古の中のアヴァンギャルディズム
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東大橋家住宅活用に関する提案

 

 2002年7月6?7日、 岡山県倉敷市にて、 「古の中のアヴァンギャルディズム?NEXT ONE倉敷?」をテーマに、 都市環境デザイン会議中国・関西ブロック合同セミナーが行われた。 歴史的資産のありようについて意見交換するともに、 特に美観地区入口にある東大橋家住宅の利用について検討し、 出席者25人から提案をいただいた。 この冊子は、 それらをまとめたものである。 東大橋家住宅の活用に生かしていただければ幸いです。


伊藤 幹郎
出雲市役所

1 東大橋家について
 位置づけ:(1)伝建地区入口の重要な建物(entrance)

      (2)北側商店街との連携上重要な建物(connection)

      (3)住民と観光客をはじめとする人々の交流の場(communication)

 提  案:「国際交流ビジターセンター」の提案

 (1)「長屋門」「蔵」の外観保存……「ワンコインビジターセンター」

 ・美観地区、 伝建地区を訪れる人々に百円を入れれば自由に情報を得ることが出来る(パンフレットやパソコンによる情報提供)ようなシステムとし、 収入を情報提供のための支出に当てる。

 (2)「母屋」……この建物の活用は難しい
 ・むしろ市内にある歴史的建物をここへ移築し、 コミュニティ活用を含め再生を計ることがよいと思う。 「歴史的建物移築再生活用」

 (3)「広場(庭)」……文化交流、 特に「国際交流広場」として整備
 ・活用は国際交流協会や各種団体に定期的イベントをプロデュースしてもらう。

2 阿智神社周辺整備活用
位置づけ

 (1)伝建地区等を俯瞰できる唯一のビューポイント
 (2)屋並みが見渡せるロケーションとしては観光客には分かりにくい

整備方向

 (1)街並みを見渡せる公園として、 樹木やビュースポット(ひろば)の整備
 (2)さりげない「サイン」の整備
 (3)参道の石段から美観地区を見たときに電線・電柱が気になる。 特に、 一本だけどうにかならないかと思う電柱がある。 電線の地中化が理想的であるが、 少なくとも修景柱とし、 電線も集約してほしい。


岩田 正晴

 ○東大橋家の現状から
 ・邸宅は古民家再生が可能であれば一部再生し、 蔵を生かした空間を生かす。 中央部はオープンスペースとする。

 ○周辺状況
 ・東大橋家の機能を考えるとき、 周辺のギャラリー、 食事処等の民間の施設状況は十分把握する。 つまり市の事業の場合、 民間でできないことを考える。

 ○利用の方向と機能=「ぶらりと歩くまちの情報拠点」

 ・美観地区の入口としての情報発信、 来訪者への観光情報はもちろん、 市民に対して芸術・文化の情報発信を行う。 行政情報だけでなく、 旧倉敷及び市全体の文化情報を様々なIT技術を採用して提供する。

 ・上記等の内容を検討する手段として、 民間の意見収集機構、 行政内の意見収集機構の両者のすり合わせを行う。

 ・「もてなし空間」=このコンセプトから、 事業コンペのPFI事業手法を用い、 民間資金により事業(運営、 維持管理)を行うことを検討する。 行政の知恵と民間の知恵を出し合う方法を!!


大賀 悦子

 美観地区で自営(吉備団子、 土産物)をやっています。 景観とか古民家に興味があり参加させていただきました。 大橋家がどのように利用されるか、 中の様子はどうなのか楽しい見学でした。

 ・門構え、 まわりの塀は立派でしたが、 中の住宅は少しがっかりでした。 周囲の蔵はどれも素晴らしいと思いましたので是非残してほしい。

 ・倉敷と言えばなまこ壁ですが、 板張りの蔵もまたいいなあと思います。 白壁には少々飽きています。

 ・美観地区は行政により守られていますが、 そこで自営しているものとして、 よりよい状態とするよう自覚しなければいけないと思いました。

 ・大橋家がどのように利用されるのか、 未定なのでしょうか。 これ以上商業施設が増加するのは困ります。 駅から近い、 バスの便も良い、 高齢者がより増加することを考えると公共施設をつくってくださるといいなあ(6?8畳ほどの和室があって、 お稽古ごとができるような場所、 小ホール、 子供達が集まって何かできる室等々)。

 ・駅近くの商店街の空洞化が言われて久しいですが、 明治、 大正より繁華街は移動(東町、 西町→阿智)していると思います。 こだわりを持たず、 変わっていっても良いのではないかと思うのですが……。


太田 瞬介

 今日、 古い家や神社を見て歩いて、 大切にすべきものだと思った。 何度もつくり直したりしていくうちに、 また新たなすばらしさが加わっていくのが素晴らしいと思った。 つくりかた、 建て直し方にも、 色々な方法があることを知り、 勉強になった。


沖 三郎

 初めての参加ですが、 機会があれば是非次回も参加したい。 「なまこ壁」で景観がかなり違ってみえますネ。


小野 智之

 倉敷に生まれ、 20年ほど前に鶴形山から街並みを眺めた。 そして美しさを知った。 それは浦辺鎮太郎氏の建築であり、 民家の美は「民芸」であることだった。 それ以降、 倉敷を知り、 語ることが終生のテーマとなった。

 倉敷市街地の課題は20年前と変わっていない。 箱庭観光からの脱却、 この一語につきる。 美観地区を制定したため、 周辺格差が広がった。 大原遺産が偉大すぎたために、 皆それに頼った。 場所と心の両面での格差を縮める努力が今も変わらず求められているのである。

 東大橋家が公共の財産となった喜びを次のアイデアで示したい。

 (1)市の迎賓館とされたい。 倉敷を訪れる客を常時宿泊滞在させる場としたい。 公賓から観光まで、 外国人に特定した方がよいかもしれない。 県の国際交流ビラの倉敷版である。

 (2)ここに銭湯を設ける。 誰でも利用できる公衆浴場での国際交流はインパクトがある。 「大橋湯」で肌の色が違う人々のくつろぐ笑顔が見たい。

 (3)水路を復元する。 かつてあった新川を復元する。 前神川の上流を西へ伸ばし、 交差点まで結ぶ。 ここまでは同意があればたやすい。 東大橋家の景観は、 手前に水路があってこそ映えるものである。

 (4)路地を生かす。 東大橋家の西は倉敷で最も美しい「奈良萬路地」である。 そして東は大原家、 岡田家の路地に通じている。 この路地環境を生かして、 かつての昔私用化された路地をオープンにして歩いてまわれるエリアを増やしたい。 美しい路地からさらに別の路地に抜ける。 旅先の忘れがたい体験であろう。

 (5)国際交流ビラとしたとき、 地元民がボランティアも含め担当したい。

 以上が本宅を拝見し、 助役の言葉を伺いながら思いついたことである。 主屋は壊す必要はないと思う。 ここに生きた人々のことを残す意味でも尊重したい。 図を添付した。 なお、 古い私の文章から路地と銭湯に関する二丈を添えてある。 路地案内と銭湯巡りを体験されたい方があれば喜んでお誘いしたい。


加藤 源
日本都市総合研究所

1 東大橋家の利用について
 ○利用方法、 改修、 運営・管理に民間の知恵、 資金を活かすことを基本にする。 公(市)は、 方針を明らかにする、 民間の知恵・資金を活用する際に枠組みを決めていくことに徹する。

 ○具体的には以下の2方法

 (1)公設民営方式
  修復は市、 利用方法は市+民で決める、 管理・運営は民の図式。

 (2)PFI方式
  修復、 管理・運営とも一定期間、 民に任せる。 コストはPFI方式で市から割付支出。 PFI事業者の選定に際して、 市の意向、 考えを要綱にまとめる。 事業者が応募しやすい条件も忘れずに。

 ○利用方法
 ・集客性の高い機能、 殊に夜間の利用を促進できる機能とすることが第一
 ・若い人をターゲットに 
 ・CATVのサテライトスタジオ、 市内各種団体の練習場、 集会場

2 土地利用、 建物の利用の維持、 夜間人口の流出抑止
 倉敷には、 古くからの建物が数多く残っている。 これは、 他の伝建地区に比しても際だっている。 また、 店舗、 飲食店についても必ずしも観光客だけを相手としたものではなく、 地元の人に向けたものも多い。 私たちが訪ねた料理屋、 そば屋、 地酒屋のいずれもがこのような類のものであり、 大変に好感が持て、 本物を味わえた。

 しかしながら、 そう言った店舗、 飲食店は必ずしも多くなく、 多くは観光客相手の安いおみやげを売る店、 雑貨屋の類で、 こういった店が増えつつあるように見受けられる。 これは他からの資本が古くからの民家を買収あるいは借り受けているものであろう。 また、 この背景には、 古くからの民家の所有者が、 固定資産税、 相続税等を払えなくなっていることもあるだろう。 このことが居住者、 夜間人口の他への流出にもつながっているだろう。

 他の伝建地区のように、 観光客向けの雑多な地区にならないように、 現在の土地利用、 建物利用、 夜間人口を維持して行くために、 社会・経済面での支援を充実して行くことが、 また市民の力を結集していくことが必要になるのではないか。 あるいは、 倉敷の民家の所有者は豊かな人が多く、 このような心配はいらないのであろうか。 大橋家はどうなんだろう。


金谷 啓紀
建築都市デザイン研究所

1 東大橋家の利用法
 敷地が美観地区の北西入り口付近の絶好の場所に位置しているので、 それにあった施設を考える。 地域住民と観光客がともに活用できる施設とする。 母屋は改築を繰り返しているので、 保存する価値はない。 4つの倉を保存し、 それらをぃんくさせた平屋の建物(施設)を計画すべきである。 ただし、 中庭はできるだけ広くとり、 建物内外での利用を考える。 土産物屋等は必要でない。 まちづくりグループ(NPOでもよい)の拠点であり、 地元マスコミのサテライトショップであり、 観光客も集まって、 活動ができる場所とする。 庭でも建物でもどちらもが舞台(ステージ)になれる機能を持たせた施設がほしい。

2 美観地区と倉敷駅あるいは、 チボリ公園までの街のつかわれかた
 駅前古城池霞橋線は整備されているが、 大通りだけが整備されてもあまりひとはあるかない。 裏道がおもしろい。 駅前商店街や廻りの街路をネットして、 空き家や空き地を利用して、 休憩所や、 ポケットパーク、 オープンカフェをつくり、 歩行者の回遊できる街路にする。 看板や、 サインも重要である。 そのためには、 歩行者からみた道路空間の整備計画が緊急に課題である。 山陽本線の倉敷駅付近の高架の構想があるが、 地下の路線にすべきである。 地面を解放し、 その上にも何もない空間ができる。 道路はつながれ、 緑や公園、 公共施設が手にはいる。

 コストは昔と比べてずっと安くなっている。 費用対効果を考えると、 それに長期的な視点に立つと絶対やっていてよかったとなる。 PFI事業として検討されることを提案する。


神庭 慎次
大阪産業大学

 街には「新しいもの」と「古いもの」がある。 僕は生まれてからずっと大阪に住んでいる。 大阪では、 刻々と風景が変わってきている。 巨大な建築物やテーマパークなど「新しいもの」が、 この都市更新の時代に様々な表情を展開している。 しかし、 歴史的に見ると元々その場所は周辺の地域と密接に関係し、 それが巨大建築物、 テーマパークに変わることによって、 その場所は都市から切り取られた、 また自己完結された地域となっているように思える。 それまでのつながりを見ることはできない。 美観地区など統一された外観をもつ地域には、 その家に住む人の意識の中にもつながりが求められるのではないだろうか。

 倉敷の美観地区に限らないかもしれないが、 法令だけでなく、 住民の意識の中にも観光地という位置づけがなされているところが見受けられる。 しかし、 大阪の「新しいもの」と違う点は、 倉敷の「古いもの」の中に「暮らし」が見られる点である。 「暮らし」は人と人をつなげ、 施設と施設をつなげ、 風景と風景をつなげてくれる。 ただ「暮らし」というソフトを「町家」というハードに近づけるのではなく、 「町家」というハードを現代の「暮らし」の中にどう取り込むかと言うことが必要であると感じた。


五百田 定
株式会社都市環境研究所広島事務所

1 東大橋家門前の活用について
 東大橋家住宅は、 美観地区、 伝建地区の入口にあたり、 殊にその長屋門とそれに付属する蔵のファサードは貴重である。 東大橋家以西のアプローチ道は、 伝建地区と異なる幅員となっており、 東大橋家からがまさに伝建地区の入口と言える。 ところが、 東大橋家は、 閉鎖的となっており、 せっかくの長屋門のファサードが通りから隠されている。 敷地内部の活用も必要であるが、 門前を開かれた空間とするだけでも大きなインパクトがある。

2 東大橋家主屋について
 門や蔵に比べ、 主屋が貧弱にみえる。 このままの状態を残しても、 活用は難しいのではないか。 伝建地区であり、 主屋をなくして、 全く違うものを建てるよりは、 隆盛期の主屋を復元できないものか(今の主屋しかなかったのであれば仕方がないが)。 誇れるたたずまいを復元した上で、 倉敷富豪の暮らしの豊かさを感じさせる空間であって欲しい。 これに休憩、 迎賓機能が加わる方向が落ち着く。 伝建地区のインフォメーションセンターは中橋周辺がよいので、 役割分担はきちんとしておきたい。 体験工房(菓子、 木工芸、 アクセサリー、 折り紙細工など)で自分オリジナルな土産づくりも面白い。


坂本万明
倉敷ケーブルテレビ

1 情報収集及び発信機能の整備
 情報の集積し易い立地を生かし、 コミュニティ情報を主にした発信機能を整備して、 地域活性化へ役立てる。 中心市街地であり圧倒的に多い公共施設、 ギャラリー、 文化財施設及び商業施設等が集積しているだけに情報も多く、 各種行事、 イベント、 祭事の発信機能さえ整えば、 その地熱は高い環境にある。 市民が下駄履きで訪れ、 一人一人がものが言える広場にする。 それには、 情報コンテンツの制作工房(インターネットコンテンツ、 映像コンテン制作)も必要で、 情報インフラと共に整備する。

2 施設事業の運営
 自治体の管理から民間の管理へ移管する。 昼夜問わずに民間のスタンスで管理運営する。 「まちづくりネットワーク」の市民NPOの事務局として利活用する。 採算点を追求せず市民が自由に利用できる設備として、 現有の蔵等の回収程度に留めておく。 また、 当面市民が実験的に活用する期間を設ける。

3 倉敷のまちづくりと建築文化
 他都市と比較しても戦災に遭遇せずに江戸時代の建物が存在している倉敷は、 市民生活と観光の両面からこの「遺産」の保存と活用に活性化の活路を見出すことが出来る。 倉敷の地方文化の特色としては、 ある意味で建築文化の在り方を示すことである。 強いては「建築文化」がまちづくりや観光の中心になる。

4 東大橋家の再生
 東大橋家は建築文化の拠点施設、 ハード・ソフトの展示研究施設(コンテンツ製作工房により町屋古民家再生事例、 工法、 環境対策等アーカイブ化し継続的な研究及び情報集積の核)として再生する。


白石 高啓
ゆにて設計事務所

 久しぶりの倉敷は、 アイビーの柔らかいゆらぎが目に親しい!!。 このゆきとどいたアイビーのメンテの良いエル・グレコ、 倉敷アイビースクエアなどから、 そこに住む人々の心意気、 思い入れを強く感じる(我が事務所でも、 アイビー剪定で苦労しているので)。

 最近のキーワード「環境共生」をとっくの昔から試みている先見性が、 サステナブルな環境をもたらしているのであろう。 7月6日?7日、 阿智神社の厳粛な参集殿から始まった2日間のレクチャーから、 倉敷への誇りと愛情豊かな人達とコミュニケートでき、 多くのヒントを得た。

 また、 東大橋家の利用再生計画については、 素晴らしい、 蔵を中心にゆったりとした外部空間を、 まちづくりと情報発信の拠点とし、 とかく都市的人工物に埋め尽くされるデザインからの解放宣言をし、 専門家発想→アマチュア発想によって、 再生プロセスに職人とのワークショップ方式を取り入れて欲しい!!。 そこから新しい伝統の創造がよりパワーをもって誕生するだろう。 それが全国で苦悩する街・町の関係者にも励ましのメッセージになるだろうから・・。 2日間は大変貴重な時間でした。


竹内 郁
(株)都市研究所スペーシア

 倉敷というまち、 および東大橋家の活用方法をビジターの視点で考えた。 ビジターをリピーターにするにはどうすれば良いか。 その人の人生に置いて忘れられないまちとすればよい。

 忘れられない人生の一大事にはいろいろとあるが、 最も華やかで最も多くの人が一度に関わるのが「結婚式」である。 長引く不況の中で、 不況知らずと言われているのが、 結婚産業である。 結婚式・披露宴の費用は平均で360万円(H8三和銀行調べ)と言われ、 また昨年のテロ以来、 青年層の結婚熱は世界的に高まっている。 少々強引な文章となったが、 ようするに東大橋家を結婚式場として蘇らせることを提案したい。

 倉敷Happy Ceremony、 略して倉敷HC。

 具体的な建物利用のイメージは……。

 長屋門(保存、 若干の改築):受付及びクロークとなる。 堂々たる入り口でお客は記帳を済ませ、 荷物を預け期待に胸を弾ませながら入場する。

 日本家屋(立替もしくはリニューアル):披露宴会場となる。 美観地区にふさわしい外観を考慮しつつも使いやすいパーティルーム、 控え室等を検討する。 後述するが料理は周辺のレストランや料亭からのケータリングを主とするため、 配膳等に使いやすい簡単なキッチンが必要となる。

 4つの蔵(保存、 改造):式場となる。 なまこ壁の蔵ならでは重量感をいかし、 「ここなら神がいても不思議はない」と感じるよう、 神秘的な雰囲気に作り上げる。 4つの内の1つくらいは崩れた壁から太陽光が洩れ射す、 退廃的な中に2人に差し込む未来の光・・・というのも一興か。

 周辺地域との連携は……

 【料亭、 レストランとの連携】

 倉敷HCでは、 周辺の料亭・レストラン・ホテル・ケーキ屋・喫茶店など、 ケータリング協力してくれる店舗をリストアップし、 料理内容、 値段など利用客の好みに応じて斡旋する。 年に数回、 仏滅の土日等に、 加盟店が料理を出展し、 倉敷HCだけでなく、 美観地区全体を会場としたパーティ料理大会を開催する。 ブライダルフェアならぬ、 観光客までも巻き込んだ「倉敷ハッピー・サンデーブランチ」の開催である。 また、 引き出物や贈り物なども、 倉敷ならではの品物を紹介する。

 【チボリ公園および駅前商店街との連携】

 結婚式を終えたカップルは、 チボリ公園まで徒歩でパレードをする。 倉敷駅までの600m、 花婿・花嫁を先頭にした盛装の一行は、 まちに華を添えることになる。 ここで肝心なのは商店街側のホスピタリティである。 真っ白なウェディングドレスが汚れないように、 アーケードの清掃をマメに行い、 一行が通過する時には、 恥ずかしがらず「おめでとう!お幸せに!」「お似合いだよ!よっ、 ベストカップル!」ぐらいの声援を送らなければならない。 そしてこのパレードには遠方から来てくれたお客を倉敷駅まで見送るという意味もある。 関係者が回しつづけるビデオにはその様子が永久に保存されるのだ。 Happy Ceremonyの締めくくりは、 チボリ公園でのブーケトス。

 【観光客との連携】

 倉敷には桃太郎伝説、 吉備津彦伝説、 そしてチボリ公園のバイキング伝説など、 数々の伝説がある。 ここに、 「倉敷で花嫁さんを見た人は幸せになれる」という伝説を加える。 こと、 若い女性は占い、 まじない、 伝説の類が大好きで、 東大橋家門前で花嫁さんを見かければ「これで私も幸せに……」と思わず微笑むに違いない。

 利用客ターゲットは……。

 (1)地元市民
 アイビースクエアをはじめとするホテル、 結婚式場、 そしていがらしゆみこ美術館まで、 結婚式場は倉敷市内にも数多く存在する。 これらと競合できるようなユニークな企画を持って、 地元市民にPRする。

 (2)岡山・倉敷OBOG
 倉敷には倉敷芸術科学大学、 くらしき作陽大学が、 そして岡山県まで広げれば、 岡山大学および岡山県立大学など11の大学がある。 学生たちは青春時代をここで過ごし、 きっと倉敷に一度や二度、 デートで訪れているに違いない。 卒業生を対象に、 就職・進学等でこの地を離れても、 幾年かを経て、 ゴールインの暁には想い出の土地、 倉敷で、 懐かしい仲間に囲まれて、 結婚式をあげませんか?と呼びかける。

 (3)観光客
 観光に訪れたカップルに、 「お2人の想い出の地でぜひ、 Happy Ceremonyを」とよびかける。

 利用料金は……。

 東大橋家の利用料金を一回30万円とする。 これにはCeremonyに関する相談料も含まれる。 また登録しているレストラン・料亭や土産物屋からは、 売上の15%を仲介料として入れてもらう。   
 結婚式場としての活用について、 述べてきたが、 それ以外のパーティーも受け入れるとして、 年間件数100件を目指す。 見込まれる事業収益は3千〜4千万円といったところか。


鳥越孝太郎
井原市議会議員

 国際的観光地として日本の歴史と文化に触れ、 備中・倉敷の伝統文化の玄関口として東大橋家を最大限活用した「くらしき伝統芸能らいぶ館」を提案したい。 これは、 倉敷を訪れる観光客の皆様に一年中を通して、 国指定の重要無形民俗文化財である備中神楽を年中無休、 毎日公演することにより21世紀にふさわしい躍動する新しい美観地区の魅力が加わるものと確信します。

 これまで、 美観地区は展示や施設を中心とした静のゾーンであり通過型観光で滞在時間が短く夜は人通りのまばらな寂しい所ではなかったか。 ハードは世界一級品でもソフトの充実に力を入れて来なかったのではないでしょうか。 それは料理を同じであまりにも「いい素材」「新鮮な材料」があるがゆえ、 刺身だけをきれいに飾り提供する。 さば寿司や煮物といった手間のかかるものはなくても十分、 観光客は来てくれるし県下で最大の観光地として満足していたのではないかと感じている。 これからは、 住民や民間が力を出し合って、 観光客参加や独自のイベントを創出することにより観光客が再び倉敷の地を訪れたいと思うような温かいもてなしをしなくてはならない。

 では、 なぜ備中神楽なのか、 それは世界の中で固有の芸能文化であるからだ。 世界に開かれた中核都市倉敷の実現には郷土に誇りを持ち、 郷土文化に目をむけて再発見しなければならない。 日本に神楽は約500あるといわれておりますが備中神楽は、 日本神話を題材にした日本誕生を知らせる神話劇であり、 舞やリズムの独自性から日本を代表する神楽であります。 世界中に、 たった一つしかない固有の文化を我々祖先は大切に守ってきました。 今、 世界に向けて発信する時がやって来たのではないでしょうか。

 また、 歴史的にも共通しております。 美観地区は、 倉敷の歴史の原点であり、 町並みはほぼ江戸時代と変わらない遺構を今日に伝え、 有形文化財の伝統的建造物の豊富な蓄積があります。 特に美観地区は昭和54年には、 国の重要伝統的建造物群保存地区として選定されました。 備中神楽も江戸時代に創案され、 昭和54年2月1日に文部省から国指定重要無形民俗文化財に指定されました。 こうした、 かけがえのない国の宝を「有形文化財」と「無形文化財」が同時に同じ場所で見られるというのは画期的なことではないだろうか。


永井 範子
蔵おこし涌々

 セミナーで多数の方々のアイデアを拝聴するのは楽しく、 参考になりました。 私も私なりに考えてみました。 まず、 東大橋家の件ですが、 駐車場のないのがネックとなるので、 あまり大勢集えない。 従って、 小規模なものになるが、 中心にある母屋の位置へ打放しの3階建てを建てる。 3階は美観地区を見渡せる休憩所にする。 2階はまちづくりやボランティア団体の交流の場に。 国際交流の場になったらもっと素敵だと思います。 1階は駐車場に。 まわりの蔵や倉庫はそれぞれ手を入れて、 食事ができたり、 郷土芸能の発表の場にする。 そこへ行ったら何かいつも楽しいよ!!と言う場所に……。 他に駅前の件ですが、 おしゃれなお店がもっと欲しい。 ちょっと気取って、 おしゃれしていく場所がない。 我々グループのネーミングと同じに涌々できる建物、 物が欲しい。 イオンが若者の場所なら、 駅の周辺は大人の場所に。 今後もアイデアを持ち寄って、 目先の観光のみに走らず、 まちづくりはじっくりと10年後を見据えて考えたいと思います。


西 斗志夫
都市基盤整備公団関西支社

(仮称)「倉敷まちや・まちなみ館」の提案
1 コンセプト

 ・まちや・まちなみ形成の経緯を人のつながりを含めて紹介。 また、 美観地区から、 旧倉敷、 市全体へのまちづくりのパワーを発信する前衛基地、 中核センターとする。 また、 その取締内容を市民、 観光客へ公開する。

2 空間構成

 ・コンセプトに従い、 交流・会議スペース、 情報・図書スペース、 展示スペースを設ける。

 主屋と庭:建替え、 本館を新築。 美観地区の中心にあるため、 2?3階建てまでとし、 適切に分節化する。 美観地区のまちなみとのバランスについては、 外から見える部分は少なくとも厳格に従うものとするが、 中庭・内部はアバンギャルドな試みも、 市民の賛同を前提に可とする。

 西側の蔵:3棟の蔵は、 倉の“暗さ“とまちや・まちなみ形勢の歴史を体験・体感するスライド&インスタレーションスペースとして活用する。

 長 屋 門:エントランス施設として活用。 長屋門横の倉は、 今のままでは中途半端な大きさなので、 “増結”する。

 その他、 市民のムーブメントとしていくためにも、 ゆっくりと情報を公開しながら進める。


藤川 泰三

 倉敷の美観地区は、 江戸時代の古い民家、 風景を伴う民家が多く、 観光資源に恵まれた特色のある町である。 しかし、 新聞等で観光客の減少、 宿泊客の減少等が報道されている。 美観地区の入口にあたる東大橋家の利用法について、 今までにない新しいもの、 魅力ある空間をつくらなければならない。 質の問題である。

 <提案>
 今までの美観地区は、 大原美術館、 まちなみなど「静の空間」、 その空間に「動」を加える。 東大橋家の中で、 国指定重要無形文化財「備中神楽」、 倉敷が誇る「天領太鼓」ができる建物をつくって欲しい。 公演ができるシステムにする。 宣伝等により、 観光客が呼べ、 宿泊客も増えるのではないか。 もちろん、 敷地内では倉敷のおいしい食事ができる場所も必要である。 チボリ公園は洋の世界、 美観地区では和の世界、 お互いの相乗効果を高めて行かなければならない。 健康で文化的な都市に、 備中神楽の夜神楽「夜の健全な娯楽」をぜひ取り入れていただきたい。


藤本まりこ
株式会社アイ・ツゥー・オー

 美観地区玄関として、 下記の複合施設である「ゲートハウス」を提案する。

 インフォメーション/探訪者同士の情報交換掲示板/犬の託犬所/タウンモビリティステーション/座敷休憩空間/大道商人街(ストリートパフォーマンス空間)

1 インフォメーション
 ・従来のビジュアルなインフォメーションに留まらず、 語り部的案内人のステーションとする。 話好きなシルバー人材等を活用し、 昔の姿を紹介しながら道案内のサービスを行う。 街の由来や巷話をしゃべりながらの案内は、 中心から離れたスポットへ誘導し安く、 地理に不案内な者へ安心を提供できる。 観光案内では知ることのできない、 地域住民レベルの案内・説明により、 肌で倉敷を感じられる、 出会いの空間。

2 探訪者同士の情報交換掲示板
 ・訪れた者しか気づかない倉敷の顔を紹介し合う空間。 掲示板へ、 写真・チラシ・落書き等の自由空間。

3 犬の託犬所
 ・ペット同伴探訪者の散策・食事・買い物時にペットを預かる(介助犬以外は往来の散策にも危険が伴い、 不便な場合が多い)。 犬に限定せず、 ゲージの設置で、 猫等小動物一般を託児する。 (託犬条件は、 ドックランパーク等の利用条件に準じることで、 安全な管理が図れる。 ペット用レストラン・トイレの設置も今後の観光地には必要である。 )

 ・少子化に伴いペットを家族と考え、 散策はもとより旅行も同伴を希望する傾向がある。 また、 機能弱者を介助する介助犬、 盲導犬、 聴導犬等を伴う人口も増大の傾向にある。 誰でもが、 自由に訪れ楽しめる「場づくり」に、 ペットへの配慮は欠かせないアイテムである。

4 モビリティステーション
 ・機能弱者のための電動スクーターや車椅子・ベビーカー等を、 無料又は低料金でレンタルできる場所。

5 座敷休息空間
 ・散策につかれた「足」をのばす休憩の場である。 美観地区玄関となる懐古的空間との境界で、 つまり起点又は終点で靴を脱ぐことは、 我が家へ帰った安堵感を与え、 有意義な休息の場になる。 椅子式の方が有効な機能弱者には、 炉辺風等のくつろげる空間の提供も必要である。 くつろげる空間こそ、 旅先の出会いや目新しい発見の楽しみを育むものであり、 ここで得られるゆとりと癒しが刺激を増強させ、 一歩踏み込んだ散策を促す。 疲れない散策を提供することで、 結果、 リピート客の増大を促すと考える。

6 大道商人街
 ・これは、 本邸敷地の広さから、 複合的には邸内に無理であろう。 町の一角に集める提案である。

 ・ノスタルジック&モダンで良質な空間を提供する街並みから、 露天商を排除したい意向が伺えたが、 良質な空間へのアクセント・ブレス空間として、 一区画に集めてはいかがであろう。 白壁で囲まれた庭的空間や旧家を提供した、 自由に出店できる大道商人街は、 商人の町倉敷の幅広さを演出するであろう。 探訪者の年代層に厚みがつき、 変化ある空間づくりになると思われる。

 ・ストリートパフォーマンス(大道芸)は、 一時のくつろぎにアクセントを与えるアートである。 ブレスタイムのアクセントは、 散策の滞留時間を延長させる効果がある。 よって、 休息の場から楽しめる空間に欲しいアイテムである。

 本邸は美観地区の玄関といえる立地にあり、 また本邸の趣をいかした活用として、 探訪者へくつろいだ散策を促す視点からの要素を考えたものである。 旅行者に限らず、 日常を離れた一時の休息を求めた人々の多くは、 帰途で「楽しかった」と同時に「疲れた」という。 日頃の運動不足を原因とする「疲れ」は仕方ないにしても、 疲れない休息が得られる町であって欲しい。 心地よい賑わいとリズムのある、 良質な空間を時代の流れに乗せていければ、 「商人のまち くらしき」の一層の発展・継続が図られると考える。

 簡単な提案ですが、 あまり新しすぎる施設や便利すぎる設備は、 ガイドブックを片手に訪れる人々にとって、 美観地区のイメージとの調和が混乱する恐れがあるので、 なるべく現状をいかした施設をイメージしています。


堀口 浩司
株式会社地域計画建築研究所

 過去何度か倉敷を訪ねたことがあり、 美観地区については、 非常に良く整備されてきたものだと思う。 美観地区の周辺に目を転ずると、 恐らく多くの方の感想と同じく商業地区(商店街)の凋落は著しいものがある。 早島町、 岡山市との市町境界あたりの沿道型郊外店舗に客を取られ、 昔からの顧客を持った広域買い周り店など一部をのぞき、 かなりの店舗は瀕死の状態にある。

1 美観地区への企業誘致
 さて美観地区については、 地区全体が「テーマパーク」あるいは「街ぐるみエコ・ミュージアム」といった形で、 形態を保全しつつ、 中身は現代的な利用に展開するということに尽きるとおもいます。 ただ、 現代的利用というと、 観光客相手の飲食物販店というのが世の常であり、 外部経済(お客さん)に依存しているのが大部分である。 本当はデザイン事務所やコンサルタント、 設計事務所など経済的にはマイナーだけど元気な企業がもっと立地するような内発的な活力が欲しいところである。 まちの活性化になりそうな元気のある組織を誘致するような施策がないのでしょうか。

2 東大橋家について
 場所は重要なところだと思いますが、 建物として魅力があるのは門と奥の蔵ぐらいでしょうか。 門構えだけ残して、 内部は別の用途に使えるように思い切って解体しても良いのではないでしょうか。

ちよっと乱暴なアイデアかも知れませんが、 結婚式場やレセプション・パーティー会場などには使えませんか?用途的にはアイビースクエアと競合すると思いますが、 ホテルで高額なイベントは昨今の景況ではあまり流行らなくなってきました。 (アイビースクエアもホテルとして見ると、 少し緊張感が足りないのが気になります。 オペレーションはドミトリー感覚だけど値段はホテル並ではね。 )

 注)客層について
 倉敷という地域が全国的に知られるようになったのは、 「良い日旅立ち」「アンアン・ノンノ」の時期でしょうか?その時期の客層をずっと今日まで引きずっているのでしょうか? 最近の十代の子達が来るような場所ではないのでしょうね。 ベビーブーマーがリタイアする時期になると、 また倉敷にも大挙して訪れるかもしれませんね。 (いずれにせよ、 データがないので正確なことは言えません)


前田 裕資
学芸出版社

1 まずはゆっくり考えて欲しい
 外観については、 現状でもなんの問題もないと思う。 急いでなにもしなくても良い場所ではないか。 急いで何かを作らないで欲しい。

2 母屋をつぶすなら、 当面は空き地で
 私が倉敷の美観地区に期待するのは歴史性だ。 だから母屋をつぶすと決めてしまうのは、 早計だと思う。 修復すべきではないか。 しかし、 危険だし、 修復するお金もないからつぶす以外ないのであれば、 当面は何も建てないでほしい。 たとえば母屋のあった場所をかたどって藤棚(神社の藤を分けて貰えないだろうか?)をつくるなどして記憶を継承してはどうか。 夜は静かめの音大の学生のミニコンサートなどを藤棚の下で開けるとベスト。 美観地区とその周辺は夜は飲み食いの場所しかなく、 歩いてもゴーストタウンみたいでつまらない。 音楽が流れていて人のかすかなざわめきが漏れてくると楽しい。

3 蔵は無名ブランドの登竜門に
 蔵は修復して世界的なブランドに入ってもらうのが一番。 イタリアなどでは歴史地区には必ず高級ブティックがある。 ついつい買ってしまったりする。 美観地区のお店はお土産やさんで、 一部を除いて質がありきたりだ。

 ただ、 欧米のブランドが都合よく関心を示すとは限らない。 それなら鞄や服飾、 その他の若いデザイナーの登竜門的なショップを目指してはどうか。 一流ブランドに群がる時代もそろそろ終わり、 自分ブランドを探す時代になるだろうから、 商機はあるのではないか。 1年?数年契約で安く貸す。 繊維業界にも応援してもらい、 コンペや審査会も公開にして、 倉敷の市民や業界が認めた無名ブランドという感じになると面白い。 良く売れた人には、 隣の商店街等の空き店舗を斡旋して、 お店を出して貰えればなお良いのではないか。

4 運営はNPOで
 運営はNPOで出来るとしても、 蔵の修復費用ぐらいは市が持たないと難しいのではないか。 いずれにしても、 あまり大きなお金を動かさずに、 智恵と工夫でイベントを運営したいもの。


松田 昌弘
株式会社藤木工務店倉敷支店

 楢村先生のような洗練された素晴らしい感性を持たれた建築家のアート「作品」と、 伝統的なアルチザンの「技」(=アルテ)が見事に調和し、 独特の雰囲気を醸し出している倉敷という「ブランド」イメージがもっともっと市民権を得ることを望みます。 元々の住民は、 楢村先生のおっしゃる「旦那」的なディレッタントを除き、 ほとんど「美観地区」を代表とした倉敷のウソ臭さを感じているか、 無関心のように思います。 しかし、 一度倉敷の外に出たことのある人は、 倉敷の良さに気づきます。

 倉敷市内の古くからの住宅(古民家?)には、 驚くほど「茶室」のあるところが多くあります。 茶道の美意識は、 すごく倉敷の住民のベースにあると感じます。 大原さんの方向付けた「倉敷」というブランドイメージが好きですし、 西洋と東洋を融合させる建築美、 まちのたたずまいは、 茶道や禅の感性を持ち、 とび抜けた建築家の作品と伝建地区の中に喜んで造る柔らかさを持った倉敷市民だからこそできるとも感じています。

 倉敷駅周辺は、 数社の土地管理会社の土地の上に複数の権利者が重なり合って、 再開発も難しい状況です。 元々高い美意識を持った人々が多く住む土地柄ということを信じていますので、 東大橋家を含むまちの地盤沈下を解決したいと心から望みます。


松久 喜樹
大阪芸術大学

 東大橋家の建築を見学したあとだけに、 楢村氏の今までの作品を見せてもらって、 その変化には驚くほかない。 しかも、 費用は基本的には新築と同等額でやれるよう努力されていると聞かされて2度びっくりであった。 必ずしも和風にこだわらず、 現代におけるモダンなデザインを追求しておられるのにも賛同できた。 動的保存とはこういったものだろう。 住みたくなる魅力があれば、 保存保存と言わなくても再生されていく。 これも作法であり、 このような流れが広まれば、 地域の特徴が残していけると思う。

 去年、 JUDIの会からベトナムに行く機会があったが、 中部の都市ホイアンを思い出す。 日本人町が昔あり、 その重要伝統的建築物保存地区が修復されている。 日本でできないような街全体の復元が地道に行われ、 今やベトナムの大観光地で、 多くの外国人、 特にフランス人が見られた。 日本からの研究者の修復現場にたまたま出くわし、 その現場を見せてもらった。 日本人が中心になって海外でこのような活動をしていて、 日本国内でできなかったら問題だろうと思う。

 倉敷は日本における街並み保存の一つの可能性を秘めている場所であり、 関係者のその努力にエールを送りたい。 街中を見て廻るとけっこう狭い道が入り組んだりしていて空間が面白い。 空間の持っている伝統の継承を行いながら、 今の時代に必要とされる大きな空間、 特に室内空間をいかに得ていくかは一つのデザインの課題だろうと思う。 歴史地区の内外の際のデザインのあり方とか、 重要な場所の風景デザイン、 観光客と生活者との評価の違いなど、 多岐にわたる課題のバランスをどうとっていくか。 経済のことも考えながら美意識を高めて、 さらにいい方向に連鎖できればと期待したい。


丸茂 弘幸
関西大学

東大橋家住宅を「風景創造センター(仮称)」へ
 東大橋家住宅を美観地区への入口として捉えるべきではない。 そこからは何も創造的なものは生まれないからだ。 むしろここは、 美観地区を出て、 一般市街地に入る入口として捉えるべきなのだ。 素晴らしい美観地区を体験したあと、 ここに立ち寄る人々に、 あまり魅力的とは言えない一般市街地をどうするのか、 そこに美観地区に負けない美しい風景を取り戻すために何ができるのか、 そう問いかける場にすべきである。

 美観地区から一般市街地に攻め込む前衛基地、 「古の中のアバンギャルディズム」を実践する場として、 東大橋家住宅は実にふさわしい場所を占めている。 和洋文化の融合した大原美術館に近接しているのも良い。

 ここに建つ施設のテーマは、 保存ではなく創造であるべきだ。 もちろん古の中の創造、 伝統との連続性を保持した真の創造である。 昨日の楢村徹さんの話には共鳴するところが大変多かった。 「風景を意識しつつ、 保存よりも魅力的な空間の創造をめざす」。 この楢村イズムを世に広め、 日本の都市風景の再生を図る運動の拠点として、 「風景創造センター(仮称)」の創設を提案したい。 これは倉敷市の仕事であって、 楢村さんの仕事ではない。 楢村さん自身は、 地元に限定して仕事をする今のスタンスを維持して欲しいというのが、 余計なお世話でしょうが、 私の個人的な希望である。


山本 茂
財団法人生活環境問題研究所

1 東大橋家に導入する機能
 美観地区の入口という立地条件をいかして、 インフォメーション、 文化情報発信、 休憩 ・交流などの場として活用してはどうでしょう。

 ・美観地区もチボリも同じテーマパークと考える人が多いのは、 倉敷の成立ちをほとんどど知らないまま、 なまこ壁の家並みと美術館を見て、 アイビーに泊まり、 エル・グレコでコーヒーを飲んで、 むらすずめを買って帰るからだ。 美観地区はかつて海であり、 だから海にちなむ地名が多いこと、 江戸時代に天領として繁栄したこと、 大原家の社会・文化活動、 近年の街並み保存活動など、 話題は一杯。 これらの情報を楽しく提供できたら、 倉敷の街が立体的に見え、 それなら阿智神社まで足を伸ばそうか、 また倉敷に行こうかと思う人が増えるのではないか。

 ・倉敷やその周辺には、 文化的な土地柄に加えて芸術系大学も多いことから、 美術、 音楽、 クラフトなどの分野のアーティストが多いのでは。 これらの人・グループが2週間程度作品を発表できる場として開放すれば、 あるいは土・日曜日に音大のミニコンサートやジャズグループによる演奏などがあれば、 倉敷の文化振興に寄与するだけでなく、 倉敷を訪れる内外のビジターに、 倉敷は古いだけでなく、 新しい文化の街でもあるよ・・と言うことを伝えられる。

 ・倉敷の街を歩いた後に休憩できる、 あるいは展示や作品をリラックスしながら楽しめるよう、 カフェやショットバーのようなものが欲しい。 その場合、 すぐ近くにあるエル・グレコとの差異性の演出が必須。

 ・倉敷の街が、 様々な活動グループのネットワークによって育てられていくことを期待するならば、 東大橋家がグループの交流・情報拠点として活用することも考えられる。

2 東大橋家の空間イメージ
 重厚な長屋門が、 道路からやや角度を振ってやや控えめに、 しかし美しく立っている街並みを残す。 このために、 新たに建物をつくる場合でも、 長屋門越えに中の建物が絶対見えないようにすべきでしょう。

 インフォメーションや文化情報発信などの機能を導入するならば、 何かしらの施設が必要でしょう。 その場合、 アバンギャルディズムの考えに従うならば、 伝統的な様式よりは、 現代的でやや仮設的なイメージの構造物(例:ガラスなどを用いた透明感のある建物)の方が長屋門や蔵と対比的に調和し、 空間的にも面白いと思います。

3 建設と管理運営
 市では、 民活を考えておられるようですが、 上記のような公益的機能を導入するならば、 整備費は主に市が負担すべきでしょう。 管理運営は、 民間企業でも可能ですが、 機能の性格から、 NPOなどの市民活動グループが担うのがベストです。 さらに付け加えるならば、 倉敷を愛する全国の人々に呼びかけて建設・運営資金の一部を集めて運用し、 出資者は音楽祭に無料招待されるなどの特典があるなど、 国民参加型PFI方式のようなものも考えられるのではないでしょうか。


吉野 国夫
株式会社ダン計画研究所

 伝建地区は、 30年以上前に訪れてから何度も足を運んでいるが、 基本的な形は全く変わらず、 よくここまで維持されたと感心している。 ディテールの美しさ、 使い込まれた美しさというものが、 いわゆるテーマパーク的な復元空間にない奥行きを与えている。 エル・グレコは外観、 内部、 そして女主人まで、 そうした見事な証人となっている。

 一方、 近年付加された土産品屋などには少し薄っぺらなデコレーションも見られるが、 他の観光地に比べればまだまだ大丈夫と思えるが、 確実にその方向に動いているだけに十分な抑制が必要である。

 倉敷にアバンギャルドな空間を発見しようと歩いた。 蔵Puraやはしまやは立派ではあるが、 それではない。 むしろひっそりと在ったジャズ喫茶や古ぼけた商店街のキラッと光る店に見いだしたように思う。 これらをどう生かすかが問われている。

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