堂野智史氏 1962年生まれ。財団法人日本システム開発研究所を経て、2003年より財団法人大阪市都市型産業振興センター・メビック扇町所長。メビック扇町では、クリエイターのネットワークづくりや情報発信、販路開拓等に向けたコーディネート活動に活躍する一方、関西ネットワークシステム(KNS)世話人の一人として、フラットな関係性に基づくコミュニティやネットワークづくりに取り組む。共著に『産業再生と大都市』『CAFE─創造都市大阪への序曲』『公設試験研究機関と中小企業』『大阪新生へのビジネス・イノベーション』など。
 

『現場発!産学官民連携の地域力』を語る

関西ネットワークシステム(KNS)編『現場発!産学官民連携の地域力』発行を控えた2月初、本書の22人の執筆者のお一人で、編集委員会メンバーでもある堂野智史さんをメビック扇町にお訪ねし、「産学官民コミュニティ」の意義や、本書にこめる想いについて伺いました。
聞き手:編集部
 

INS、KNSなどの「産学官民コミュニティ」ってどんなものですか?

堂野:
 INS(岩手ネットワークシステム)、KNS(関西ネットワークシステム)という、産・学・官・民の人達が集まる「場」なんですが、そこでは個人対個人が、フラットな関係性の中で、コミュニケーションを通じて、お互いのモチベーションを上げたり、切磋琢磨したり、また情報を共有したりすることで、コラボレーションなどの動きにつながっていく。そういう場なんですね。
 INSのモデルができて既に20数年経つわけですが、そういうフラットなコミュニケーションを展開する場が意外と少ない。いわゆる産学官連携とか、産学連携といった場合に、「産」「学」「官」という「組織」対「組織」の関係になることが多く、「産」「学」「官」それぞれに所属している人々が、組織を背負って関係を持とうとするので、なかなかスムーズな関係性性が築けないというケースが多くて、組織は作ったものの、実際に動かすとなると、大変な苦労が伴うということが度々あるんですね。
 それに対して、INSもKNSも、まずは個人対個人の関係性で成り立っていますので、当然意気投合する人もいれば、逆に二度と一緒にやらないという関係もあるものですから、「意気投合する人たちが何かをする」ということでいけば、非常にスムーズにことが運ぶという状況になります。そういうフラットな関係性を持つ「場」、我々はそれを「産学官民コミュニティ」と言っています。こうしたコミュニティが、今INSを起点にして全国に広がりつつあります。
 KNSもその一つで、2003年6月に関西で立ち上げたのですが、そこに所属する産学官民それぞれの人達が、いろんな現場で様々な活動をし、互いに切磋琢磨したり、刺激を与え合ったり、モチベーションを高めたり、場合によっては一緒に何かやったりみたいな展開を生んできています。
 こういう動きが結局はその地域の活力を生み出すと思います。そういったモチベーションの輪が、今全国的にも広がっており、各地で元気を与え合う関係になってきています。

本書をまとめるに当たっての狙いは?

堂野:
 私も本業では行政の仕事のお手伝いをしているのですが、現場で活動していると、ある程度うまくいった事例に対しては、行政はもちろん、大学の研究者やマスコミなどが注目して、調査や取材などを通じて、様々な形で発信していただきます。それは、非常にありがたいことなのですが、第三者的、客観的に情報を発信するのと、当事者として現場の思いを伝えるのとでは、若干ニュアンスの違うケースもあるんですね。
 我々としては、現場でいろんな思いを持って活動し、でもうまくいかなくて、苦労して、それをどうやって乗り越えようとしているのか、という当事者の思いを書き記すことが大事じゃないかなと考えたわけです。
 それで今回、現場の人が、自分の言葉で、その思いとか苦労とか、皆さんに伝えたいことを書こうぜ!ということで、22人が、それぞれの切り口で、思いを書き記したのがこの本です。
 現場で同じ思いを持って苦労している仲間が全国にたくさんいますので、是非そういう人と思いを共有できて、またこれからまちづくりとか産業振興に関わる人にとっても何かのヒントになれば、非常にありがたいと思います。

現場発!産学官民連携の地域力

●目次●


はじめに 堂野智史

第1部 産学官民コミュニティの意義と展開

〈第1章 産学官民コミュニティとは〉

  • 1 産学官民コミュニティの意義 与那嶺 学
  • 2 産学官連携政策と産学官民コミュニティ 吉田雅彦
  • 3 産学官民コミュニティ―日本とアメリカ 西出徹雄

    〈第2章 産学官民コミュニティの全国的広がり〉
  • 1 岩手ネットワークシステム(INS)の活動と岩手モデルの波及 小野寺純治
  • 2 関西ネットワークシステム(KNS)の発足と活動の展開 堂野智史
  • 3 やまなし産業情報交流ネットワーク(IIEN・Y)の活動と展開 手塚 伸

    第2部 産学官民コミュニティが生み出す新たな地域力

    〈第1章 「産」が生み出す地域力〉

  • 1 地域中小企業の連携で新分野へチャレンジ 中川裕之
  • 2 地域を越えた大学との連携がもたらしたもの 古芝義福
  • 3 研究開発型中小企業と大学 三宅英雄
  • 4 零細企業の新製品開発とネットワークの重要性 森本和洋

    〈第2章 「学」が生み出す地域力〉
  • 1 地域イノベーションと産学官民コミュニティ 兼松泰男
  • 2 地域企業による小型衛星開発への参加 千葉正克
  • 3 地方大学の産学連携と産学官民コミュニティ 今井 潤

    〈第3章 「官」が生み出す地域力〉
  • 1 メディカルバレーの「キセキ」 村 康
  • 2 地域産業・市民と関わるインキュベーション施設 奥田三枝子
  • 3 地域資源の活用とコーディネート活動 樽谷昌彦
  • 4 地域経済に貢献する情報拠点としての図書館 小林隆志

    〈第4章 「民」が生み出す地域力〉
  • 1 地域資源を活かした新商品開発の展開 宍田正幸・濱名 研
  • 2 異分野クリエイターのネットワークが生む価値と課題 杉山貴伸
  • 3 オープンソースとRubyを通じた地域産業振興 丹生晃隆
  • 4 大学による「市民の科学」への支援と地域活性化 伊藤真之

    総括と展望─産学官民連携の地域力 稲垣京輔+与那嶺 学
    おわりに 堂野智史

  • 現場発!産学官民連携の地域力好評発売中

     

    関西ネットワークシステム編
    『現場発!産学官民連携の地域力』

    四六判・240頁・定価2310円(本体2200円)
    2011年3月1日発売


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