まちづくり雑誌に求められる新たな使命八甫谷邦明(雑誌編集者)
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八甫谷邦明さん略歴 1951年生まれ。専門誌の編集者・記者として『コンピュートピア』『建築知識』『造景』に携わる。『建築知識』編集長、(株)建築知識取締役となったのち、『建築知識スーパームック』を創刊。1995年、クッド研究所を設立し、代表取締役に就任。1996年、まちづくり専門誌『造景』の創刊に関わり、同誌副編集長に就任。現在、『季刊まちづくり』編集長。主な著書『まちのマネジメントの現場から』。
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季刊まちづくりも30号を迎えたところで、日本はこのような悲しい震災、原発事故に見舞われてしまいました。逆にこの雑誌が新たなミッションを持って再出発する区切りになったような気もいたします。これからどういうことを目指してやっていくべきなのか、ぜひこの機会にお話しください。
前回の雑誌(造景)をやったときもそうでしたが、阪神淡路大震災が雑誌を作る大きなきっかけになっていたんですよね。まちづくりを支える社会的な活動、ボランティアとかまちづくり活動がそれ以降盛んになっていくのですが、その動きと一体化する形で雑誌の役割を果たしてきたと思っています。
今回の災害は、地震、津波、原発事故とさらに大きな被害で苦しみが三重になってしまったわけです。この影響は今後10年間にわたって及ぶだろうと思っていますが、その中で従来にはないまちづくりの視点が出てくるだろうと予想しています。
その理由は、まず一つは被害の規模の大きさが前提としてあげられます。広範囲な地域が巻き込まれたため、それに対応した地域連携的なまちづくりが求められています。
二つ目には、地域的な問題があります。わたしも東北出身なので体験から言って、これまで被災地には自立的な地域組織がなかなか形成されてきませんでした。あるいはあっても十分に根付いていないという傾向がありました。もちろん、地域組織が全くないということではなく、小さな村や町というコミュニティの中ではインフォーマルな集団による親密な互助システムが歴史的にずっと培われてきました。それは現在もある程度機能しています。しかしながら、コミュニティを飛び越え、地域的な広がりを持った関係はなかなか形成されていません。
現在、環境や福祉、まちづくりのサービスを支えるNP組織が、なかなか地域住民に広がらない。それが避難初期に食料配給などが被災住民全体になかなか行き渡らなかったことにも現れています。自立的な地域組織が社会的なシステムとして十分確立していないのです。
これまでは、行政機関がそういうことを担当してきたわけです。しかし、こういう危機的な状況に対しては、行政はすぐに対応できません。今後の復興に向けて、東北各地に自治的な地域システムを広げる必要があるのではないかと考えます。それにはやはり、関西方面を始めとした他の地域のまちづくり活動で培われてきた様々なノウハウや知識が役に立つだろうと思います。
もう一つ、三点目としてあげたいまちづくりの新たな視点があります。これまでのまちづくり活動の中で培われてきたことですが、従来は行政と市民による参加や協働を中心に行われてきました。もちろん、今後もそれが大切であることは変わりないのですが、それに加えて官と民の関係だけでなく、民と民、あるいは企業と民という三次元の関係がより大切になってくると思われます。
地域振興や産業振興のためでもありますが、従来の官と民だけでない、立体的な連携、協働が重要になってきます。しかしそれには、地域のマネジメントという概念がないと、なかなかうまく行かないのではないかと考えています。
震災復興が少なくとも今後10年間行われるわけですが、すでに災害のひどかった東北の沿岸部だけではなく、日本海側や各地に影響が広がっています。復興まちづくりは、その事態に対応してまちづくりの新しいシステムを目指していくことになるだろうと思っているわけです。その中で、まちづくり専門誌の果たす役割は、現在取り組まれている活動や、今後取り組まれる新たな試みの情報や研究成果を適宜誌面に紹介していくことにあると思っています。実際の現場の手助けになるような情報や研究を発表することで、さらに連携が各方面に広げる手助けとなるような専門誌としての役割を果たしていきたいと考えているところです。
前田:
ありがとうございました。