group="注釈" 齊藤 広子さんからのメッセージ
齊藤広子さん顔写真 齊藤広子 1960年大阪生まれ。筑波大学第三学群社会工学類都市計画専攻卒業。不動産会社勤務を経て、1992年大阪市立大学大学院生活科学研究科修了。現在、明海大学不動産学部教授。学術博士。日本マンション学会研究奨励賞、都市住宅学会論文賞、日本不動産学会業績賞、建築学会賞受賞。
 

『住環境マネジメント〜住宅地の価値をつくる』を語る

住宅地も管理が大切。それも造るときから考えて欲しい。管理を充実し、資産価値を守り、住み心地をよくしていくことは、住民はもちろん、デベロッパーやハウスメーカーがストックビジネスに取り組むきっかけにもなる。これからは売りっぱなしよりも手離れの悪いビジネスモデルに商機がある、と語られました。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

どういう方に読んでいただきたいか

前田:
 このたび『住環境マネジメント』という原稿をお書き頂いて、現在制作中です。3月には出版となりますが、この本ではどういう方に、どういうことをお伝えになりたかったのか、またどういうふうに役立てて頂けるのかを、お話し頂けたらと思います。
齋藤:
 (住宅地では)管理をとても大切にして欲しいんですけど、できてからだけではなく、作るときから管理を考えていただきたいという思いで、マネジメントという言葉を使っています。
 もうひとつ、このマネジメントという言葉に思いを込めたのは経営なんですね。地域のみなさんが、地域が主体になって、地域の価値を上げて欲しい、地域の経営ということでマネジメントという言葉を使っています。
 この本を誰に読んで欲しいかということなんですが、もちろん、都市計画、まちづくりをする実務の方、それから研究者の方ですが、住宅地を作る方にも是非是非読んでいただきたいと思います。
 管理の問題は入居後起こるんですが、その原因はやはり作るときにある。むしろもっともっと初めに作っていただいたら、だんだん価値が上がって、魅力的な住宅地になっていく。そういうところにストックビジネスも生まれてくると思いますので、是非是非、実務の方にも読んでもらいたいと思っています。

具体的な内容は

前田:
 この本では、アメリカやイギリスのご紹介もしておられますが、向こうでは住宅地をマネジメントするということも、かなりなされているんでしょうか。
齋藤:
 難しい質問ですね。
 日本の問題点を指摘しながら、アメリカ、イギリス、そして日本の先進的な事例を載せて、最後に私が「これから住環境マネジメントはこうしましょうよ」ということを提案させていただいています。
 アメリカでは確かに、この本でも紹介させていただいているようにホームオーナーズアソシエーション(HOA)が住宅地の管理をして、自分たちのまちの資産価値をあげていく。でも資産価値だけではなくて住み心地も住民自体が作っていくという傾向にあります。特に西海岸のほうではそういう住宅地が増えています。
 その背景には、行政にとっても、住民・消費者にとっても、開発事業者にとっても、こういう方法が三者ともにWinであったということがあります。
 日本の社会にとっても、これから高齢化社会とか、財政負担を少なくしていきたいという大きな基盤のなかでは、日本で積極的に取り入れていく方向が良いのではないかと思っています。
 もう一つ取り上げているイギリスは、どちらかというと地主、専門会社がリーダーシップをとってまちの価値をあげていく方法です。これは日本のデベロッパーの新しいビジネスモデルとしてもあり得るんではないか。あるいは、これをもう少し展開していくと、NPOさんの新しい活動にもつなげていけるんではないかと思います。
前田:
 日本でもそういう新しい動きは広がっているんでしょうか。
齋藤:
 住宅地をつくるときに、そういう考え方が広がってきていると思います。
 小さな事例ですが、たとえば新しい住宅地で、集会所をつくってくださいね、と言っても、行政は集会所を「作りなさい」と言いながら、もう引き取りません。そうすると自分たちで集会所を持って自分たちでマネジメントしていく。集会所だけではなくて、街並みを自分たちでマネジメントしていく。そういった資産価値を上げる、そして住み心地をよくしていくという活動、動きは広がりつつあると思います。
 ただ、そのノウハウがみなさんにまだまだ十分伝わっていないし、そうしたノウハウを積み重ねていって、それがうまくできる社会のシステムをつくっていくことが課題だと思います。

新しいビジネスモデルとしての可能性

前田:
 最初に少しおっしゃいましたが、今までの住宅産業は、なるべく早く売って終わりにしたいというところが多かったんじゃないかと思いますが、こういうマネジメントとなるとかなり長くお付き合いすることになると思います。そういうことに彼らが入ってくる可能性、あるいは入ってきた方が良いよということも、あるのでしょうか。
齋藤:
 この本でいくつかの事例を取り上げさせていただいていますが、そういった住宅地もあります。昔は、住宅地をつくると、合い言葉のように「手離れ良く」と言いましたが、これからの少子高齢化という社会を考えますと、ビジネスモデルとしては「手離れ悪く」ということが重要になってくると思います。
 一度つかんだお客さん、住宅地、やはり信頼を得て買っていただいたわけですから、その信頼をしっかりつなぎ止めて、リフォームや、住宅地の管理、それから賃貸に出す、中古に出すというときにビジネスに繋げていける可能性があるんではないかな、と思います。
前田:
 有り難うございました。

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●本書の関連セミナー

○2011.07.21 京都セミナー(終了しました)
 

住環境マネジメント
住宅地の価値をつくる

−−目  次−−

 序 住環境マネジメントとは?

1 住環境マネジメントから見た都市計画・まちづくりの問題点
―公法・私法・市場が連携しないまちづくりの実態―

1.1 魅力物を地域で所有・管理することが困難
1.2 地域で適正な土地利用コントロールが困難
1.3 地域に密着したサービス提供が困難
1.4 地域で地域の更新・再生が困難
1.5 住環境マネジメントのための新プラットホームの必要性と課題

2 英米の住環境マネジメント手法に学ぶ

2.1 アメリカの住環境マネジメント手法
    2.1.1 HOAを前提とした開発手法と空間特性
    2.1.2 HOAに関する法制度:内部および社会的マネジメントシステム
    2.1.3 HOAが機能するための支援体制
    2.1.4 HOAの組合運営と役割
2.2 イギリスの住環境マネジメント手法
    2.2.1 田園都市等における住環境マネジメント
    2.2.2 レッチワース
    2.2.3 住環境マネジメントが成立する支援体制
2.3 英米における10の検討課題への対応、共通点とわが国への教訓

3 日本の先駆的事例を検証する

3.1 日本型HOA(J-HOA)方式/住民主体管理方式──私法的な管理と市場メカニズムの活用
    3.1.1 日本型HOA:住民主体型管理組織のスキーム
    3.1.2 先駆事例での検証:日本型HOA的組織の事例
    3.1.3 日本型HOAの課題
3.2 定期借地コモン方式/地主主体型供給・管理方式──私法的な管理の活用
    3.2.1 定期借地権を利用した住環境マネジメントスキーム
    3.2.2 先駆的事例で検証
    3.2.3 利用権型都市開発・管理の実現のために
3.3 地主型の地域組織方式──農住組合方式から新所有者・居住者による組合の活用へ
    3.3.1 農住組合制度を利用した地主型スキーム
    3.3.2 先駆的事例で検証
    3.3.3 所有者組合が主体になった住環境マネジメントの課題
3.4 プラットホーム型──既存組織の活用
    3.4.1 既成市街地プラットホーム型スキーム
    3.4.2 先駆的事例からの検証
    3.4.3 課題
3.5 民間会社型の検討──不動産供給・管理会社の活用
    3.5.1 管理会社活用型スキーム
    3.5.2 先駆的事例
    3.5.3 課題
3.6 コミュニティビジネス型──NPO等の活用
    3.6.1 コミュニティビジネス型スキーム
    3.6.2 先駆的事例
    3.6.3 課題
3.7 新たな主体と方向の可能性

4 公法・私法・市場による新まちづくり手法としての住環境マネジメント論
住環境マネジメント10の法則―

4.1 住環境マネジメント10の法則
4.2 日本における住環境マネジメントシステムの展望
 

●齊藤広子さんの本(既刊書・好評発売中)

装丁:上野かおる
四六判・176頁・定価1600円+税
2005.2.25発行、ISBN4-7615-1198-2
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