・「無限の広がりをもっておおう天に対して動植物がその上で生存、 繁茂し鉱物がその中に存在する無限の広がり。 普段土壌の連続として認識される」
・大昔:土木力=軍事力=統率力⇒政治(実力者)
○土地造成:南港埋立、 泉北ニュータウン造成、 東山浄苑、 近鉄学園前宅造、 宇治太陽ケ丘運動公園造成、 瑞穂ゴルフ場、 同志社田辺造成、 名鉄宇治宅造、 和泉コスモポリス、 関空関連等
大地の達人に聞く5
土木デザインと起伏
―大地の心―ゲストスピーカー 吉村 憬〈総合企画センター〉
コメンテーター 松久喜樹〈大阪芸術大学〉大地(ダイチ)とは
三省堂国語辞典によると
・「人間がその上に住む広々とした土地」
と記されている。感覚的には大自然を形成している太古からの土地と云えるのではないだろうか。 山を切り崩し谷などへ盛土されたもの、 又、 海、 河川、 湖、 池などに埋め立てられた人工地盤(関空、 南港、 神戸ポートアイランド等)は大地ではないだろうか。 そして又、 市街地は大地なのか、 大阪梅田は大昔、 川の開削等の土砂で埋められ「埋め田」と云われたと書物に記されている。 京都の淀(川が溢れて淀んでいた)や加茂川、 桂川、 木津川(天井川)などの周辺にも川の氾濫土砂流出により土地が形成され、 河口下流には扇状地がある。 私なりに解釈させてもらえば、 自然の作用によりできたものは当然大地であり、 又人工的に造り上げたものも時間の経過(世代が変われば)と共に大地として認識されるものと思われる。
それは建物ができた時は単なる建物と云う器であるが時間と人間の関わりにより会社(オフィス)や家となるのと良く似ている。
又、 更に発展的に考えて比較的大規模なコンクリートや鉄構等の施設の上(ビルの屋上、 地下駐車場等の上部)に盛土により人工的に作られ、 また将来作られるものも大地として捉えられないものだろうか。
山、 海、 河川、 湖、 池等そして市街地を含めすべて土と水に関する取り組みは大地との取り組みであり土木デザインに関係するものであると思う。
1. 土木について
「築土構木」(中国)より土木の名が付けられたが実際は土と水の学問(土水工学)である。 また大規模な建築は大昔には「土木」に含まれていた。
・戦時:ミリタリーエンジニアリング(国、 軍の為)
・現代:シビルエンジニアリング(市民の為)
○山岳土木:ダム、 トンネル、 橋、 河川、 道路、 ゴルフ場、 その他造成
○都市土木:地下鉄、 上下水道、 道路、 河川、 地下街、 造成等
○海洋土木:港湾、 埋立、 しゅんせつ等
2. 土木作品のいろいろ(公共、 民間)
土木作品は次の点、 線、 面の3つの形態に分けられる。
なおデザイン面から見ると橋梁が最も建築に近い存在だろう。
○点として:ダム、 水槽、 タンク、 プール、 貯水池、 井戸、 鉄塔、 基地、 城、 浄水場、 駅、 灯台、 水門等
○線として:道路、 橋梁、 鉄道、 トンネル(道路、 水路、 鉄道、 上下水、 ガス、 電力、 石油、 電々、 ゴミ)河川、 海岸、 上下水、 ライフライン、 堰、 城壁、 石垣、 スキージャンプ台、 テストコース(自動車等)等
○面として:宅地、 ゴルフ場、 空港、 リゾート地造成、 博覧会場、 牧場、 貯水池(ダム人造湖)地下街、 地下駐車場、 競馬場、 競艇場、 野球場、 庭園、 墓地、 霊園等
3. 土木。 あの時、 この時
過去に関係したプロジェクトの事例
○山岳土木:佐久間(長野)、 八久和(山形)、 十津川(奈良)、 大日川(淡路島)等のダム及びトンネル、 道路、 橋梁
以下に上記の中で3つを選び記述する。
○都市土木:阪神高速道路高架橋(梅田入堀)、 京阪地下鉄、 阪神淀川橋梁、 中の島道路、 京都地下鉄、 土佐堀川防汐堤、 シールド(京滋)
(1)八久和(ヤクワ)ダム
東北電力(株)、 重力式水力ダム、 山形、 S32
形状:
H 97.5m L 259.5m Vc 358,000m3(コンクリート)
出力:
60,000kW
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図1 八久和ダム(山形) |
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図1 八久和ダム(山形) |
現場からはいつも月山が眺望でき冬期には5mを越える積雪の深山。
電話は風雪で時々脱線不通になるも辛うじて使用でき新聞は三日遅れ、 ラジオもうまく聞けない。 明日の天気は地元の人の話か体験で予知。 秋からは越冬隊を編成する。
別世界の地。
当時家電製品が急速に普及し始め、 経済大国日本を誕生さすには先ず電力からと云うことで日本有数の降雪豪雨地帯のこの地点に水力ダムが計画された。 計画設計は東北電力(株)の技術陣でなされ、 慎重なる調査(地質、 降雨、 洪水量、 骨材岩質等)を経て工事は大型機械による工期短縮、 省力化でハイピッチに進められたが、 岩質の悪さ、 多大の降雪そして除雪、 又度重なる洪水により難工事の続出。 先ず一旦本流を切り替えるバイパス工事(トンネル)には岩盤と出水に悩まされ、 堰体工事中での三回にわたる降雨による大洪水(1,000m3/sec)で壊滅的打撃を受け復旧作業に手間取る。 しかし何としてもこの川を堰止めるのだ!と云う自然への挑戦、 克服(勝つ)「負けてたまるものか」と云う土木魂、 男の意地が、 約2,000人の男の世界の一致団結でダムが完成し、 今静かに満々と40年間水を貯えている。
梅田入堀S37〜41
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図2-1 阪神高速道路高架橋(梅田入堀) |
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図2-2 阪神高速道路高架橋(梅田入堀) |
注1:
テクノステージ和泉
図2-3 阪神高速道路高架橋(梅田入堀)
図2-4 阪神高速道路高架橋(梅田入堀)
図2-5 阪神高速道路高架橋(梅田入堀)
図2-2 阪神高速道路高架橋(梅田入堀)
今思えば野蛮な基礎設計であった。 橋が完成して目に見えるのは上部工のみであり、 やや武骨な構造で「でっかいなア!」と感嘆しつつ全体としての道路の線形は適度な曲線が入り都市を貫通するすばらしい機能をもった絵になって当時人々の目に映ったのではないだろうか。 しかし、 それらを支えているのは目に見えない下部基礎工であり圧気ケーソンに打ち込まれた男の情熱と意地を忘れないでほしい。 肥後橋付近から梅田入堀、 出入橋への線形美はすばらしく朝日ビルの中を貫通したルート設計は新しい発想であり将来の良策と予見されたが……(その後、 事例が少ない)。
都市環境における土木デザイン等についての論議も一部にあったが市民の関心は騒音、 振動等の公害防止と作業時間帯の厳守であった。 35年の歳月を今改めて感じる次第である。
ニューマテックケーソン工法(圧気潜函工法)とは大阪では30mを1ロッド4m前後のRC造りを継ぎ足しては圧縮空気を先端部(掘削作業室)に送り込み函内への外部からの侵入(水と土砂)を防ぎつつこの中に作業員が入って地上との連絡は打音の合図で行いつつ人力掘削による残土処分は鉄製バケット(0.5m3入り)によりシャフト(φ1.2m竪鋼管)の中をクレーンで捲き上げて地上へ排出する。 2気圧以上の中での湿度の高い不快指数100での危険な作業で作業員の体内へはNO2ガスが入り潜函病が発生する。 加圧、 減圧室やホスピタルロック(治療室)等はあるが非人間的なものである。
ケーソンの沈設に関する力とは次の通り
A 沈下推進力(下向き):
ケーソンの自重(RC重量、 付属器具)
B 抵抗力(上向き):
1.表面摩擦力(土圧)
2.揚力(函内気圧)
3.浮力(水圧)
4.刃口先端(ケーソン)の抵抗力
A>B 沈下可能
A<B 沈下不能
(対策)
・荷重を載せる
・エアーまたはウォータージェットをかける
・フリクションカットを使う
(3)和泉コスモポリス
改称:
第3セクター官民19団体、 和泉市、 H1〜6
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図3-1 和泉コスモポリス(改称:テクノステージ和泉) |
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図3-2 和泉コスモポリス(改称:テクノステージ和泉) |
事業の計画推進のためには先ず用地の集約、 これは人の心の集約でもある。 当時、 市街地は地価で折り合いが付けば転売されるケースが多かったが山地や農地では「先祖伝来の土地だ、 金だけでは動かないぞ!」「愛着がある、 売るのはイヤ!」「売れば相続上困る」……どんな良いデザインであっても土地問題が解決されないと正に「絵に画いたモチ」になってしまう。 用地集約が終れば事業は終ったも同然とも云われた。 土地に対する地権者の思い入れがいかに深く複雑であるかがよく判ったプロジェクトであり土地に諸々の心が介在していた。 関空を意識し、 いかに魅力ある開発にするかで苦心された。 区画割りや敷地の形状はデザイン上大切であるが完成時の販売単価の設定と企業誘致が最大の問題点であった。 幸い用地が集約され組合施行の区画整理方式で開発が進み造成工事も今年12月に完了し進出企業も増加しているので立派な産業団地が期待される。
南大阪で計画された第3セク方式の3コスモポリスはほぼ同時にスタートされたが「泉佐野」は既に破綻し「岸和田」は中止され「和泉」のみ造成が完了する。
4. 大地との付き合い方
(2)土地には太古からの目に見えないが人の思い入れや情念等があり土地柄、 風土、 個性や誇りを大切にして付き合い、 対話する気持ちを大切にしたい。 (風土工学への気配り)(今でも地鎮祭やお祓いで安全祈願をするのはやはり科学で割り切れない何かがあるのだろう。 )
(3)完成後の施設や造成地を見た時に今目に見えない下部工の構造や土や水との戦いとその克服が一般の人々にも判るようにし、 大地に思いを馳せ、 大地に感謝する気持ちをもっとPRすべきではないだろうか。 それはまたもの云わぬ大地へのご恩返しではないだろうか。 (大地よ有難う)
(4)企画、 設計に充分時間をかける(すぐに設計に入らないこと)どんな理由で誰のための計画かをはっきりさす。 反対を恐れずに「情報開示」を行い、 地元住民の協力を得る。 造ってやるの意識を捨て「そこに造らせてもらう」の気持ちで。
(5)人間性重視の取り組みをする。 安全、 構造設計のみを考えずに。 設計者の自己満足だけでは駄目。 施工中作業をする人、 完成後利用する人、 又それを観る人(地元でいつも見ている人、 時々見る人)それぞれの心と如何に融和し、 納得のできるデザインにするかが大切である。 同時にまたそれと真剣に取り組んで(大地と付き合って)きた人達や、 不幸にも犠牲となられた方々に対しても思いを巡らせたい。
(6)自然条件、 社会条件の変化に対応できる計画、 設計をする。 デザインする者は広い知識と体験に基づいてその大地にその時々の知恵を出し、 誰に対しても堂々と提言できる力を付けるべきである。 そして時代の変化やニーズへの対応案(IF, THEN、 もし、 そのときに備えて)があれば理想的であろう。
(7)メンテナンスそして取り壊す時のことも考えて設計する。 耐用年数がきた時、 又不要になった時どのように対処するのかも考える必要がある。
(8)土木と建築の融和に努める
■最後に「土地は彼か彼女か?」土地には3つの力がある。
1積載力……建造物を載せる
2埋蔵力……生命を体内に宿す、 埋める
3培養力……樹木、 植物を養うやはり彼女か!?
大地にも心あり、 時の流れ、 水の流れを知って心ある対応をしたいものである。 決してお金だけでは動かない。 (バブル時代にもあったこと)。 怒らせてはならない。 情念も浸透している。 土地の心、 それは土と水の心であり、 又地権者や周辺住民の心でもある。
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