まだ、考えられる状態ではない(柳沢厚)
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まだ、考えられる状態ではない

柳沢厚(C‐まち計画室代表)
聞き手:前田裕資(学芸出版社)
2011.4.8

 

 

柳沢厚さん略歴
C‐まち計画室代表。
1943年長野県生まれ。東北大学工学部卒業。京都大学大学院工学研究科修士課程(建築)修了。建設省職員を経て、2001年から現職。他に慶應義塾大学非常勤講師、日本都市計画家協会理事。著書に『都市・農村の新しい土地利用戦略』(共著、学芸出版社、2003年)、『まちづくりのための建築基準法 集団規定の運用と解釈』(共編著、学芸出版社、2005年)『自治体都市計画の最前線』(共編著、学芸出版社、2007年)など。


  • 今は身動きできない
  • リセットはできない
  • まだ、まともな議論ができる段階じゃない
  • 今は身動きできない

    柳沢:

     阪神淡路の時は、僕は現地での実戦部隊じゃなくて外側で仕事をしていたわけです。特に都市計画は、これからの話なんで、いろんな前提が見えてこない状態では、はっきりしたことが言えないんですよ。ですから、今回の震災について現地に何か意義のあることを言えるかと言うと、ほとんど思考停止状態と言わざるを得ない。

    前田:

     おっしゃることは良く分かります。

    柳沢:

     無責任な楽観論ならいくらでも言えるし、距離を置いて参謀のような立場から言うことも必要だろうとは思いますが、私はそんな立場を取ったことがないですから参謀にはなれない。体力的にも無理がきかないので現場にも行けないという立場ですから、悶々としています。

     今は役に立つときが来るまでじっと見ているしかない。

    前田:

     逆に言うと、今はあわてて都市計画の専門を振りかざして何かをやろうとしたり、言ったりしない方がいいという思いもあるということでしょうか。

    柳沢:

     現地を混乱させるだけになりかねないということがありますからね。もちろん闇雲にやる中で見えてくることもあるでしょうが、私は阪神淡路の時に現場をやってないので、あまりそういう気分にならないというのが正直なところです。

    リセットはできない

    前田:

     今回の震災は原発事故まで起きてしまったので、被災地に限らず日本全体が大きく変わらないといけないのじゃないかとも思うのですが、例えばコンパクトシティについても大きく関心が寄せられると思いますか。

    柳沢:

     どうなんでしょう。昨日(2011.04.08)の朝日新聞に「リセットされてたまるか」という見出しで論説(「社説余滴」)が載っていたんですが、要するに、この事態で日本が今までやってきたことを全てリセットしようじゃないかという議論があるけど、単純にそんなこと言えないだろうということだったと思います。その気分はなんとなく私の気分にも近いものがあります。

     街の作り方とかそういうものを全く違う考え方で行こうということは、私もあんまりないと思います。でももし違うやり方があるとすれば、生活のスタイルを変えていくというのはありそうな気がしますね。

     低炭素化みたいな議論でいろんな努力をしようといっても、自分の生活スタイルには踏み込まずに、技術開発を言っていたけれど、生活の質を多少押さえ込んででもやるってことについて、今回の事態で多くの人がそういう感覚に近づいて行くのではないかという気がします。

     そういう意味で、ライフスタイルの変更で低炭素化に向かうのは、これから可能性が出てくるのではないかと思います。

     しかし、国の構造をリセットしようという議論は、どうも私にはピンと来ないですね。

    まだ、まともな議論ができる段階じゃない

    前田:

     三陸の漁村集落で今まで何回も津波を経験してきたところも、すごい被害でしたが、あまり津波経験がなかったような平野部でも住宅地が大きな被害を受けました。そのあたりは、土地利用の専門家としてはどう見ますか。

    柳沢:

     それについては、もうちょっと材料がないとなんとも言えないですね。100%ここなら安全という抜本的な答を求めると、かなり無理な答にしかならないと思うんですよね。ですから、ある程度の危険と共存する構えがいると思うんです。その部分をどういうふうに了解して、いざというときはこの部分はダメだけど、人の命と大事な主要部分は残るという目標設定をしておく必要があると思うんです。つまり、100かゼロではなく中間のまちづくりを目指すことになると思うんですよね。

    前田:

     防災の専門家は以前からそういうことをおっしゃっていましたが、必ずしも世の中の人たち、政治家の人たちはそういう考え方に馴染んでいませんよね。特に、こういうことが起きれば100を望むし、普段は全然考えてないというのが普通ですよね。

    柳沢:

     そうですよね。たぶん、100が欲しいという声に大きく傾いていくでしょうが、それを専門家がどうやって現実的なところに落とし込むかというところでしょうね。

    前田:

     逆に言うと、100の安全性を声高に言ってた人が一年後にはゼロでいいと言い出すのをどう止めるかということもありますよね。

    柳沢:

     一年で変わるとは思えないけど、三年したらまた世の中の雰囲気がガラッと変わるのはあり得ますね。

    前田:

     神戸の震災の時は、誤解もありましたが木造がたくさん倒壊したのを見て、やはり耐震補強が必要だとみんな思いましたが、5年10年経つと手入れをしてない家でも目をつぶるという雰囲気になりました。「住んでいる人がいいなら、いいか」という雰囲気で。しかし、100の安全を求めても無理なことは出来ないですよね。

    柳沢:

     それはそうです。ただ、今はまともなことがしゃべれる段階じゃありません。

    前田:

     ありがとうございました。


    2011.04〜