緑としての建築
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NEXT 21 居住実験

加茂みどり

 

 私は実験集合住宅NEXT 21の居住実験を担当しておりますので、 NEXT 21の紹介をしたのちに、 緑としての建築について、 何回かワーキングに参加させていた中で感じたことを述べさせていただきたいと考えております。


NEXT 21という共同住宅

NEXT 21と緑
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NEXT21
 こちらが竣工時のNEXT 21です。 地上6階で屋上庭園があります。 中庭もあり、 エコロジカルガーデンと呼んでいます。 だいたい1500m2の敷地ですが、 1階から6階まで1500m2ほどの植栽があります。 2階以上は全て人工土壌になっています。

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3年後のNEXT21
 これが3年後のNEXT 21です。 94年10月に竣工し96年10月にはこのような状態になっています。

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中庭のエコロジカルガーデン
 これは6階から中庭のエコロジカルガーデンを眺めたところです。

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上階を見上げる
 これは見上げたところです。

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立体街路
 我々は共用廊下を立体街路と呼んでいます。 共用廊下を街路空間として設計していただきました。 この共用廊下から花の咲く頃のNEXT 21を眺めたところです。

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立体街路を見下ろす
 これは逆に見下ろしたところです。 色とりどりの花がずっと見えて一番いい時期のNEXT 21です。

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屋上を見上げる
 5階部分から屋上を見上げたところです。 手前の方の植栽はちょうどこの場所の住戸の方が手をかけくださって、 いつもきれいになっています。

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屋上の様子1
 これは屋上の状態です。

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屋上の様子2
 屋上に雉鳩の巣ができまして、 巣立ちもありました。

プランターではなく人工土壌
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各家の緑化・5階
 これが5階の住戸のすぐ隣です。 この辺りは5階ですがプランターではなく土いれてある部分があって木が生えていいます。 このあたりはこの住戸の方が非常に手間を掛けておられる空間です。

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各家の緑化・3階
 これは3階ですが、 子ども達が三輪車でくるくるまわる遊び場になっています。 緑が多くて、 奥様方の立ち話なども結構多い場所です。

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各家の緑化・4階
 これは子供が遊んでいるところです。 4階の写真です。 やはりプランターではなくて、 土から木が生えています。

 プランターか人工土壌かという話がありますが、 私はやはりプランターではなく、 人工ではあっても土壌から木が生えているということには、 少なからぬ意味があると思っています。 その理由については自分でもはっきりとは言えないんですが、 ちょっと雰囲気が違うんじゃないかと思います。

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身近な緑
 これは同じ場所ですが、 この子の家の玄関の前でお母さんが出てくるのを待っている間に葉っぱで遊んでいるところです。

街路空間として
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自転車も乗れる立体街路
 これは3階です。 3階の共用廊下をぐるぐるまわって、 全く道路に出ずに自転車に乗れるようになっています。 その横にはやはり植栽があります。

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たまり場空間
 先ほど写真で出てきた5階部分です。 そこは奥様方の立ち話と子ども達がたまる場所になっています。 近隣(住棟内の人ですけれども)の人たちが集まってくる場所です。

NEXT 21と野鳥
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雉鳩の巣(屋上)
 これは先ほどの第一号の巣が出来た場所を下から見たところです。

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雉鳩の巣立ち
 これはNEXT 21の観察をしてくださっていた野鳥の会の方が、 写真に撮られた巣立ちの直後の雛の写真です。

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NEXT21に来た小鷺
 これも野鳥の会の方が撮られたのですが、 小鷺だと思います。

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NEXT21に来たメジロ
 メジロが来たところです。

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NEXT21に来たオオルリ
 オオルリがやはりNEXT 21にやって来ています。

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都心のマンションでも野生は育つ
 昆虫類は数十種類、 エコロジカルガーデンにやってきました。 ちなみにかなりの生物がやってきてくれて、 かなりの植物が育っていますが、 これは大阪の環状線の中にある都心部のマンションであることを申し添えたいと思います。


熱画像で緑地の効果を検証する

緑と瓦の屋根の効果
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熱画像撮影構図
 こういった緑地が熱画像で撮った時にどういう効果があるかを、 サーモビュアで撮った写真です。 まずこれは可視光線で撮った写真です。

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NEXT21の8月昼間
 これが8月の真っ昼間の写真です。 NEXT 21はステンレスのパネルで外壁が出来ていますので、 非常に熱くなっています。 加えて瓦の屋根もものすごく熱くなっています。 またコンクリートの壁もある程度高い温度になっています。

 温度スケールを見ていただきますと、 一番高い温度は白い部分、 次に高い温度が赤い部分、 次が黄色、 緑、 青で、 一番低い温度のところが黒い部分となっています。 黒い部分は植栽の辺りで、 8月12日午後3時26分ですけれども、 低い温度であるということがわかっていただけるかと思います。

 夜の写真がありますので、 次を見ていただきたいと思います。

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NEXT21の8月夜間
 まわりの建物の瓦の屋根は全く蓄熱せずに、 真夏の同じ日の夜の8時には、 このくらいの低い温度にきちんと下がっています。 NEXT 21のステンレスのパネルもまた、 熱容量は低いので、 瓦の屋根と同じくある程度低い温度に下がっています。

 一方NEXT 21でもコンクリートがむき出しになっている所は一晩中熱いということが言えます。 そして向かいのコンクリートのビルも夜中も温度が変わりません。

 夏が始まったら終わるまで、 ずっと温度が高いというのが、 ヒートアイランド現象の原因だと言われています。 夜になって、 温度が下がるべき時に、 きちんと温度が下がらないのがよくないそうです。 瓦の屋根は、 昼間に高い温度になっても、 夜になったら熱を大気中に放熱し、 ちゃんと温度が下がり、 自然の温度状況に反する状態にはならないようです。

 ですからもし仮にヒートアイランド現象を抑制するという方向の努力をするならば、 やはり瓦の屋根であるとかグリーンなどをそのまちの表面に出していくということが、 非常に有効だということが、 この写真からわかっていただけると思います。


居住実験の新しい展開

二律背反する意見
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NEXT21居住者達の感想
 こういったNEXT 21の実験の中で入居者がどういった感覚をもっているのかという調査を、 (今はすでに退居されていますが)5年間住んだ方たちを対象に行ないました。 以下は「緑地についてどう思うか」ということをワークショップでお話をしていただいた時の結果です。

 その中で一番大きな特徴として挙げられるのは、 賛成派と反対派に分かれるということではなくて、 全ての人が賛成の意見と反対の意見の両方を持っているということでした。 二律背反が同じ人の中で起こっているということがわかったのです。

 「緑地は子供にも良いし、 お花が咲いてると良いし、 虫も寄ってくるし、 良いな」という思いと、 「落ち葉がいやだな、 枯れ葉がいやだな、 死角が多くて不審者がいるのではないかと思って怖い」という話がありました。 そういった両方の意見があって、 同時に「管理が大変、 自分の家と緑の間に距離が欲しい」といった意見がありました。

入居者が緑地を管理する
 第一フェーズのこういった結果を受け、 第二フェーズの入居者を迎えるにあたり、 やはり緑地は自分で管理をしてもらわないと、 愛着を持ってもらえないんじゃないかという話になりました。

 「住んでみたらどんどん緑地が増えて落ち葉が多いじゃないか、 どうしてくれるんだ」というようなお話ではなくて、 やはり自分が居住地として緑の多い所を選んで緑の面倒を見ながら暮らすという姿勢を持っていただくことが大事なのではないかと考えたわけです。

 そこで緑地の管理を入居者の方に全くお任せをするということで、 第二回目の5年間の居住実験は実施を始め、 1年半が過ぎました。

意義は認めるが現状は不満
 その第二フェーズの入居者の方にアンケートをした結果があります。 全部で29人の方がいらっしゃいますが、 緑地の意義を多くの方が認めて下さっています。

 ただ、 「緑地がそこにあるということに対して満足ですか」と聞くと、 「大満足」という方が多いのですが、 「今の緑地の現状には満足ですか」と言うと、 軒並み不満が増えて来るんです。 だから緑地の意義は認めていて、 あることは良いのだけれども、 緑地の現状としては「枯れ葉が多い」とか「虫が多い」「繁りすぎている」などで不満があるということになります。

どのように意志決定するのか
 さらに入居者の意志決定は、 みんなでまとめていかないといけないわけです。 一方に「切りたくない」という意見があり、 もう一方には「うっとおしいから切りたい」という意見があって、 それをまとめていかなくてはいけないわけです。

 入居後のアンケートで、 入居者の意志決定に関して、 NEXT 21の中庭について「繁りすぎて入れないので、 人が入れる庭にしたい」が6人、 「現状維持でよい」という人が5人、 「お化け屋敷のようなので、 もう少し美観を整えたい」という人が4人と、 入居者によって意見がばらばらなんです。

 また「いくらくらいまであなたはお金を負担できますか」という質問に対しては、 毎月、 「2000円以下」と答えた人が11人、 「5000円払ってもよい」と答えた人が7人と、 ばらつきがあります。 緑地の管理については入居者によるNEXT 21管理委員会というのがあるんですが、 自由記入欄には「中心人物の意見が総意のように言われているが、 それが総意であるかどうかわからない」という入居者の意見もありました。 このように入居しているのはたった16軒なのですが、 意見をまとめていくということが非常に難しいということがよくわかりました。

自主管理の可能性として
 そして最後にアンケートの項目として、 運営管理における入居者の主体的な参加について、 「管理会社にまかせるのがいいですか」「全部自分たちでやるのがいいですか」「一部を管理会社にまかせるのがいいですか」という三択で答えていただいたのですが、 「全部自分たちでやる」というのが2人、 「全部管理会社」というのが2人、 それから「一部を管理会社にまかせたい」という人が25人でほとんどでした。

 その理由については、 「自分たちで適切に管理できないから、 やはり一部はやってもらおう」という意見が18人なんですが、 「他の入居者の人と接する機会が増えるから一部は自分でやりたい」という人が15人、 「自分たちの住環境は自分たちで管理するのは適切なんだから」という人が15人、 「緑地に接するのが楽しいから」という方が12人。 ですから技術的にいろいろなバックアップがあれば、 色々とやっていきたいと思っておられる方が29人全員ではないけれども、 必ず一部にはいらっしゃるんじゃないかと思っております。

 また、 「自分たちで共同管理するのが難しいのはどこですか」というのは、 圧倒的に中庭と屋上なんですが、 では何人いるかというと、 29人中19人が屋上もエコロジカルガーデンも難しいと答えているわけです。 ところが「自分たちで共同管理した方が良いと思うのはどこですか」という質問に対しては、 屋上もエコロジカルガーデンも14人の人が自分たちで管理した方が良いと答えておられます。

 そうすると難しいと言いながら管理した方が良いと言っている人がいるわけです。 そういう意味で、 技術的なバックアップがあったり、 相談相手がいたりしたならば、 やはりやりたい人はいて、 きちんと管理をしてくれるのではないかというふうに今後に期待しています。

 これは去年のアンケートで入居者が戸惑いの多かった時期のアンケートなんですが、 今年度については非常に積極的に「このままでは駄目だからやろう」という方もいて、 その人が積極的にリーダーシップを持って下さって、 良い管理が行われつつあります。 もちろん「ちょっと調子に乗って切りすぎたね」などという場合もあるんですが、 暗中模索の状況からいろんな状況を試していく試行錯誤の状況に変わってきていて、 5年後の緑地がどうなっているのか、 私はとても期待しています。


「緑としての建築」について

「緑としての建築」のコンセプトについて
 NEXT 21でこういった居住実験をおこなっている立場から、 今回の「緑としての建築」というお話を聞いて思うところをお話しさせていただきたいと思います。

 私自身はNEXT 21も緑地があることによって、 非常に雰囲気が良くなっている部分があって、 「緑としての建築」のコンセプトには賛同する部分があります。

 緑の親和力とか生命感とか快適性だとか、 そういうものを重視して利用していこうという考え方、 または都市部で生態系を維持して、 多様な生命体を呼び込むことで都市に潤いをもたらそうという考え方、 また住民の住環境への愛着に利用しようという考え方、 また多孔質な都市空間にインフラを緑地として組み込んでおいて、 将来に期する都市空間にしようとか、 周辺の環境を収奪せずに持続的に更新していく都市空間にしようといった考え方は賛同できる考え方です。

疑問点として
 ただワーキングに参加しながら、 どういうふうに表現したらよいのか分からなかったのですが、 私の中でどうなのかなと思っている疑問点がずっとありました。

 ・コミュニティの形成に関して
 まずプレセッションで書かれていたコミュニティの形成ということについて。 それを目指してNEXT 21も居住実験をやったんですが、 なかなか難しかったという面があります。 あと一ひねり二ひねりの試行錯誤がないと、 コミュニティの形成にすぐに結びつくわけではないというのが感覚としてあるんです。 むしろ緑が引き起こす虫や枯れ葉の問題をいかにクリアしていくかが、 大きな問題としてあるかもしれないというのがまず一点目です。

 ・緑をもちいる手法について
 それから二点目に、 水と緑と建築とコミュニティというのが有機的に繋がっているところが、 京都の特徴であり良いところなんだとプレセッションに書いてあって、 それには賛同しているんですが、 そのやり方として緑の外皮をべたっと引っ付けてしまうということが京都の伝統を守るということになるのかどうかは、 もう少し考えたいと思う部分があります。

 ・都市の多様性について
 また三点目として、 緑をどんどん多くしてしまうことが、 都市の多様性を大切にしていることになるのか、 疑問に思っている部分があります。 いろんなものがあって都市と言えるのであるのならば、 緑ばかりになってしまって都市の多様性はどのようになるのかという部分を、 もう少し考えてもいいのかなと感じています。

誰の価値観で選択するのか
 こういったことを突き詰めていくと、 価値観の選択の話になるかと思うのですが、 「見せたくない建物を緑で隠しましょう」というのがあるとすれば、 多分誰かの価値観でそれを隠すという話があるのだと思うのですが、 ではいったいどういう判断基準で誰の価値観でそういうふうに決めるのかというのが、 非常に難しいと思っています。


「緑としての建築」に望むこと

住む人の価値観を大事にする
 そういった中でこの「緑としての建築」を考えていく上での私の希望として、 まず一点目としては、 そこに住む人を大切にした「緑としての建築」を考えて行けたらと思っています。 たとえ醜い都市になってしまっても、 醜い京都になってしまっても、 やはりそこに三十年四十年住んでいれば、 誰でも都市の記憶というものがあって、 京都という都市に対する記憶は人それぞればらばらで、 色々な価値観があると思うんです。

 ですからある価値観で隠したいものを隠してしまう、 ある価値観で見せたいものを見せるという事に対して、 そこに住む人たちの価値観を大事にできるような「緑としての建築」を目指すことができたらいいなと感じています。

 これに関しては住民の参加ということが不可欠で、 住民が愛着を持つということは、 プレセッションで上野先生も中村先生もおっしゃっておられましたが、 私も感じるところです。

都市の多様性を確保する
 それから二点目の希望としては、 都市の多様性を確保したいという点です。 壁面緑化と緑の外皮のみが全てとはおっしゃっていないとは思うし、 一つの形としてその方向性はあると思うのですが、 「緑の多様性を確保しましょう」と言いながら、 「3階以上は壁面緑化でいいのではないか」とおっしゃっておられるのであれば、 ちょっと矛盾しないかと思います。

 緑も私はプランターよりも人工土壌の方が良いと思っていますけれども、 プランターもあるし、 人工土壌もあるし、 壁面緑化もあるし、 隙間からのぞいている雑草もあるという多様性に、 都市の多様性と通じる面白さがあるのではないかと思っています。

 ヒートアイランド現象に関しても、 別に屋上緑化にしなくても、 瓦の屋根にすれば抑制されるということは、 実験の結果からも明らかです。

緑を緑をして愛するということ
 三点目にずっと疑問に思っていたのですが、 「緑としての建築」というネーミングについてなんですが、 緑というのが建築なのか、 建築が緑なのかというところで、 建築を緑にすり替えようとしているのか、 建築を緑と共存させようとしているのかが、 最後までわからない部分でした。

 もし建築を緑にすり替えてしまった場合に、 緑の使い方がかなり道具的な感じがするんです。 植栽とか樹木というのは、 元々日本人は道具的に使ってきたわけなんですが、 緑を使って隠してしまおうというのは、 ちょっと緑が道具的に使われ過ぎている気もします。 もしそうなった場合に、 周囲の人は緑を緑として愛せるのだろうかということです。

 建築が建築として愛されて、 樹木が樹木として愛されて、 そういう関係があるなかで、 住環境に愛着を持っているということは、 今までの状況であったと思うんですが、 緑を建築とすり替えて、 べたっと壁に這っている緑を、 緑地とか樹木として、 人は愛着を持って愛することができるか、 というところが疑問点として感じる部分です。

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