
 2-5 都市計画からPlanningへ

3章 都市施設とまちづくり/岸井隆幸
 3-1 計画の論理と規制の論理
 3-2 「都市施設を巡る都市計画制度」の今後の方向性
 3-3 「土地区画整理事業を巡る都市計画制度」の今後の課題

4章 市街地再開発事業とまちづくり/遠藤 薫
 4-1 都市計画と市街地開発事業
 4-2 都市再開発の足跡
 4-3 リスクマネージメントと市街地再開発事業
 4-4 人口減少社会における今後の展望

5章 民間都市開発とまちづくり制度/長島俊夫
 5-1 民間都市開発の進展と効果
 5-2 民間都市開発を支える都市計画諸手法
 5-3 エリアマネジメント
 5-4 日本の成長エンジンとしての東京の役割

6章 まちづくりと市民参加/小泉秀樹
 6-1 はじめに
 6-2 都市計画法における市民・住民等の関与・参加
 6-3 市民主体のまちづくりの仕組みづくりへの挑戦
 6-4 市民主体の都市計画・まちづくりから求められる
    制度改正とは

7章 分権最前線に見るまちづくり条例
   多元的土地利用規制における法律と条例の新しい関係
   /松本 昭

 7-1 分権改革に見るまちづくり法制の変化
 7-2 分権から捉えたまちづくり条例の系譜
 7-3 土地利用法制を巡る新しい展開
 7-4 建築基準法とまちづくり条例の連携・融合

8章 まちづくりの諸事例
 8-1 〈石川県金沢市〉条例によるまちづくり
    ―中心市街地活性化に挑む金沢市/大西 隆
 8-2 〈東京都府中市〉大規模開発事業の土地利用調整制度
    ―土地取引前の二段階助言システム/松本 昭
 8-3 〈東京都中央区〉銀座ルール
    「地区計画+デザイン協議」によるマネジメント型まちづくり
    /松本 昭
 8-4 〈兵庫県芦屋市〉「景観地区」がまちづくりを変えた
    不認定処分に見る
    「都市建築法制」と「都市景観法制」の関係
    /松本 昭
 8-5 〈静岡県下田市〉市町村都市マスタープランの見直しを
    契機としたプランニングキャピタルの形成
    /小泉秀樹
 8-6 〈東京都練馬区〉都市マスタープラン策定を契機とした
    主体づくりと仕組みづくりの相互作用的展開
    /小泉秀樹・杉崎和久
 8-7 〈東京都北区〉神谷・豊島地区密集市街地整備/遠藤 薫

9章 これからのまちづくりと法制度/大西 隆
 9-1 迷走する都市政策
 9-2 都市の置かれた状況と都市計画の課題
 9-3 人口減少社会における都市計画法制のあり方

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