西武文理大学サービス経営学部教授。1977年JTBに入社。旅行営業、添乗業務を経験後、実務責任者およびJIC旅の販促研究所執行役員所長を歴任。2010年4月より現職。NPO法人日本エコツーリズム協会理事、日本地域資源学会常務理事。 | ||
安田亘宏さん『食旅と観光まちづくり』を語る昨年に本書を書かれ、今年は観光と農商工連携をテーマに次作を執筆中の安田さんに、その狙いをお聞きしました(2011年3月16日収録)。聞き手:前田裕資(編集部)
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キーワードは「地域の食」前田:先生には、2010年の6月に『食旅と観光まちづくり』をお書き頂きました。ここでは、この本の狙いと、どういう人にどんなふうに読んでいただきたいかをお話しいただきたいと思います。 安田: 今日本のあちこちで、疲弊しているというか元気のない地域が多くなっています。少子高齢化、人口減少などのしわ寄せが来ているのが地域で、そうした地域に元気になってもらいたいと思いからこの本を書き上げました。 その方法はいっぱいあろうかと思いますが、私は専門のツーリズムの観点から、旅行、観光で地域に元気になってもらおうと思いました。地域で交流人口や交流時間を増やして、まちづくりや地域の活性化に繋げていただきたいと思い、そのお手伝いになればと考えました。 その中で何が大事かというと、キーワードになってくるのが「地域の食」です。もちろん「B級グルメ」で有名になった地域もいくつかありますが、それだけじゃなくて食は必ずどんな地域にもある、もっとも地域らしい観光資源です。「ウチには観光資源がない」と言っている地域でも、その地域らしい食だけは必ずあります。それを磨く、あるいは発掘して観光資源にして、多くのお客さんに来てもらい、食べてもらう。「美味しい」と言わせ、また来てもらう。そんなまちづくりが出来たらいいなと思ったのが、この『食旅』の最大の狙いですし、私の思いです。 ですから、大きな観光地の人はむろん、全く観光に縁のなかった地域の人たちにも一度読んでいただきたいと思っています。観光の関係者には当たり前のことなんですが、観光関係の人だけでなく、地元でまちづくりの論議をやっている人や、農漁業に従事している人、お店をやっている人にも読んでいただきたいと思います。 実を言うと、観光客は地域らしい食をみんな求めているんです。だから、地域の人たちみんなが頑張れば、多くのお客さんを呼べるんです。そんなことをこの本から分かって貰えればと思っています。必ず地域の豊かな食というのはあるのですから。 ただし、あるというだけでは観光には結びつきません。それをカタチにしてマーケティングしていく必要があります。そのプロセスを読んで頂く方に分かって頂けたら嬉しいと思います。 現実にそうすることで成功した事例もあります。もちろん大きい成功事例もあれば、小さなものもあるのですが、それぞれのまちに相応しいまちづくりにやっていただけたらと思っています。 『食旅』も最初の頃は、カニツアーのように冬に何もないような、観光地、温泉地に新鮮なカニだけを食べに行くようなものでした。そこから『食旅』が始まり、さらにどんどん大きく広がっていきました。今は、高級食材や地元でしか食べられないものばかりでなく、普通に見られる食材も加工して売り方を工夫したり、地域で食べる場所を作ったりといろんなやり方で観光客を呼んでいます。そんなことも知って頂ければ、嬉しいです。 今私が思っているのは、小さなまちでも、農業と漁業、飲食業の人が一緒になって考えることで新しい『食旅』が生まれる事の可能性です。ごく普通の素材だけど地域らしい、そうしたものから新しい食ができ、そこから加工品ができ、それを売る場所を作ったり、売り方や食べ方を工夫したりすることで、まちそのものに活気が出てきます。そんな元気なまちが今、いっぱい出てきています。 次の本では、食旅と農商工連携あるいは6次産業の話を書いてみたいと思います。そこでは小さなまちでもできるまちづくり、一つのプロジェクトから生まれるまちづくりの成功事例を紹介しながら、みなさんに報告できればと思っています。 「農商工連携が成功の鍵」前田:高級な食旅とされるカニ料理とか京料理、B級グルメでもナンバーワンになっているような所へ食だけを目ざすお客さんが来るというのはよく分かるのですが、普通のまちの場合は食が一番大事な観光目的になるということはあまり多くないのじゃないかという気もします。そのあたり、消費者の動向というのはどうなっているのでしょうか。 安田: そういう捉え方の人もいますが、そんなことはないですよ。実際にその地域の食だけを食べに、買いにドライブしたり、旅行したりする人はいっぱいいます。もちろん、京都に来たら京料理も楽しむけどお寺のひとつも行くのは当然だと思います。観光資源の組合せも考える必要はあります。組み合わせるときも、組合せの中で昔は忘れられていた食を観光資源にして組み合わせるとで、観光資源がさらにパワーを持っていくんだという捉え方をしたら良いと思います。 もちろん食の力だけで食の観光地になっている事例は世界にいっぱいあります。日本にも徐々に生まれてくるでしょう。観光資源の組合せはとても多様なんです。多様なんですが、その中に食の観光資源があるという事実を知って、それを磨けば成功する可能性があるという事実を皆さんに知って頂きたいと思っています。 その時も、「食の観光資源」とは食べ物そのものではなく、食べ物にまつわる物語や食べる空間、食べる雰囲気も含めた食というものです。いわば、地域の食文化が観光資源になるのだということを分かって貰えたらと思います。 前田: そういう意味では、農商工連携と食旅というのはいい組合せですね。 安田: 可能性はものすごくあります。実を言うと、決して仲の良くなかった農業と漁業と観光が結びつくと、地域はものすごく大きな力になるんです。そうした成功例はいっぱいあります。そこがこれからの一番のポイントだと思います。観光まちづくりを観光関係者だけで取り組むのではなく、みんなでやるばまちづくりになるのです。 この農商工連携の一番良いところは、やり始めたらまちが一体化していくことなんです。一体化しないとまちづくりは出来ないでしょう? これはどの本にも書いてあります。農商工連携が出来ると、自然にまちは一体化するんですよ。そうすれば、観光客もまちに訪れた時に、「このまちは私たちを迎え入れてくれている」と感じます。最大のおもてなしがまちぐるみで出来るようになっていくんです。それが、農商工連携のまちづくりだろうと思います。 前田: どうもありがとうございました。次作を期待しております。 |
『食旅と観光まちづくり』
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