都心居住をめぐって by 鳴海邦碩
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都市居住に関する私的関心

市場と都市居住の関係について

 今回の「都心居住の環境デザイン」について、 いくつかの私なりの関心を述べさせてもらいます。

 ひとつは経済的な市場と都市居住ということです。

経済学者は現在の自由経済市場では地価が土地利用を決めるといいます。

都心は地価が高い。

よって都心ではこの地価を負担できるような建物を作らないといけない。

だからオフィスビルなどが建ってきた時代もあるのですが、 今は一番地価負担力があるのが住宅だから住宅を作ろうという、 そういう単純な話があるのです。

 そういう仕事をされる方もたくさんいます。

世の中の動きを言えば確かにそういう側面があります。

地上げがあってどんどん建て替ていこうというプレッシャーがあるのです。

だから住宅は高価格高家賃になって当然だというのが彼らの意見です。

「そういう所に住める人が住めばいい」というのが経済学者の考えですが、 ひとつはそういう側面があります。

都心に建つべき住居とは

 二番目として、 都心にいったいどういう住宅が建てばいいかという問題があります。

昔は、 長屋とか町屋といった低層の住宅が主流だったのですが、 最近の都心住居は高層住宅が流行というか、 地価に対応するには高くしなければいけないという状況があります。

 ところが皆さんご存知のように、 ヨーロッパでは高層住宅は非常に忌避される傾向があり、 これは1960年代くらいから顕著になっています。

しかしアメリカではニューヨークをはじめとして超高層住宅の凄い派手な家に住むというのはお金持ちのシンボルだということです。

 ヨーロッパでは高層住宅はもういらないという時代に入って、 アメリカではお金持ちの住宅というふうになってるのに対して、 アジアでは高層住宅を庶民のものとして普及してきています。

日本も韓国も台湾も香港も、 それから最近ではマレーシアやシンガポールも、 高層住宅が庶民の住宅として広がっています。

今のところ社会がそれを受け入れている構造があります。

 どうしてアジアの人は高層住宅が好きなのだろうかということも論じていただければ面白いと思います。

私はあまり好きではありません。

せいぜい10階くらいでやめてほしいと思いますが、 30階も上に住むというのは気持ち悪いものがありますが、 香港などでは当たり前です。

みんなあそこに住んでいるわけですので。

面白い街を作っていくためには

 三番目は先程と関係があります。

都心は地価が高いから高家賃になって高層が一般化していく、 ということがあるのですが、 一方なかなかそうならないという現実があります。

 例えば京都などの町中はたくさんの所有権が入り乱れている。

京都は200年経っても木造住宅から脱皮できないと思います。

都市は歴史的なものですから慣性力があって簡単に変わらない。

簡単に変えないという力が働いて、 要するに経済市場の論理に刃向かっているわけです。

長屋に住んで何が悪いか、 というのも同じことです。

 市場の論理としてはどんどん高層住宅化が進みそうですが、 土地を売らなければ進まないわけです。

そうするとそこにいろんな抵抗が生まれますから、 それが面白い街を作っている背景としてあるのではないかと思います。

今回のサブテーマになっているさまざまな楽しみとか怪しさというのは、 計算どうりにはいかなくて、 みんなちょっと刃向かっているというところに怪しさ的なものがあるし、 そういう空間が都市の中に霜降り状に残っている現象が背景にあるのではないかと思います。

 高層化、 高家賃化といった状況はヨーロッパではあまり顕著に表れていません。

これから日本でも、 土地だけが力を持っているのではなく、 別の方向に仕組みが変わる可能性にも期待したいわけです。

21世紀には建築の人間化はできないだろうか、 社会の仕組みをもう少し人間化するような知恵も生まれているのではないだろうかと期待したいのです。

 単に都心は地価が高くて高層住宅しか建てられない、 そしてそれに刃向かわないと楽しい居住空間が生まれない、 ということでは寂しいので、 新しいパラダイムを生み出すような議論にも期待したいと思います。

現代の都心と郊外の関係、 将来を見据えて

 四つめは、 そういう話を郊外との関係を見ながら議論する機会があればしていただきたいと思います。

 都心居住が非常に成熟しているのはパリだと言われるのは皆さんご存知だと思います。

パリはお金持ちが楽しめるようにできた町です。

お金持ちほど町中に住みたいと言います。

おいしい物を食べたいから都心に住む、 芝居を見たいからそこに住む、 そういうことでパリは発展してきているのです。

 労働者はパリの外に住みます。

だからパリのすぐ外側を取り囲む地域を赤いベルト地帯と言います。

社会主義運動、 労働運動がこうした地域から生まれてくることが多かったからです。

パリの政治改革はいつも外から内にやってくるということがよく言われたわけです。

 興味深いことに最近パリの郊外で「都市性に関する権利」の主張が生まれてきています。

「都心にだけ劇場があるのはおかしい、 郊外にも劇場とか美術館とかそういう物を作って私たちの生活の楽しさを保証せよ。

それは国家が保証しないといけない」という運動が起きています。

都心居住も結構だが郊外居住のことも考えてほしいという、 そういう傾向があります。

 それからアメリカでは都心が疲弊しつつあって、 郊外に新しいホワイトカラーの為の都市を作ろうという動きが強くあるのは皆さんご存知のことだと思います。

ロバート・フィッシュマンという人が「今アメリカでは人々も生産も都市を見捨てつつあり、 中心都心は絶望的に貧乏な人々とモダンエリートのみを残している」とある本で書いています。

これは今のアメリカの大都市の都心部はそんなものだという彼の認識なのです。

 だからアメリカの都市がどうなっていくだろうかということと同時に、 我々の都心をどうしたら良いかということを、 パリやニューヨークの状態を横目で見ながら議論をしていただければ幸いかと思います。

 ちょっと時間がありませんでしたので早口になりましたが、 以上で私の議論の整理にさせていただきたいと思います。

ありがとうございました。

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都市環境デザイン会議関西ブロック


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