地方都市の再生戦略
『駐車場からのまちづくり』

本書の狙いを聞く

 

木谷
都市交通、とくに駐車場から地方都市の再生に取り組んでおられる金沢市の行政マンに、本の狙いと駐車場の何が問題かをお聞きしました。

 

狙いは?

前田:
 今回『地方都市の再生戦略』にご寄稿いただき、また1年前に『駐車場からのまちづくり』にご寄稿いただきました。2つの本で駐車場の問題、とくに中心部での駐車場の問題についてお書き頂きましたが、その内容・狙いと、どういう方にお読み頂きたいかをお話いただけたらと思います。
木谷:
 地方都市で駐車場の問題はどちらかというとこれまで重きを置かれてこなかったと思います。市の交通分野でお仕事をさせていただいていますが、近年の人口減少、モータリゼーションの進展といった流れによる大きな変化を特に地方都市は受けていると思っています。おそらく大都市に先行していろいろな問題が出てきていると思っています。
 そういうなかで交通問題を考えてみたとき、ややもするとバスが少ないと言った問題ばかりが先行しているように思います。
 よく考えてみると自動車とのバランスが地方都市の移動にとって避けて通れない問題です。そうしたときに土地利用など、すべての施策を結ぶ接点がこの駐車場にあると思っています。ほとんど関係がない施策であっても駐車場は必ず関わってきます。こういうなかで駐車場を一回見直さなければいけません。
 また近年、建物が気軽に壊されて駐車場化していくという現象が、地方都市をむしばんでいると思っています。それを考え直す。制度的にも、まだ関心が持たれていませんが、是非とも目を向けていただければと思っています。
 1年前の『駐車場からのまちづくり』では、私が携わらせていただいた金沢市の事例紹介という形で、なにか問題提起になればという思いで寄稿させていただきました。一方、今回の『地方都市の再生戦略』においては、そういったことを含めまして、もう少し広い目で特に自治体なり政策なり、もちろん市民の方に、駐車場を考えるときの道筋と言いますか、私なりに感じているいろいろな問題点を今回整理させてもらえたと思っています。
 ですから、是非ともまずは関心をもっていただき、関心をもっていただいた流れが駐車場法の改正といったことに少しでも繋がっていけばと思っております。

○駐車場はまだ不足している?
前田:
 有り難うございます。
 蛇足と言いますか、分かっている方にはお聞きするまでもないことかもしれませんが、昔、地方都市の駐車場問題と言いますと、「駐車場が足りない」だから「駐車場をつくろう」という話が十数年前までは結構あったと思います。今、おっしゃっておられる駐車場問題は質が変わっていると考えて良いのでしょうか。
木谷:
 そうですね。いくつかの都市では駐車場の計画のなかで、すでに供給は一定量に達していると表しているところもいらっしゃいますし、国の方針・答申にもそういった傾向が読みとれると思います。
 しかし一方、現場のほうでは、いまだに「中心部が衰退するのは駐車場がないからだ。もっと駐車場をつくれば活性化ができる」と思っている商店主のかたも、まだまだすくなくないと思っています。
 そういった意味で、今はかなりたくさん駐車場が出来てきており、駐車場法ができた昭和40年代とはまったく様相を変えていると思っています。
前田:
 たとえば金沢だったら、どう様相が変わって、どういう方向に考えたら良いのでしょうか。
木谷:
 そうですね。さきほど言った広い形で中心部を捉えたときには、駐車場はやはり供給過剰ということを我々は思っております。ただ、それがうまく使われていないことも確かです。
 また、駐車場というのは「住む」「働く」「売る」といったような本来の都市活動をうまく円滑にして、十のものを十二、十三にする力は持っていますが、駐車場そのものは決して都市の活力を生まない、触媒的な役割しかないということです。いま現在金沢市のなかで駐車場が、とくに背後の住宅地を含めて、建物を壊して「とりあえず駐車場」という動きが、街の構造をかなり蝕んできていると思っています。
前田:
 分かりました。どうも有り難うございました。

 
 

『地方都市の再生戦略』


●主要目次●

◎序章 地方都市再生の現状と課題/川上光彦

第T部 人口減少・低成長下の土地利用計画

◎第1章 人口減少下の都市計画マスタープランの
      条件/高木一典
◎第2章 コンパクトな都市づくりのための郊外市街地の
      再生・再編戦略/片岸将広
◎第3章 市街地周辺地域における土地利用の
      コントロール/眞島俊光
◎第4章 数値目標を脱した公園・緑地のまちづくり戦略
      /本光章一
◎第5章 既成市街地における土地区画整理事業の可能性
      /埒正浩

第U部 自動車と賢くつきあう都市交通計画

◎第6章 人と公共交通を中心とした新たな交通戦略
      /山純一
◎第7章 駐車場を通して見た中心市街地再生の
      課題と戦略/木谷弘司
◎第8章 交通情報システムによる都市交通戦略
      /永田恭裕
◎第9章 都市計画道路の見直しと交通計画の再編
      /倉根明徳

第V部 人口減少・高齢化・単身化に対応した住宅政策

◎第10章 住宅過剰の時代に住宅政策は必要か
      /三谷浩二郎
◎第11章 高齢者の居住福祉施策/竹内正人
◎第12章 高齢者の居住政策と都市再生/西野辰哉
◎第13章 人口減少下の災害復興のための住宅政策・
      まちづくり/小柳健

第W部 都市魅力再生のための都市景観・歴史的資産
      活用政策


◎第14章 都市計画行政による新たな景観創造と保全
      /竹村裕樹
◎第15章 歴史的資産を活かす行政の取り組み
      中村和宏
◎第16章 地域の歴史資産を活用する市民主体の
      アートプロジェクト/水野雅男
◎第17章 城下町金沢における歴史的建築・町並みの
      創造的再生/増田達男

第X部 住民参加と市民主体のまちづくり

◎第18章 住民参加による地方都市の施策立案と推進
      /神谷浩夫
◎第19章 情報システムを活用した住民参加支援システムの
      可能性/沈振江
◎第20章 ソーシャルビジネスが店をつくり、街を変える
      /陣内雄次
◎第21章 アートや文化を活かした創造的まちづくり
      /坂本英之
◎第22章 ツーリズムによる都市再生/安江雪菜
◎結章 地方都市の再生戦略
      /川上光彦・木谷弘司・埒正浩
 

木谷弘司さん略歴

金沢市都市政策局交通政策部交通政策課課長。博士(工学)。1959年生まれ。金沢大学工学部建設工学科卒業、同大学院博士後期課程修了。都市計画課・交通政策課等を経て現職、金沢大学非常勤講師。著書に『中心市街地再生と持続可能なまちづくり』(共著、学芸出版社)『駐車場からのまちづくり』(共著、学芸出版社)など。

出版記念セミナー
地方都市の再生戦略@東京
2005年6月22日土曜日、13時45分開演〜16時15分頃まで
於:千代田プラットフォームスクエア会議室505
・本書のねらい・概要
 川上光彦(金沢大学名誉教授)
・地方都市の課題と再生のための戦略
 川上光彦
・地方都市の歴史資産を活用する市民主体のアートプロジェクトまちづくり活動
 水野雅男(法政大学現代福祉学部教授)
・ソーシャルビジネスが店をつくり、街を変える
 陣内雄次(宇都宮大学教育学部教授)
・会場との意見交換>


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