大阪駅北地区国際コンペを考える
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大阪駅北地区国際コンペを考える
大阪大学大学院 鳴海邦碩
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はじめに
今回は「大阪駅北地区国際コンペを考える」というテーマで進めていきたいと思います。
JUDI会員も何名かが応募されています。 了解が得られた3つの作品を紹介していただき、 それぞれの作品の講評、 意見交換を行うと共に、 大阪駅北地区において期待すること等についても意見交換をしていこうと思います。
私はこのコンペの審査に関わりましたので、 私の方からは応募作品がどのような状況であったかをご説明して、 イントロとしたいと思います。
大阪駅北地区国際コンペの位置付け
この国際コンペには、 「21世紀の関西を先導し、 都市の活力を生み出すような都市開発の提案」「世界に誇ることができるような、 都市のあり方を示す提案」をしていただこうという狙いがありました。
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大阪駅周辺地図(出典:『まちに住まう−大阪都市住宅史』特別付録より)
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戦前の大阪駅周辺の地図です。 元々、 大阪駅の周辺一帯は湿地帯でした。 運送のために水路を使うという歴史があり、 駅の南地区や今回のコンペ対象地区である北地区にも若干水路が見られます。 そのこともあって、 応募作品には運河の提案が多く見られました。
応募作品数は国内が603作品、 海外が363作品、 合計966作品でした。 それとは別に、 規定に合わないものが40〜50作品程度ありましたので、 合計すると1000作品を超えていました。
一つのチームに10人関わったとして、 単純に計算しますと、 966作品×10人=9660人≒1万人となり、 約1万人が数ヶ月間、 大阪駅北地区について考えたことになります。
また、 作品によっては、 相当なお金を使ったもの、 ほとんどお金を使っていないものと様々ですが、 平均して1作品あたり50万円くらい使ったと仮定すると、 966作品×50万円=4億8300万円となり、 約5億円が使われたと試算できます。
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海外からの作品分布状況
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海外52カ国からの363作品の分布状況です。
ヨーロッパ、 中でも旧東欧の国々の方が、 非常に多く応募されています。 自国の仕事が忙しいのかもしれませんが、 意外に韓国・中国の方からの応募は少なかったです。
約1万人という多くの人が大阪や関西の将来について考えたわけですが、 賞金がそれほど大きな額ではないため、 賞金だけの関心ではなかったと思います。 現在の世界中のアーバンデザインや建築の仕事の状況を反映しているとも考えられますが、 我々としては、 大阪や関西に対する愛情が溢れ出た結果であると理解する方が良いと思います。
966作品には様々なレベルのものがありますが、 それぞれに教えてくれるポイントがあります。 ここに寄せられたアイデアを活用しなければならない、 つまりそれらから学ばなければならないと感じました。
応募作品には、 様々なまちづくり組織を編成しながら対応していかなければならないというアイデアが非常に多くありました。 これまでのまちづくりのように、 ディベロッパーが一気につくってそれでお仕舞い、 という時代ではないということが、 多くの方々の認識にあるようです。
また、 将来の都市が備えるべきアーバンデザインに対する考え方の提案も多く、 それぞれの作品に評価すべき内容が含まれていました。
落選した作品の扱い方については、 まだ明確な方針が示されていません。 しかし、 大阪の将来に対して966作品という多くのアイデアが出てきましたので、 これらを作品集・アイデア集としてまとめて、 公表するのが主催者の役目ではないかと提案しています。
コンペ応募作品の類型
全作品を以下の11類型に分けました。 分類基準と作品の状況を簡単に説明します。
◇1。 モニュメンタルな建築
一時代前の都市コンペにはこのような作品が多く見られました。
◇2。 都市構造の提案
・対象地区に明確なシステムをもったインフラあるいは建築を提案しているもの。
・類型1よりシステム的なもの。
鉄道・自動車・人などの「流れ」がこの地区でどのように折り合わされれば良いかに重点を置いたものや、 「流れ」をこの地区に持ち込まれるシステムに置き換えて表現しているものなどが見られました。
◇3。 建築システムの提案
・類型2にも該当するような作品で、 個々の建築または建築計画において、 とりわけシステムを提案したもの。
とても考えさせられる提案が多く、 最近行われている様々な開発はこのようなスケールで考えられていないことが多いのではないか、 という観点から考えて欲しいという意味での提案が多く見られました。
◇4。 立体緑化
内容はそれぞれ異なりますが、 「建築に該当するものを全て緑で覆う」「人工地盤で丘をつくる」という表現が多く、 似たものが多くなっていました。
◇5。 導入機能
・アーバンデザイン的な要素よりも、 どのような役割を与えたら良いか、 あるいはどのような機能がここに導入されたら良いかに重点を置いたもの。
・基本的には対象地区に導入すべき機能あるいはそのコンプレックスに重点を置いたもの。
・多様な人々がこの地区をどのように利用できるかの提案を含んでいるもの。
言葉の多い作品が多くなっていました。 それぞれに色々なコンセプトをもっており、 提案している内容も面白いものはありますが、 空間的にどう展開するか明確でないものが目立ちました。
◇6。 テーマパーク
・中身は必ずしもテーマパークではないが、 表現の仕方と地区の考え方がテーマパーク的イメージで捉えられているもの。
◇7。 地域システム
・対象地域だけに限らず、 近畿圏といった広域、 あるいは大阪市のほかのエリアも考慮に入れて、 関連性を提案し、 広域的にこの地域を捉えた中での体系を提案しようとしたもの。
表現する分量の制限もあり、 広いところから攻めていくとこの地区のユニークさを表現するところになかなかたどり着けない、 という問題もあるように思えました。
◇8。 コンセプト
・コンセプトコンペであるため、 もちろんコンセプトが表われている必要があるが、 アイデアやコンセプト、 イメージ提案を主としており、 具体的な内容をもっていないものや、 それを踏まえた施設・空間構成を提案しているがこじ付け的レベルを脱していないもの。
言葉とその言葉がもっている意味を前面に出したものなど、 非常に考えさせられるものが多くありました。 また、 人工素材を新たに開発して、 それでこの地区をつくっていくことにこだわって提案したものもありました。
◇9。 単一テーマ
歩く街、 歩ける空間にしたらどうかということだけを追及した作品や、 空き地のままでフリーマーケットのようなものをやって展開していったらどうかという作品などがありました。 私は、 このような提案は結構多いかと予想していましたが、 意外に少なかったです。 やはり、 ビルを建てるという現実的な方向を皆さんが考えたということだと思います。
◇10。 表現技術の不足
ふるさとの山の環境をここにもってきたいなど、 なかなか考えさせられる提案も多くありましたが、 プロの表現として一定の水準に達していないものです。
◇11。 全体的空間構成の提案
・都市環境デザインという観点で、 地区の都市環境デザインとして一定の総合性をもち、 まとまっているもの。
インフラの構造とオープンスペースや建物が具体的に構成されており、 また、 建築システムや地域システムなど様々なものを複合させてひとつの都市空間として組み立てているという特徴があります。 中には、 まるで航空写真そのものに見えるような面白い表現をしているものも見られました。
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類型別の数
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類型別の数を示した図です。
類型1「モニュメンタルな建築」が1割程度、 類型2「都市構造の提案」が2割程度でした。 類型3「建築システムの提案」、 類型4「立体緑化」、 類型5「導入機能」、 類型6「テーマパーク」、 類型7「地域システム」、 類型9「単一テーマ」はいずれも少なく、 類型8「コンセプト」は非常に多くありました。 類型10「表現技術の不足」が3割程度あり、 類型11「全体的空間構成の提案」が1割程度でした。
ここまで、 コンペがどのように内容で進んでいって、 どのような提案があったかということを簡単にご説明しました。
次は、 実際に応募された方々に、 それぞれの提案内容をご報告していただきたいと思います。
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