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実証・仮設住宅 〜東日本大震災の現場から〜 本書の狙いを聞く |
仮設住宅供給の陣頭指揮にあたった大水さんは「過去の参考資料が少なすぎる」と感じたことから「混乱や課題を記録して、今後の震災の教訓にしなければ」と考え執筆したとのこと。 9月8日朝日新聞読書欄「本の舞台裏」で紹介されましたが、ここではさらに一歩踏み込んでお聞きしてみました。 |
動機や狙いは何ですか?前田:今回、お書きになられた動機や狙いをお話ください。 大水: 私は震災当時、岩手県の住宅課長をしておりました。たいへんな規模の被災で住宅をたくさん造らなければならなかったので、陣頭指揮に立つような形で、全国メーカーさんや各種建築業者の方々に指示をして、仮設住宅を建てていただきました。 なかなか市内に用地がないとか、いろいろな混乱があったのですが、私自身特に困ったのが、いままでどういうふうに仮設住宅を建ててきたのか、記録とか資料がなかったことです。 逆にいうと我々が記録に残して、この次に何かあったときに役立つようにしていかないといけないと思いました。 私が苦しんだことを、次に仮設住宅を建てなくてはならないとなった人が苦しむのは良くないと思い、やったことはしっかり記録に残して次につなげていかなくてはいけないだろうと思ったというのが第一の動機です。 それから、本の書名は『実証・仮設住宅』ですが、やはり震災対応や防災という面で今後どういうことを考えていかなければいけないかということにも繋がる話だと思います。また被災者にたいしてどういう取り組みをしたかということも書きましたので、東日本大震災の今後も含めての被災者に対する支援のあり方を考えることにも繋がると思います。 ですから仮設住宅のみならず、広い意味で防災や被災者支援という観点でも役に立つものになるよう、仮設住宅にまつわるいろんな話を書いてみたというところです。 仮設住宅を建てることは、資材と人材が集まればなんとかできるんですが、住宅を建てるだけでは被災者の生活再建になりません。そのあたりでどういう対応が必要か、我々の取り組みへの反省ももちろんありますけれども、そういうことも含めて実際のとろころを記すことによって広く皆さんに伝わるものになればいいなと思います。 国交省のマニュアルでは不足ですか?前田:国交省では公式マニュアルを用意しているようですが、あれがあれば良いじゃないかということではないんでしょうか(応急仮設住宅建設必携中間とりまとめ(2012.5))。 大水: 「こういうことをやれば良いですよ」というマニュアルがあっても、実際のところどういうニーズがあるのかが分からないと適切な対策にならないということがあります。 たとえば用地の確保についても、たくさん用地が確保できればよいわけですが、ともすると郊外の広いところだけで確保しておいて、市街地では用地が確保されていませんということもあるわけです。そこで機械的にやってしまうと郊外に仮設住宅を建てたのは良いけれども人が入らないということになってしまう。 そういう課題についても、被災地でどういうことが起こったかということを書き記すことによって、これから建ててゆくときにどういうところに気をつけなければいけないかを具体的に知って頂ける意味は大きいと思います。 次に備えて一番大事なことは?前田:これから来るかもしれない次の災害に備えて、今回の経験を踏まえて、一番何をしておくべきだとお感じですか。 大水: 用地確保ももちろんなのですが、それぞれの地域にはそれぞれのビルダーがいる訳なんですね。工務店であったり、なかには準ゼネコン規模の事業をやれるようなところもある。だから、それぞれの地域の持っている力を即座に使えるように準備しておくことが必要だと思います。 今回、一番素早く動かれたのが住田町ですが、即座に地元の3セクや工務店の方々とタグを組んで、震災の一週間後ぐらいには仮設住宅を建てるということで動けたのは、事前に準備があったからです。仮設住宅の図面を作っておいて、どういうふうに部材を加工すれば仮設住宅が建てられるかということを予めプランニングしていたのです。 実際に震災が起こったときに一番大事なのはスピードなのです。そしてスピードをあげるためには事前にプランニングをしっかりしておくこと。たとえば民間をまとめている団体と協定を結んでおくとか、事前の取り組みをしておくと、いざ起こったときにすぐ動けるということに繋がるんじゃないかなと思います。 前田: ということは、この本は行政の方々だけではなくて、供給する業界の方々にもお読み頂くと嬉しいですね。 大水: そうですね。 地元の方々に自分たちでもできるんだということを知ってもらって、即座に動けるような体勢をとっていただけると、実際に災害が起こったときに役に立つと思います。 前田: 有り難うございました。
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