佐々木一成 観光アナリスト。1953年兵庫県生まれ。慶應義塾大学大学院経営学修士(MBA)。筑波大学大学院経営・政策科学研究科博士課程修了。専門は観光政策、観光創造論、地域経営論。1976年日本開発銀行(現鞄本政策投資銀行)。2010年東京国際空港ターミナル鰹務取締役(現職)。地域ツーリズム研究会主宰。
 

『地域ブランドと魅力あるまちづくり』を語る

2011年1月、羽田空港の真新しいオフィスに出版間近の佐々木さんを訪ねました。
特産品ブランドと文化・環境ブランドの相乗効果があってこそ、経済の波及効果も大きくなると強調されました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

 

従来の地域ブランド論との違いは?

前田:
 もうすぐ出版ですが、どういうことをお伝えになりたかったのか、どういう読者にどういう形で役立てていただきたかったのかを、お話しください。
佐々木:
 今回、地域ブランドについて書かしていただいたのですが、私が今まで地域ブランドに関する書物を読んだり、現場を見ているなかで、少々、不満があったと言うことなんです。
 それは何かと言いますと、特産物ブランドに偏っているという印象を受けたということです。
 地域ブランドは特産物ブランドだけなんでしょうか。確かにそれは一つの大きな柱なんですが、それだけじゃないですよね、ということが私の基本的な問題意識です。
 では一体、特産物ブランド以外に何があるのかということですが、地域が持っている地域資源は特産物だけじゃありませんね。たとえば自然であったり、環境であったり、それから観光ブランドを考えるとすれば観光資源もあると思います。基本的には地域資源が大事です。地域は今後、持っている地域資源をフルに活用して、ブランディングに挑戦していくことが重要になっていくと思います。
 ということで、特産物以外、たとえば環境ブランド、文化ブランドをきちんとした形で売り込んでいく、ブランドとして認識していく、意識していくことが、重要になってくると思います。

文化・環境ブランドとは?

前田:
 環境とか、文化ブランドは、例えば文化財とか自然資源など、観光資源的なものは分かりやすいのですが、そういったものをお考えなのでしょうか。
佐々木:
 地域資源であれば、その地域にある自然、たとえば山とか川とか、鎮守の森とか、里山とか里地とかいろいろあると思います。そういうもの、自分たちが常日頃なれ親しんでいて、地域の自慢になるもの、誇りに思っているものを、どうやって売り込んでいくかを考えることが重要だろうと思っています。
 環境でいえば、もちろん自然もあるのですが、景観も重要になってきますし、文化で言えばお祭りとか、ミュージアムとかも重要になってくると思います。それらを特産物ブランドとどうやって連携を取りながら、地域をトータルとしてブランディング出来るかが非常に重要になってくると思っています。

地域を売り込む?

前田:
 売り込んでいくとお聞きすると「仕掛けていかなければいけない」ような気がするのですが、お話しの例は人びとが日常のなかで慣れ親しみ育てているものではないかと思います。それらを売り込んでいくという言葉に少し違和感を感じるところもあるのですが、そのあたりはどう考えたら良いのでしょうか。
佐々木:
 基本的にはブランディングで重要なところは地域住民が誇りに思えるようなものでなければダメだということです。誇りに思えるということは、自分たちが慣れ親しんでいる、使っている、それから食べ物であれば食べているというものです。そういうものをまず地域の人たちが中心になってきちんとやっていくことが重要だと思います。
 観光ブランドは独自のものではなくて、むしろ特産物ブランド、文化環境ブランド、このへんがきちんと出来上がると、後からついてくるものだと思います。地元の人が楽しんでやっているじゃないかと、じゃあ、自分たちもそれに参加したいというのが観光ブランドだと思いますので、そのへんは切り分けて考えたほうが宜しいかと思います。

特産物と文化・環境ブランドの関係は?

前田:
 特産物と、もう少し生活に近い文化・環境ブランドとの関係は、どのように考えたら良いのでしょうか。
佐々木:
 特産物は消費者向けのものでしょうし、文化、環境は地元の人たちが主体ですから、地元住民向けだと思います。それらを統合した形でどうやっていくか地域ブランド論としての課題だと思います。
 私は今回の本のなかでは、それを統合ブランドと名付けまして、特産物と文化・環境ブランドを統合した形で進められることをお薦めしています。
前田:
 特産物と文化・環境ブランドは、どちらかだけがあったら良いと言うわけではなくて、両方あることで相乗的になっていくと言うことでしょうか。
佐々木:
 その通りです。それは相乗効果の問題です。
 いままでの地域ブランド論はあくまで特産物ブランドをどうやって売り出そうかということだったと思いますが、それだと売っている地域というものに世間の人たちは関心を持たないのですね。美味しければ良いじゃないか、それどまり何ですね。経済的に言いましても波及効果が少ないと思います。
 そうじゃなくてそのバックにある地域自体を売り込んでいくことを統合ブランド化によって考えていくことが必要だと思います。
 そうすれば、「そういうところがあるのであれば私も行ってみたい」という人が増えてくるでしょうし、そういうことで観光ブランドもきちんとした方式が出来ていくんだろうと思っています。
前田:
 どうも有り難うございました。

●関連資料

佐々木一成氏『京都セミナー』(20110304)
佐々木一成氏『東京セミナー』(20110407)
編集サブ担当者による紹介(ブログ、脱稿時)
編集サブ担当者による紹介(ブログ、出版時)

 

●本書のご注文

ご注文フォーム

『地域ブランドと魅力あるまちづくり・予定目次


------------------------------
序章 地域ブランドとは何か
 1 積極化する地域ブランドへの取り組み
 2 地域ブランドとは何か
 3 地域ブランドの典型的事例
 4 地域ブランド確立に必要な多面的取り組み
 
------------------------------
第1章 いま、なぜ地域ブランドなのか

第1節 地域経済の再生・活性化
 1 避けられない地域経済の構造転換
 2 地域を襲う人口減・高齢化と財政難
 3 事例「綾部市」(京都府)
 4 事例「夕張市」(北海道)
 5 地域再生は地域ブランドの活用から
 ・コラム ご当地水道水のブランド化

第2節 地方分権、市町村合併の進展
 1 地域主権の時代へ
 2 進む市町村合併の動き
 3 地域振興のキーワードは「多様性」と「個性」
 4 事例「篠山市」(兵庫県)
 5 事例「川上村」(長野県)
 6 地域経営の鍵となる地域ブランド

第3節 成熟化する消費者行動
 1 「消費の二極化」とは
 2 社会の成熟化と消費者の価値志向
 3 「生活の質」を求め始めた消費者
 4 事例「通販オンラインショップ まち楽」
 5 事例「自治体アンテナショップ」

第4節 観光立国、地域ツーリズムへの対応
 1 観光振興は地域の魅力づくり
 2 大きく変化する旅行市場
 3 「発地型観光」から「着地型観光」へ
 4 事例「ワインツーリズムと近代化産業遺産」
     (山梨県甲州市勝沼町)
 5 事例「ロケ誘致とフィルムツーリズム」(山形県庄内地方)
 6 事例「ヘルスツーリズムとフラオンパク」
     (福島県いわき湯本温泉郷)
 7 地域ツーリズムによる観光ブランド構築
 ・コラム「ももいちご」にみる地域性(徳島県佐那河内村)
 
------------------------------
第2章「特産物(サービス)ブランド」への取り組み

第1節 地域団体商標
 1 地域団体商標制度とは
 2 地域団体商標制度の特徴
 3 出願と登録査定状況
 4 事例「関あじ」「関さば」(大分市)
 5 事例「紀州備長炭」(和歌山県)
 6 事例「静岡茶」(静岡県)
 7 地域ブランドにおける商標権の役割

第2節 地域食品ブランド表示基準「本場の本物」
 1 「本場の本物」とは
 2 認定のプロセス
 3 認定の状況
 4 事例「小豆島ブランド」(香川県小豆島町、土庄町)
 5 事例「鹿児島の壺造り黒酢」(鹿児島県霧島市福山町)
 6 品質を重視し訴求する「本場の本物」

第3節 酒類の産地ブランド保護
 1 地理的表示制度とは
 2 保護の内容
 3 事例「白山菊酒」(石川県白山市)
 4 地理的表示制度の今後(清酒を中心に)
 5 事例「佐賀県原産地呼称管理制度」
 6 清酒復興に必要な文化・環境ブランド

第4節 「食」のブランド化
 1 ご当地グルメによる町おこし
 2 「食」による観光まちづくり
 3 事例「芋煮」(山形県)
 4 事例「出石皿そば」(兵庫県豊岡市出石町)
 5 事例「北の屋台」(北海道帯広市)
 6 必要な空間構成と物語性
 ・コラム 増える緑提灯〜国産食材を増やす運動〜
       /ご当地プレート
 
------------------------------
第3章「文化・環境ブランド」への取り組み

第1節 創造都市
 1 創造都市とは
 2 日本における創造都市
 3 事例「金沢市」(石川県)
 4 事例「萩市」(山口県)
 5 事例「沖縄市」(沖縄県)
 6 文化・芸術資源の活用とブランド化

第2節 アートによる地域づくり
 1 アートは地域を再生する
 2 事例「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」
     (新潟県十日町市、津南町)
 3 事例「三河・佐久島アートプラン21」(愛知県一色町)
 4 事例「写真による町おこし」(北海道東川町)
 5 アートとブランド形成
 ・コラム ヘブンアーティスト(東京都の大道芸人公認制度)

第3節 景観形成
 1 失われた景観
 2 事例「門司港レトロ地区」(福岡県北九州市門司区)
 3 景観法の制定
 4 事例「近江八幡市」(滋賀県)
 5 重視され始めた文化的景観
 6 事例「小鹿田焼の里」(大分県日田市)
 7 事例「法善寺横丁」(大阪市中央区)
 8 景観形成と文化・環境ブランド
 ・コラム 鞆の浦訴訟と景観利益

第4節 歴史まちづくり
 1 魅力ある歴史的町並み
 2 歴史的町並みの保存事業
 3 歴史まちづくり法
 4 事例「亀山市」(三重県)
 5 事例「佐川町」(高知県)
 6 文化財の総合的把握と歴史文化基本構想
 7 事例「日南市」(宮崎県)
 8 歴史まちづくりによるブランド力の向上

第5節 生物多様性の保全
 1 生物多様性と地域の役割
 2 事例「コウノトリ舞う里づくり」(兵庫県豊岡市)
 3 事例「銀座ミツバチプロジェクト」(東京都中央区)
 4 事例「棚田を守る取り組み」(千葉県鴨川市ほか)
 5 生物多様性と地域のブランド化
 ・コラム クラゲ展示で世界一の加茂水族館

第6節 「日本で最も美しい村」連合
 1 「日本で最も美しい村」連合とは
 2 事例「美瑛町」(北海道)
 3 事例「小値賀町」(長崎県)
 4 事例「小坂町」(秋田県)
 5 連合の取り組みについて
 
------------------------------
終章 ブランドの統合化と創造

第1節 京都ブランドはなぜ強い(優れた統合ブランドとは)
 1 京都という地域性
 2 厚みのある特産物(サービス)ブランド
 3 景観規制と文化・環境ブランド
 4 良質で魅力に富む観光ブランド
 5 京都ブランドと水
 6 京都ブランドの強みと課題
 ・コラム 魅力づくりで巻き返す奈良ブランド

第2節 優れた地域ブランドを創造するには
 1 いかに統合ブランドを確立するか
 2 重要な「文化・環境ブランド」への取り組み
 3 多くの地域で構築可能な統合ブランド
 4 地域ブランドの確立に向けて
 5 地域ブランドのもう一つの課題(歴史的地名の消滅と復活)
 
 おわりに/主な参考文献/重要用語索引


好評既刊書


観光振興 ☆ 地域ブランディング ☆ 観光まちづくりのマーケティング
学芸トップ ☆ 著者に聞く・トップ

貴方は人目(11.02〜)の訪問者です。