高橋 近畿大学経営学部教授。1959年生まれ。大阪府立大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。1983年JTB入社。東日本営業本部イベント・コンベンション営業部長、コミュニケーション事業部長を歴任。2006年JTB退職後、T&T常務執行役員。2007年より流通科学大学サービス産業学部教授を経て2012年より現職。総務省地域再生マネージャー、東京都観光アドバイザーなど地域振興に関するサポートを続けている。
 

観光のビジネスモデル
〜利益を生みだす仕組みを考える〜

低利益体質、補助金だよりを抜け出すためにはどうしたらよいのか。『観光のビジネスモデル』を編まれた高橋一夫さんに、その狙いをお聞きしました。最後にはCSVを軸とした新作のお話しも。
聞き手:前田裕資(編集部)
 

『観光のビジネスモデル』のねらい

前田:
 今日は高橋先生においでいただいております。昨年末に発行させて頂きました『観光のビジネスモデル』について、この本をどういう人たちにどういう形で役立てて欲しいかをお話し頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
高橋:
 この本を出すきっかけになったのは、学芸出版社の前田さんとお話しする機会があったことが前提になっています。
 私が以前におりました流通科学大学というところで、観光の研究会をやろうという話になりました。それは流通科学大が観光学科という学科を持ちながらも、観光学科の特徴となるものは何かがはっきり見えなかったからなのです。研究会を発足したのは2009年のことだったのですが、この年は前年のリーマンショックで調子の良い会社悪い会社が非常にはっきりと数値的に現れてきた年でもありました。なおかつ2010年1月には「フラッグキャリア」と呼ばれていた日本航空が破綻することを前提にしたフレームの議論がなされていて、観光業界全体がどちらかと言うと、沈滞ムードの時でありました。
 ただその一方で、調子の良い会社は旅行業界にもホテル業界にもあったわけです。
 良い会社悪い会社の違いは何だろうかと議論していくと、どうもビジネスモデル、儲けるための仕組み全体に何らかの違いがあるんじゃないかということになってきました。
 研究会のテーマは「観光のビジネスモデル」と置いて、いろんな方からお話をしていただきました。お話して頂いた事例の中から、なぜこんなにうまくいくのかとか、なぜすごいのかを理論的に解き明かしていこうとしたのが、観光のビジネスモデル研究会です。経済学の理論や、経営学、マーケティングの理論を援用し、その説明ができたらいいなと考えました。
 そうした趣旨でみなさん方に話をしていただくと、やはり日頃からビジネスモデルはどうあるべきかを考えておられる方々ですので、お話を聞いていると驚くような話が出てくるのです。聞いている私たちがワクワク感を持てる、なるほどと思える事例を聞かせて頂くわけです。
 観光業界全体としてはどちらかと言うと閉塞感がありますので、こういうモデルを提供することによってその閉塞感が打ち破れるようなことがあればいいということから企画をまとめ、それを前田さんに了解して頂くことになったのです。それが、本書出版の経緯です。

本書の反応

前田:
 刊行してからもう4、5ヶ月経ちますが、読者の人たちから何か反応はございましたか。
高橋:
 ちょっとびっくりしたことがありました。テレビ東京の「未来世紀ジパング」のディレクターがこの本を読んでくださったそうで、4月23日にこの番組に出演させてもらいました。
 番組は、本書にも紹介させて頂きましたが、エクスペディアというインターネットで世界3万の都市、14万5千件を確保している宿泊予約サイトのすごさを紹介していきたいということでした。ただそれには、安い商品を作っていこうということになると、LCCとの組合せ(格安航空会社の組合せ)の課題もあるし、旅行に行きたくなるという情報提供の仕組みがどうなっているのかという課題もあります。そういうことが『観光のビジネスモデル』の本の中にあったとおっしゃって頂きました。それで、番組出演の機会をいただくことになりました。
 出演後はけっこう反応がありまして、「本を買ったよ」とか「本を買いますからfacebookでお友達になりましょう」という声なども寄せて頂きました。この本はちょうど時流に合っていたのかもしれないなと思えています。

次作では、マイケル・ポーターの「CVS」理論を
観光で証明したい

前田:
 次の本も今お考え中ということで、これから企画を練っていかれるところだと思いますが、少しだけ内容に触れて頂けないでしょうか。
高橋:
 マイケル・ポーターという競争戦略の大家がいます。この人の論文が昨年6月に日本でも発表されました。それが「クリエイティング シェアド バリュー(CSV)」、つまり「共有する価値の創造」ということです。私はその論文に大変に触発されました。企業が経済価値を求めていく中で社会的課題を解決し、それが社会的な価値につながるというのがマイケル・ポーターの理論なんです。
 ちょうど1年前と言えば、私たちは東日本大震災を目の当たりにする年でもありました。震災復興に当たって、義捐金が日本のみならず世界各地からたくさん集まりました。復旧の時点でこれだけの資金が集まるのはすごいなと思ったのですが、しかしながら復興の段階になってくると、その支援金よりもそこで働く人々のお金が回っていく仕組みの方が大事じゃないかという議論もマスコミでは取り沙汰されていました。
 経済的な価値を追求する企業が社会的ニーズに対応していくことによって、社会的な価値も作り上げていく。こういうことがきっと成長の原動力になっていくのではないかなと私たちが感じる年でもあったわけです。
 私は、観光こそ、実はCSVの概念にぴたっとはまるんじゃないかと思っています。特に地域のニーズに対して応えていくために、観光産業がいかに活躍していくのか、そういうことをいろんな事例を通じてお伝えしたいと思っています。
前田:
 期待しております。
 
 

「まち歩き」をしかける


●主要目次●

序章 観光ビジネスのイノベーション―時代の変化を取り入れた顧客創造の仕組みづくり

第1部 海外で成功した観光産業の新しいビジネスモデル

1章 世界のレストランを即時に予約する「オープンテーブル」
   ―ICTにより多様で確実な予約を手軽に提供
2章 職業・社会体験のエンターテインメント施設「キッザニア」
   ―勉強を楽しみにしてしまう発想の転換
3章 ローコストキャリア(LCC)による価格革命
   ―空の自由化を背景とした航空輸送のコモディティ化
4章 ウェブビジネスのトレンド
   ―ユーザー中心主義の新時代へ

第2部 日本の企業のビジネスイノベーション

5章 グローバルな提携を目指す航空業界
   ―アライアンスがもたらす新たな価値
6章 アジアを基盤としたグローバル・メジャーを目指すJTB
   ―強みを活かした欧米メジャーとは異なる戦略
7章 総合旅行会社の新たな店頭販売モデル
   ―経験価値マーケティングによる商品単価向上への挑戦
8章 メディカルツーリズムによる中国富裕者層へのアプローチ
   ―観光と医療をアッセンブルしサプライチェーンを構築

第3部 観光まちづくりに向けたイノベーション

9章 吉野山の大渋滞の解消
   ―新しい公共による交通需要マネジメント
10章 黒字経営を続ける鰍ニみうらの戦略
   ―観光まちづくりプラットフォームによる地域経営
11章 コミュニティ主導型博覧会としての別府オンパク
   ―コミュニティビジネスを生み出す観光事業

第4部 時代と向き合う観光需要創造戦略

12章 観光ビジネスにおける《癒し》ブーム
   ―模倣と創造的適応によるマーケティング
13章 休暇分散化で何が変わるか
   ―制度変更による競争の導入でパイ拡大を目指す
14章 アニメフェアによるツーリズムの創出―官民協働による観光振興

 
 A5判・220頁・定価2625円(本体2500円)
 2011年12月15日発行
 注ご文はこちらから
 




観光のビジネスモデル・出版記念セミナーの様子



次作「観光のCVSモデル(仮称)」
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