NEXT 21 居住実験
加茂みどり
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これが5階の住戸のすぐ隣です。 この辺りは5階ですがプランターではなく土いれてある部分があって木が生えていいます。 このあたりはこの住戸の方が非常に手間を掛けておられる空間です。
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これは3階ですが、 子ども達が三輪車でくるくるまわる遊び場になっています。 緑が多くて、 奥様方の立ち話なども結構多い場所です。
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これは子供が遊んでいるところです。 4階の写真です。 やはりプランターではなくて、 土から木が生えています。 プランターか人工土壌かという話がありますが、 私はやはりプランターではなく、 人工ではあっても土壌から木が生えているということには、 少なからぬ意味があると思っています。 その理由については自分でもはっきりとは言えないんですが、 ちょっと雰囲気が違うんじゃないかと思います。
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これは同じ場所ですが、 この子の家の玄関の前でお母さんが出てくるのを待っている間に葉っぱで遊んでいるところです。
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これは3階です。 3階の共用廊下をぐるぐるまわって、 全く道路に出ずに自転車に乗れるようになっています。 その横にはやはり植栽があります。
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先ほど写真で出てきた5階部分です。 そこは奥様方の立ち話と子ども達がたまる場所になっています。 近隣(住棟内の人ですけれども)の人たちが集まってくる場所です。
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これは先ほどの第一号の巣が出来た場所を下から見たところです。
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これはNEXT 21の観察をしてくださっていた野鳥の会の方が、 写真に撮られた巣立ちの直後の雛の写真です。
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これも野鳥の会の方が撮られたのですが、 小鷺だと思います。
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メジロが来たところです。
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オオルリがやはりNEXT 21にやって来ています。
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昆虫類は数十種類、 エコロジカルガーデンにやってきました。 ちなみにかなりの生物がやってきてくれて、 かなりの植物が育っていますが、 これは大阪の環状線の中にある都心部のマンションであることを申し添えたいと思います。
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こういった緑地が熱画像で撮った時にどういう効果があるかを、 サーモビュアで撮った写真です。 まずこれは可視光線で撮った写真です。
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これが8月の真っ昼間の写真です。 NEXT 21はステンレスのパネルで外壁が出来ていますので、 非常に熱くなっています。 加えて瓦の屋根もものすごく熱くなっています。 またコンクリートの壁もある程度高い温度になっています。 温度スケールを見ていただきますと、 一番高い温度は白い部分、 次に高い温度が赤い部分、 次が黄色、 緑、 青で、 一番低い温度のところが黒い部分となっています。 黒い部分は植栽の辺りで、 8月12日午後3時26分ですけれども、 低い温度であるということがわかっていただけるかと思います。 夜の写真がありますので、 次を見ていただきたいと思います。
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まわりの建物の瓦の屋根は全く蓄熱せずに、 真夏の同じ日の夜の8時には、 このくらいの低い温度にきちんと下がっています。 NEXT 21のステンレスのパネルもまた、 熱容量は低いので、 瓦の屋根と同じくある程度低い温度に下がっています。 一方NEXT 21でもコンクリートがむき出しになっている所は一晩中熱いということが言えます。 そして向かいのコンクリートのビルも夜中も温度が変わりません。 夏が始まったら終わるまで、 ずっと温度が高いというのが、 ヒートアイランド現象の原因だと言われています。 夜になって、 温度が下がるべき時に、 きちんと温度が下がらないのがよくないそうです。 瓦の屋根は、 昼間に高い温度になっても、 夜になったら熱を大気中に放熱し、 ちゃんと温度が下がり、 自然の温度状況に反する状態にはならないようです。 ですからもし仮にヒートアイランド現象を抑制するという方向の努力をするならば、 やはり瓦の屋根であるとかグリーンなどをそのまちの表面に出していくということが、 非常に有効だということが、 この写真からわかっていただけると思います。
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NEXT21居住者達の感想 |
その中で一番大きな特徴として挙げられるのは、 賛成派と反対派に分かれるということではなくて、 全ての人が賛成の意見と反対の意見の両方を持っているということでした。 二律背反が同じ人の中で起こっているということがわかったのです。
「緑地は子供にも良いし、 お花が咲いてると良いし、 虫も寄ってくるし、 良いな」という思いと、 「落ち葉がいやだな、 枯れ葉がいやだな、 死角が多くて不審者がいるのではないかと思って怖い」という話がありました。 そういった両方の意見があって、 同時に「管理が大変、 自分の家と緑の間に距離が欲しい」といった意見がありました。
「住んでみたらどんどん緑地が増えて落ち葉が多いじゃないか、 どうしてくれるんだ」というようなお話ではなくて、 やはり自分が居住地として緑の多い所を選んで緑の面倒を見ながら暮らすという姿勢を持っていただくことが大事なのではないかと考えたわけです。
そこで緑地の管理を入居者の方に全くお任せをするということで、 第二回目の5年間の居住実験は実施を始め、 1年半が過ぎました。
ただ、 「緑地がそこにあるということに対して満足ですか」と聞くと、 「大満足」という方が多いのですが、 「今の緑地の現状には満足ですか」と言うと、 軒並み不満が増えて来るんです。 だから緑地の意義は認めていて、 あることは良いのだけれども、 緑地の現状としては「枯れ葉が多い」とか「虫が多い」「繁りすぎている」などで不満があるということになります。
入居後のアンケートで、 入居者の意志決定に関して、 NEXT 21の中庭について「繁りすぎて入れないので、 人が入れる庭にしたい」が6人、 「現状維持でよい」という人が5人、 「お化け屋敷のようなので、 もう少し美観を整えたい」という人が4人と、 入居者によって意見がばらばらなんです。
また「いくらくらいまであなたはお金を負担できますか」という質問に対しては、 毎月、 「2000円以下」と答えた人が11人、 「5000円払ってもよい」と答えた人が7人と、 ばらつきがあります。 緑地の管理については入居者によるNEXT 21管理委員会というのがあるんですが、 自由記入欄には「中心人物の意見が総意のように言われているが、 それが総意であるかどうかわからない」という入居者の意見もありました。 このように入居しているのはたった16軒なのですが、 意見をまとめていくということが非常に難しいということがよくわかりました。
その理由については、 「自分たちで適切に管理できないから、 やはり一部はやってもらおう」という意見が18人なんですが、 「他の入居者の人と接する機会が増えるから一部は自分でやりたい」という人が15人、 「自分たちの住環境は自分たちで管理するのは適切なんだから」という人が15人、 「緑地に接するのが楽しいから」という方が12人。 ですから技術的にいろいろなバックアップがあれば、 色々とやっていきたいと思っておられる方が29人全員ではないけれども、 必ず一部にはいらっしゃるんじゃないかと思っております。
また、 「自分たちで共同管理するのが難しいのはどこですか」というのは、 圧倒的に中庭と屋上なんですが、 では何人いるかというと、 29人中19人が屋上もエコロジカルガーデンも難しいと答えているわけです。 ところが「自分たちで共同管理した方が良いと思うのはどこですか」という質問に対しては、 屋上もエコロジカルガーデンも14人の人が自分たちで管理した方が良いと答えておられます。
そうすると難しいと言いながら管理した方が良いと言っている人がいるわけです。 そういう意味で、 技術的なバックアップがあったり、 相談相手がいたりしたならば、 やはりやりたい人はいて、 きちんと管理をしてくれるのではないかというふうに今後に期待しています。
これは去年のアンケートで入居者が戸惑いの多かった時期のアンケートなんですが、 今年度については非常に積極的に「このままでは駄目だからやろう」という方もいて、 その人が積極的にリーダーシップを持って下さって、 良い管理が行われつつあります。 もちろん「ちょっと調子に乗って切りすぎたね」などという場合もあるんですが、 暗中模索の状況からいろんな状況を試していく試行錯誤の状況に変わってきていて、 5年後の緑地がどうなっているのか、 私はとても期待しています。
私自身はNEXT 21も緑地があることによって、 非常に雰囲気が良くなっている部分があって、 「緑としての建築」のコンセプトには賛同する部分があります。
緑の親和力とか生命感とか快適性だとか、 そういうものを重視して利用していこうという考え方、 または都市部で生態系を維持して、 多様な生命体を呼び込むことで都市に潤いをもたらそうという考え方、 また住民の住環境への愛着に利用しようという考え方、 また多孔質な都市空間にインフラを緑地として組み込んでおいて、 将来に期する都市空間にしようとか、 周辺の環境を収奪せずに持続的に更新していく都市空間にしようといった考え方は賛同できる考え方です。
・コミュニティの形成に関して
・緑をもちいる手法について
・都市の多様性について
ですからある価値観で隠したいものを隠してしまう、 ある価値観で見せたいものを見せるという事に対して、 そこに住む人たちの価値観を大事にできるような「緑としての建築」を目指すことができたらいいなと感じています。
これに関しては住民の参加ということが不可欠で、 住民が愛着を持つということは、 プレセッションで上野先生も中村先生もおっしゃっておられましたが、 私も感じるところです。
緑も私はプランターよりも人工土壌の方が良いと思っていますけれども、 プランターもあるし、 人工土壌もあるし、 壁面緑化もあるし、 隙間からのぞいている雑草もあるという多様性に、 都市の多様性と通じる面白さがあるのではないかと思っています。
ヒートアイランド現象に関しても、 別に屋上緑化にしなくても、 瓦の屋根にすれば抑制されるということは、 実験の結果からも明らかです。
もし建築を緑にすり替えてしまった場合に、 緑の使い方がかなり道具的な感じがするんです。 植栽とか樹木というのは、 元々日本人は道具的に使ってきたわけなんですが、 緑を使って隠してしまおうというのは、 ちょっと緑が道具的に使われ過ぎている気もします。 もしそうなった場合に、 周囲の人は緑を緑として愛せるのだろうかということです。
建築が建築として愛されて、 樹木が樹木として愛されて、 そういう関係があるなかで、 住環境に愛着を持っているということは、 今までの状況であったと思うんですが、 緑を建築とすり替えて、 べたっと壁に這っている緑を、 緑地とか樹木として、 人は愛着を持って愛することができるか、 というところが疑問点として感じる部分です。
「緑としての建築」について
「緑としての建築」のコンセプトについて
NEXT 21でこういった居住実験をおこなっている立場から、 今回の「緑としての建築」というお話を聞いて思うところをお話しさせていただきたいと思います。疑問点として
ただワーキングに参加しながら、 どういうふうに表現したらよいのか分からなかったのですが、 私の中でどうなのかなと思っている疑問点がずっとありました。
まずプレセッションで書かれていたコミュニティの形成ということについて。 それを目指してNEXT 21も居住実験をやったんですが、 なかなか難しかったという面があります。 あと一ひねり二ひねりの試行錯誤がないと、 コミュニティの形成にすぐに結びつくわけではないというのが感覚としてあるんです。 むしろ緑が引き起こす虫や枯れ葉の問題をいかにクリアしていくかが、 大きな問題としてあるかもしれないというのがまず一点目です。
それから二点目に、 水と緑と建築とコミュニティというのが有機的に繋がっているところが、 京都の特徴であり良いところなんだとプレセッションに書いてあって、 それには賛同しているんですが、 そのやり方として緑の外皮をべたっと引っ付けてしまうということが京都の伝統を守るということになるのかどうかは、 もう少し考えたいと思う部分があります。
また三点目として、 緑をどんどん多くしてしまうことが、 都市の多様性を大切にしていることになるのか、 疑問に思っている部分があります。 いろんなものがあって都市と言えるのであるのならば、 緑ばかりになってしまって都市の多様性はどのようになるのかという部分を、 もう少し考えてもいいのかなと感じています。誰の価値観で選択するのか
こういったことを突き詰めていくと、 価値観の選択の話になるかと思うのですが、 「見せたくない建物を緑で隠しましょう」というのがあるとすれば、 多分誰かの価値観でそれを隠すという話があるのだと思うのですが、 ではいったいどういう判断基準で誰の価値観でそういうふうに決めるのかというのが、 非常に難しいと思っています。
「緑としての建築」に望むこと
住む人の価値観を大事にする
そういった中でこの「緑としての建築」を考えていく上での私の希望として、 まず一点目としては、 そこに住む人を大切にした「緑としての建築」を考えて行けたらと思っています。 たとえ醜い都市になってしまっても、 醜い京都になってしまっても、 やはりそこに三十年四十年住んでいれば、 誰でも都市の記憶というものがあって、 京都という都市に対する記憶は人それぞればらばらで、 色々な価値観があると思うんです。都市の多様性を確保する
それから二点目の希望としては、 都市の多様性を確保したいという点です。 壁面緑化と緑の外皮のみが全てとはおっしゃっていないとは思うし、 一つの形としてその方向性はあると思うのですが、 「緑の多様性を確保しましょう」と言いながら、 「3階以上は壁面緑化でいいのではないか」とおっしゃっておられるのであれば、 ちょっと矛盾しないかと思います。緑を緑をして愛するということ
三点目にずっと疑問に思っていたのですが、 「緑としての建築」というネーミングについてなんですが、 緑というのが建築なのか、 建築が緑なのかというところで、 建築を緑にすり替えようとしているのか、 建築を緑と共存させようとしているのかが、 最後までわからない部分でした。
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