都市観光の新しい形
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都市観光と都市デザイン

「観光」を超える言葉はないか

「まちづくり」が「都市計画」を超えたように

(株)URサポート 千葉桂司

 

 

はじめに

 昭和40年代半ばに「まちづくり」という言葉が生まれた。それは丁度、オイルショックをもって高度経済成長が終焉を迎える少し前の頃であった。そのうちにこの言葉は野火のように広がり、「都市計画」という言葉を凌駕した。

 なぜ、この「まちづくり」という言葉が使われるようになったのか。1つは、産業基盤づくりから生活基盤づくりへ、つまり身近な生活空間や地域に市民の目が向かい始めたこと、2つに都市計画がもはや官の独占物ではなくなってきたこと、そして3つめに、市民やNPOなどの手づくり活動の輪が広がっていったこと、などがあるだろう。こうした動きは、それまでの都市計画の延長線上から生まれたのではなく、全く新しい概念、行動原理として登場するのである。ある面「都市計画」は官の手からはなれて「まちづくり」として市民の手に移ったといえよう。

 

新しい観光のスタイル

 さて、「観光」である。観光の語源は知らないが、辞書によれば「よその、土地・景色・風物・文化などを見物すること」とある。しかし今、ヨソの地の光を観る観光も大きく様変りしようとしているように思われる。というより従来とは全く別の観光概念から発生した「新しい観光」と呼べるものではないだろうか。そのスタイルには、例えば、

(1)まちづくり型が最も典型的なスタイル。

 何気ないわが街に眠れる資源を発掘し街を磨くもの、あるいは乱暴な開発から街を守ることを契機に始まるもの、更に商店街活性化を求めるものなど含め、いわば「まちづくり観光」とも呼ばれるスタイル。

(2)お祭イベント型は集客効果に期待。

 伝統的なお祭の復活だけでなく、新たに音楽・映画・芸能文化やスポーツ、あるいは夜の明かりづくりなどを梃に、新しい市民の祝祭づくりが盛んである。企画する側と集まる側が一体となって楽しむスタイル。

(3)発見型ともいえるスタイル。

 埋もれていた、あるいは隠れていた歴史や文化、はたまた、これまで価値が無いと思われていたモノやコトに物語を見つけこれを楽しむ。路上観察なども観光的要素をもつ。

(4)ウォーク型は体力向上・健康志向スタイル。

 街歩き・街めぐりや環境めぐりなど小さなスポットをネットワークして、これに体力づくりを加えて健康と結びつける。

(5)連鎖する趣味自慢型
 自邸の庭のガーデニングとか、電飾クリスマスツリーの競演など、趣味が高じた同好者が街を一変し、突然観光地化してしまう。

(6)街が博物館型は街のお宝発見スタイル。

 町工場を博物館に仕立てた工場めぐりやものづくり体験、街の家々に秘蔵されていたお宝めぐりなど、わが街のパワーを見直す絶好の機会を提供する。

 その他、都市と田舎の交流を図る地域交流型などなど、

 実際にはこれらの組み合わせで動いており、数え挙げればキリがないほど多様である。

 これらに共通することは、単に従来型資源をベースにした観光から、

(1)これまでは観光の対象に考えなかった街やコトの資源を掘り起こす、あるいは創り出し新鮮な魅力を発信するものを対象として
(2)そこに新しい物語を見つけ出し
(3)お仕着せ観光から、自主企画・手づくりにより
(4)団体相手から個人などの小グループ化に重点が移り、

(5)集団移動型ではなく、発見型・学習型・参加型・そして体験や交流型のニーズが強く、

 そして、

(6)産業としての観光を最終目的にしていない
 といえる。「まちづくり」が多様なスタイルを見せるのと共通する面が覗えよう。

 

新しい観光の概念

 こうしてみると、第1に、「新しい観光」の基本は、「手づくりを共に楽しむ」ことであり、「主体」となるのは地域の住民や市民とヨソから来る人たちである。「目的」は自ら進める地域づくり、地域磨き、地域育てであり、我が町自慢ともなる。そして観光の対象となる「場所」は自らの居住地や街、そして自らが興味を持つ地域である。その「内容」は、地域のアイデンティティーや魅力を掘り起こし、磨くことを通じて、参加者が触れ合い交流したり、体験・学習などの自己啓発を進める、いわば人生を豊かにする究極の社会活動ともいえるが、こういうと少し堅苦しくなる。こんなところに、こんないいものがあるから知って欲しいナ・知りたいナ、こんなところでこんなことをしているから観に来て欲しいナ・観たいナ、という共通の価値観が「新しい観光」の流れを創り出しているといえる。

 つまり、ここでいう「新しい観光」の概念とは、「ヨソの街や地域で進められる資源の発見や、堀り起こしたモノ・コトなどを観たいという人たちの欲求と共に、一方でソコの住民たちが、自分達の住む地域の地域づくりを情報発信し、ヨソから人を招き入れたい・一緒に楽しみたい、という双方の欲求がつくり出す新しい発見・交流の形」といえる。

 第2に、従来からの商業系産業としてのイメージが強い「観光」という言葉は、この個性化した「新しい観光」のイメージに似つかわしくないように思われる。ある面「観光」は観光産業の手からはなれて市民の手に移る時、これに代わるふさわしい言葉を期待したいものである。

 

都市環境デザインにできること

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リンゴ並木をシンボルに(株)まちづくりカンパニーが活躍する飯田市
 
 地域のアイデンティティーを守りながら新しい魅力を発信するために、これを見える形に置き換えていく作業が必要となる。では、これを都市環境デザインに引き寄せて考えてみたらどうなるか。ここでは具体のデザインのあれこれではなく、その方法論の基本となる事柄だけを、整理しておきたい。

(1)「守るデザイン」

 今ある環境や資源を、破壊あるいは食いつぶされることから守り、際立たず持続的な営みを継承・保全するデザインがまず第一に求められるべきである。水や緑といった自然環境を守るため、もっと身近に見え易くするデザインとか、あるいは街並みになじむ建物や装置を、ことさらデザインすることなく嵌め込むことで守るといった、いわば「守ることを観光する」後押しをする。

(2)「活かすデザイン」

 歴史的な価値のあるものだけでなく、古くなくても地域の記憶を留めるものや捨て去られようとするものに光を当て、新しい価値に再生することにデザインの力を発揮したい。その気で見れば面白く楽しくできる力を残したストックは身近な所に隠れており、それを掘り起こすのはヨソの人たちの目かもしれない。デザインがそれを磨く力にもなるだろう。

(3)「置き換えるデザイン」

 醜悪なデザインに占拠された街や環境を、歩いて楽しい魅力あるそれに置き換えるために、デザインの戦いは避けて通れない。いやなものを排除し防止することが、ヨソから人を招くコトのできる最低条件であり、代替のデザインを提示できるのもデザインの仕事であろう。

(4)「吹き込むデザイン」

 全く新しいデザインを効果的に付け加えることにより空間に刺激を与え、魅力を増幅し新しい風を吹き込むデザインは楽しい。これは一歩間違えれば街を壊す方向にも作用する。今ある環境を壊さない魅力的なサインを、来る人たちにいかに送ることができるか難しい舵取りを迫られる。

(5)「協働するデザイン」

 上記のために、ワークショップなど通じて、専門家は地域の人たちや市民と協働の機会をもち、「新しい観光」のイメージを生み出すと共に、「地域力」を高める様々な仕組みやルール、仕掛けづくりに貢献できる。

 

おわりに

 こうした「新しい観光」は観光とも呼べないほど、概ね小さな、手づくりの観光でありビジネスには乗り難い面がある。しかし手詰まりの商業観光サイドは新しい商品企画を模索しており、現代の人々を引き付ける魅力的なニーズを嗅ぎ取れば、それらはたちまち商業化されるだろう。これを否定することは出来ない、むしろそれを逆手に地域の活性化に結びついた事例も全国にたくさんある。こうした「新しい観光」の芽が、我が町意識の高揚と、誇りの増進に結びつく効果があるとすれば、それも又よしとしたい。

 それにしても、「観光」を超える「新しい観光」にふさわしい言葉はないものだろうか、しかも大和ことばで。ここはとくと考えてみてはいかがだろう。

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