環境構造としての空地空間を創造する
江川直樹
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これも違うアングルから撮ったものです。 放って置いたら全部こういうふうなボリュームになってしまうんです。 今この辺りで、 これと同じ様なボリュームの建物が出来てしまうということで、 大問題になっています。 僕自身は、 できるだけ小さなボリュームで隙間のいっぱいある建物をつくることが、 まち全体の環境を共有するためにいいと思っています。 ただ単にこの辺に住んでいる人だけの問題ではなく、 広く市民全体が共有できる考え方を持つようになるために、 緑としての建築という概念が有効に働いてくれれば、 非常に有り難いことだと思っています。 もう一つは、 セットバックするからこういうものが建つということがあります。 これをぎりぎりに建てると、 こんなに高いものは建てられません。 だから400%つくろうとすると、 道路側からセットバックして、 大きいものが建ってしまうわけです。 そうするとこのヒューマンな幅員の道路空間が持っていたまちの界隈性だとか空間性が、 全部途切れてしまうということになってしまうわけです。 僕たちは「ここの中にできる隙間はここの人達だけのものではなく、 まち全体のものである」と言いたいと思います。 あえて言えば隙間は公共のものであるという概念を構築すべきではないかと。 それは先ほどの緑の話も同じであるし、 田瀬さんの絵にあった水の話も、 もしかしたら同じ様なことになるかもしれません。 ああいう構造をこの中に内化しようとすると、 このようなマスボリュームの建物では苦しいということです。
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あるいは積極的に隙間だとかセットバックで出来てくる屋上庭園を、 緑化空間とすることによって、 それも建ぺい率のカウントしてもらうとか、 そういう空間だとか隙間だとか連担する空地だとかの社会的な意味を、 みんなが共有するということを、 緑としての建築側からもう少し違った視点も含めて後押ししていただくと、 環境の総体が良くなるのではないかと思います。
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地元の人たちは高さを低くしてほしいと言ったわけです。 それではと6階程度の建物にするとこんな形になります。 たまたま真南に壁状の建物があり、 南面の光はおおよそ期待できないという構造になっていますから、 西と東の両面採光で一般的なマンションのボリュームでつくることになります。 先ほどのものはこれが31mまで2棟で建っていたということです。
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最近の一般的な集合住宅は、 奥行きがとても長くて間口が非常に狭いという特徴があります。 狭い間口に対して、 表面で日照と採光をとって、 その中に四つ程度の部屋をとって、 あるいは水まわりも完全に外気に面さない形で内部に取り込まれている場合がほとんどです。 それは確かに効率的ですし、 機械で冷暖房をコントロールしようと思うと、 より閉じた形の方がコントロールしやすいと言えます。
しかし、 先ほど見ていただいておわかりのように、 まちのスケールと全然違ったものになってしまいます。 周囲の個別更新している建物のボリュームに対して、 あまりにも巨大であると思うわけです。 それで、 何とか個別更新していく場合のスケールで、 これと同じくらいの容積率の建物ができないだろうかと思ったわけです。
もう一つは、 今、 建築に求められていることとして、 将来、 建物内部をいろんな用途に変えられるようにスケルトン・インフィルでつくり、 100年はもつような住宅をつくろうという課題があります。 ここでも、 どうせやるんだからそういうスケルトン・インフィル型の、 多用途に対応でき、 将来の可変性にも対応できる100年住宅をつくってほしいという要望も一方ではありました。
その要望に応えるためには奥行きの長い、 しかも間口の狭い建物は、 非常にやりにくい構造です。 つまり一つ一つの住戸の内部でいろんな事をやれるようにするためには、 たとえば、 パイプスペースをどうするんだとか、 奥行きの長い中で配管を自由にするには階高をたくさんとって、 床の懐をたくさんとらなければいけないといった問題が出てきます。 あるいは内部の空間を使いまわす時に、 非常に小さいファサードが、 その可能性の芽をかなり苦しくしているというような問題もあります。
それからもう一つは、 まち全体がいろんな意味で更新していく時に、 こういう箱状のものはまちの更新にとって、 スケルトンにならないのではないかと考えたわけです。 さきほど田瀬さんの絵に、 駐車場をとってしまったという話がありましたが、 実は私もそういうことを考えていました。 駐車場など100年先にどうなるかわからないから、 駐車場がなくてもいいような構造にしたいと提案しました。 田瀬さんと打ち合わせたわけではないのですが、 同じように私も思っています。
ですからここでは地下に駐車場をつくらなかったんです。 このまわりには非常に華奢な木造の建物がたくさんあります。 ですから工事が大変であることを考えても、 地上に駐車場をつくって、 将来その駐車場がなくなった時にも、 その空間を使い回しできるようにしようと考えました。
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この絵が一番最初に提案したものですが、 今のものと基本的な考え方は同じです。 だいたいこのくらいの薄い奥行きで、 厚みは四間で7.6mとしました。 八畳が二つあるくらいの厚みです。 だいたいそれくらいのものが一般的なまちの住宅の奥行きになりますので、 それくらいのスケールで構成すべきなのではないかと考えました。 そこに隙間をとると住宅として成り立つのではないかと考え、 こういう形を地元の方にお見せしました。
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ここではスケルトン・インフィル型にするため、 ラーメンとスラブだけで出来ており、 ファサードは全部サッシです。 基本的には全部取り替えられるものであるという提案をしました。 そして全体はガラス質のものでできていて、 夜になると光を発生したり、 プライバシーを守りながらも豊かな光や通風を上手に取り入れたいということで、 当初考えたのはバルコニーはなく、 全部ルーバー状の建物にできないかということでした。 また4階の屋上は先ほどの田瀬さんの望楼のように、 まちの人に開放することを考えていました。 建て詰まってしまって、 山並みや屋根並みを一般の人が見られる場所が非常に少なくなっていますので、 逆にそういう低層の町並みの良さをまちの人に知って貰うことが重要なことだということで提案していました。 この時は北側の方から反対を受けました。 北側の向かいに空き地があるのですが、 隣接した方がお持ちの土地で、 近々ここに建物を建てる予定があるけれども、 目の前に4階の建物が来るのはつらいというお話でした。 実は隙間があるということは、 箱形に建っているものに比べると、 色んな意味で圧迫感はないんですが、 やはり高いということに関する抵抗感があって、 まわりには付き合っているけれども、 北側に対して付き合ってくれていないという議論がありました。
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それでだんだん高さが落ちてきます。 高さが落ちてくると、 容積率を稼がなければいけませんから、 ペントハウスのようなものを少しつくらせて下さいなど、 いろんな事を言っています。 この時は北側は4階建で、 5階・6階・7階・8階という形になっています。 隣の南側の建物よりは低くして欲しいという議論もありました。
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写真では北側部分はまだ全部4階になっています。 最終的には一部3階まで落ちてきます。 そうすることで、 一年を通しての日照の影響をチェックしていきますと、 ほとんど後ろの人に影の影響がないという結果が得られました。
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こんな提案もしました。 地域の人の意見は、 落ち着いた京都には、 しかも住宅地には、 こういう奇抜(という表現でしたが)な形態よりも周りの建物に付き合った形態のほうが良いというお話でした。
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最終的に北側は一部3階にまで落ちました。 屋上のテラスは、 半分がプライベートなテラスとし、 半分はパブリックなテラスにしています。 菜園用のテラスは、 納まりを考えても全部土を入れてしまったほうが楽なんです。 ですから結果的には上野さんのお話のように全部土が入っていまして、 そこに離れのようなものをつくっています。
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最終的にこういう形になりました。 いかに周りの建物と同じような集積でできているかがわかっていただけるのではないかと思います。 必然的に緑の建築として使える部分もできてきているという事になったのではないかと思います。
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隙間が多い建物は外壁率が高い |
外壁のファイバーグレーチングにしても、 単価の高いものですから、 伊達や酔狂で使える材料ではないわけです。 ですから一般的に経済的な建物ではなかなか使ってもらえません。 さらにこの建物は400%が建つ所に260〜70%くらいの容積率で建っています。 賃貸住宅ですので、 実はさらにいろんな仕掛けがしてありますが、 基本的にはこの容積を何とか確保しなければなりません。
駐車場の壁面は、 もともと緑の蔦を這わすことを考えていましたが、 提案のようにここに全てプランターをつけて灌水設備を整えてといようなところまでは出来ませんでした。 メッシュを張るだけでも相当なコストがかかります。 2階の人工地盤に緑の屋上をつくり、 そこから緑が上に伸びてくれるような、 できるだけ手間をかけなくても時間が解決してくれるようなことを考えてみました。
普通にやれば一年間に1mくらいしか蔦は伸びないかもしれませんが、 どうなることかと思います。
さらに空中の廊下を渡った離れをつくり、 ソーホーのようなつくりもできるし、 和室にも使えるようにしています。 またテラスは緑化するという方向で、 当初から考えていました。
2400の天井の高さの全面がサッシになっています。 隙間の中の、 近くに対面する所は、 だいたい目線の範囲は不透明なガラスになっていて、 足元と上の所は透明なガラスとなっています。 手すりの腰部分も、 アルミのパンチングメタルのようなものとし、 光をできるだけ下の方まで入れながらお互いの相隣関係を守れ、 なおかつ風通しがいいとか気配があるもので全体を構成するようにしています。
3・4階レベルからの光は抑えて、 道から見て上空は暗い感じにするという工夫をし、 日中は、 差し込む光だとか陰で室内外ともに自然と応答できるというコンセプトでつくっています。 ですからその要素が全て緑で覆われてしまうのは趣旨ではなく、 この部分については緑化はしていません。
ファイバーグレーチングの中のバルコニー状のところは、 むしろインテリアとしての緑の欲求が、 ここではかなりありましたので(住みたいという人のワークショップをやりました)、 そういう緑がはみ出していくくらいのものであればいいのではないかと理解をしています。
プランターなどは自由に置けるような構造になっていますし、 手すりなどにプランターが置けるようにするという上野提案に対しては、 むしろプランターのようなものが置けない構造にはしないというふうに我々は解釈しました。 まちの造園屋さんやホームセンターに行きますと、 結構気楽に使えるプランターなどがありますので、 そういうものを買ってくればひょいと掛ける事ができ、 いくらでも使える構造にしておくという発想です。
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パーキングタワーは将来ここの住まい方がどうなるかわかりませんし、 車との付き合い方が100年後どうなるかわかりませんので、 すぽっと取ることができます。 ただしコンクリートのフレームは残ります。 しかしここに耐力をもたせるという考え方はしていません。
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駐車場の手前はレンタルスタディルームみたいなものにして、 部屋の中の余剰機能みたいなものに使っていただくとか、 あるいは地域の人にも借りていただくとか、 そんなふうに使えるように考えています。
住宅街区「アルカディア21」 |
それに対してここでは、 一つの街区の真ん中に緑の環境構造、 空地を持った街区を設計しました。
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この真ん中の空地は実はここの住民が持っているんです。 ここに入っている道路はパブリックな道路です。 しかし空地はまわりの21軒の人たちが共有で持っています。 メンテナンスも自分たちでしています。
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これはパブリックな、 公共の管理する道路です。 道路の中に、 中木も立っています。
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木の影が美しくうつるように、 道路の舗装と擁壁が一体になるようにしています(今日の話とは直接関係はありませんけれども)。
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この路地も、 パブリックな公共の道路です。
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共有公園 |
その時「我々で管理するかわりに、 何とか少しは支援してもらえないか。 これだけのものが建物が建っていなくて、 緑も自分たちで管理しているわけだから、 なんとか支援して貰ってもいいのではないか」とお願いしたところ、 この部分は固定資産税を減免して貰うことになりました。
当初はちょっとだけ減免してくれたんですが、 数年経つとこのあんこの公園の緑地の効果が、 結構まちにとって大きいということがわかってきたんです。 それで行政側も柔軟に対応してくれ、 今ではこの土地に対する固定資産税はかなり安くなっています。 もちろん、 この緑は住民がメンテナンスをしています。 お金を最初に少し積み、 業者にやって貰う所と自分たちでやる所を使い分けてやっています。
公園のベンチ |
公園の看板 |
今一般的に屋上緑化を増進しましょうと言っています。 言っていますけれども、 屋上緑化をすると容積率をおまけしてあげますといったことも建設省は言っているわけです。 しかし先ほどの31mで400%のようなところを屋上緑化して、 容積率をさらに貰ったら、 まちにとっていったいどういうことになるのかということです。 逆の発想が必要なのではないかというのが、 私のコメントであります。